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四杯目 黒と赤と僕と昔

僕は、アレだ。

本当はミュージシャンになりたかったんだ。

高校の時はバンドもやってて、結構人気もあったりした。


唄った。


色々、色んな事を唄に乗せて歌いまくった。


けど、今、僕はこの様だ。

じゃあ、何を唄っていたんだろう?

結局、一体誰に唄っていたのだろう?

それを僕は、ちゃんと解っているんだろうか?

解っていたんだろうか?


いや、


そもそも何を理解わかっているんだろう―――?



本当に疲れてきた。

ただ座っているだけでも、疲れることは疲れるらしい。

あれから少し減ったコーヒーを持って、僕はまだ座ったままだった。

もう、陽は傾きつつある。

本当に長い間ベンチにただ座っていた。

本当に、疲れてきた―――

さっきからずっと、嫌な考えばかりが浮かんでいた。

何か、

何だ・・・。

解らないけど、苦しかった。

何か、諦めた何かが・・・。


「あはははは」

「あはははは」


不意に、笑い声がした。

小さな、男の子と女の子の声だ。

自分が笑われたのかと思って、僕は勢いよく頭を上げた。

見えたのは、


二つのランドセル。


赤と青の、二つのランドセル。

小学生だ。どうやら、僕を笑ったわけではなさそうだ。

楽しそうに、向き合いながら笑顔で家路を辿っている。

仲の良い、二人なのだろう。

あぁ、きっとそう。

不意に、黒が言った。

「きみがスキだよ」と。

本当にすんなりと、容易く言ってのけた。

ポカーン、と、なる僕。

呆然と、彼等が歩いていくのを見守った。

簡単に言うもんだ・・・。

と、心から思う。

僕はどれだけ気合を入れて、死にそうなくらい鼓動を刻む心臓を抑えて、彼女に告白したと思ってるんだ?

それを、簡単に言ってのけた。ガキが。ただの小学生だ。

一年生くらいだろうか。

全てをまだ見切れていない、そんな年の頃。


なぁ、少年。


心の中で、あの子に話しかける。

人生そんなに簡単じゃないんだ。と。

遠ざかる二人を見ながら、皮肉を浮かべた表情になる。

僕にも、そうさ。小さな頃に好きな子が居たんだ。

仲が良かった。

一緒に帰りもした。

周りからも、“そういう二人”として見られてた。

だから、僕は言った。

「スキだよ」と。

彼女も笑って、

「わたしもスキだよ」と言った。

小学一年生の時だ。

本当に、嬉しかった。

本当に、幼心ながらに嬉しかった。

だけど、どうだ?

今彼女はどこに居る?


知らない。


どこか遠くなのか、結構近所なのか。さぁ、どこで暮らしているのだろう。

幸せにしてるのか、それともそうでもないのか。

解らない。知らない。知ろうとも思わない。


なぁ、少年よ。


これから色んな事があるんだぜ?


――心から、黒い思念だけが浮かび上がって、心の中で少年を追い詰める。


これからもずっと、その子と一緒に居られると思ってるだろう?

だけどな、そんなに簡単じゃないんだ。

これから、いろんな男が彼女の前に立ちはだかるんだ。

それを、そいつ等全員を避けて、立って、彼女を守れるか?

無理だね。


――心の中で、そう言い切る。黒い、暗い感情が心の中で言葉を吐き続ける。もう、二人の姿は見えなくなっていた。


絶対に無理なんだよ。そんな事。

彼女だって、心変わりもするだろう。

気付いたら、隣に居なくなっているんだ。

そうしたら、あとは泥沼だ。

顔を合わせるだけで、気まずくなって、顔を背けてしまう。

それは自分だけで、相手はなんとも思ってなかったと気付いて、尚傷つくんだ。


なぁ、少年よ。


僕は心の中であの子に話しかける。

それでもお前は、彼女を好きだと言えるかい?と。

僕は心の中で、少年に聞いた。

本当に、自分でも冷たい声だと思った。

それでも、心の中の少年は、笑顔のままで胸を張って言うんだ。

「ぼくは、きみがスキだよ」と。

僕を通して、彼女に向かって言うんだ。

屈託のない笑顔で、何も恐れることなく。

ああ、そうさ。

そうさ。そうなんだ。

僕は目頭を押さえた。

一途なんだ。

本当に、呆れる程。

泣きたくなる程一途で、彼女を思って、夢追いかけて・・・。

「すぅ・・・」

何かが溢れそうになって、僕は息を吸った。

あんな気持ち、どこにやったっけ?

どこに、隠しちまった?


格好つけて、強がった。

アイツなんて、もう何でもないよ。と。

何だ?

大人気取りか?

素直な気持ちも言えないままで、ヘラヘラ笑いやがって。

ああ・・・。と、僕は顔を上げる。

あの子が歩いていった方を見て、

なぁ。と、笑う。


なぁ、少年よ。


頑張れよ。


彼女を一途に思ってやれよ。

頑張れよ。

彼女が好きなんだろう?

くじけないでさ、胸張って彼女が好きだって、伝え続けろよ。

彼女が嫌になるまで、伝えて伝えて、馬鹿らしくなるまで言ってやれよ。

なに。

別に僕の分まで、とは、言わないけどさ―――

長くなりました。

主人公がものすごく浸ってます。

ただの妄想してる危ない人にさえ見えます。

昔の彼女とのやり取りが妙にリアルなのは気にしてはいけません。

ともあれ、楽しんで頂ければ幸いです。

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