三杯目 ボクサーと僕
さて、どれくらいの時間が経ったろうか?
本当に時間が経つのも忘れて、僕はだたベンチにコーヒーを抱えて座っていた。
本当に、それだけ。
携帯電話をいじるでもなし、どこかを見ているわけでもない。本当に何もしていなかった。
半分眠っていた、と言っても別に差し支えはないだろう。
ああ、いつもなら、今頃営業に回っている時間だな・・・。と、歩いているサラリーマンを見て思う。
いや、本当なら、もっと別の―――
と、そこまで考えて、僕は頭を振った。
いや、全て終わった事だ。
仕事とか、そんな事以前の、まだ夢を持てていて、それが当たり前だった頃の事。そんな事は今更思い出したところでどうなるものでもなかった。
僕は更に暗くなってしまった思考を払おうと、ふと、重い頭を上げた。
そして目に映った先。
昔、よく彼女と歩いた道が見える。
今の彼女の前の彼女とよく歩いた道。
その道を、一人の男性が走っていた。
並木道をジグザグに走り、何度も往復を重ねている。
シャドーボクシングをしながら、走る。走る。
ひたすら走って、流れるあせも、そして自分を見ている僕にも気付くことは無い。
恥ずかしくないのだろうか?と、ふと思う。
僕は勿論の事、周りにも彼を目で追う人が多く居る。
その中で、必死になってシャドーボクシング。
恥ずかしくないのだろうか・・・。
もう一度考えて、
いや、と首を振る。
気にしないのだろう。と。
人に見られようが、どう思われようが、気にしないのだ。
―――何故だろう?
何で、あんなに自信が出てくるのだろうか?
今は昼頃。決して人通りは少なくない。
そんな中を、何であんなに自信を持って走れる?
あんな映画に出てくるような格好をして、手にテーピングをして、シャドーボクシング。
恥ずかしいとか、本当に思わないのだろうか?
もう一回考えたが、
やはり僕は頭を振った。
いや、と。
自問自答に区切りをつける。
信じているんだ。
僕は思った。
そうだ。信じている。
自分を。
自分が選んだ道を。
ボクサーになろう、と思っているのかは分からない。まぁ、こんな時間帯にあんなことをやっているのだから、間違いは無いだろう。
ボクサーになる。もしくはチャンピオンになる、という夢のための努力。
自分が選んだ夢への努力。
それのどこに、何を疑う事がある?
恥じる事がある?
彼はそう思っているのだろう。
だから誰に見られようが、何と言われようが関係ない。
何故なら、それが自分の選んだ道だから。
僕は思わず顔を伏せた。
・・・彼に対して、僕はどうだろう?
そんな事を考える。
目指した夢を諦めて、仕方なく選んだ進路先の会社に入社して、今、どうしている?
結果、どうなった?
この様だ。
本当に情けないんだ。
情けなくて、まいってくる。
いつも格好つけて、強がって、言い訳臭く生きている。
無駄に悟った降りをして見せて、それ以上を知ろうとしない。努力もしない。
彼はきっと凄いのだろう。
僕には無いものを持っている。
この先有名にならずとも、自分の子供に自分の過去を胸を張って話せるのだろう。
ならば、
と、僕は顔を上げた。
未だ走りシャドーボクシングをする彼を見、思う。
ならば、どうか。
どうか、彼が試合に負けませんように、と。
僕はコーヒーに視線を戻して、心の中で祈った。
僕の分まで、とは、言わないけれど。
ジャンルを“恋愛”に変えたんですけど、大丈夫でしょうか。駄目なようなら又戻します。
ころころ変わって申し訳ありません。
ともあれ、楽しんでいただければ幸いです。




