二杯目 襟の如何ともどかしさ
僕は駅前の公園のベンチに座っていた。さっき自販機で買った暖かいコーヒーを飲みながら。
もうすぐ、東の空から朝日が高く上ろうとしている。徐々に、人の通りも多くなっていく。
僕の前を横切る人達。その数が多くなっていく。
だけど僕は、ベンチの上から動くことが出来なかった。
いや、動くことはできるさ。ただ、行く場所が無かった。
簡単な事だ。
君はクビだ――――
たったの一言が、人の人生を奈落の底へ突き落とす。
本当に簡単な事だ。
たったの一年ちょっと働いて、新しい出来る社員が入ってきたらクビ。
別に何かミスをしたわけじゃなかった。
それでも、僕はごみのように捨てられた。
彼女には、まだ言ってない。
言える訳がない。
僕の事を信じてくれている彼女に、どうして本当の事が言える?
リストラしたんだ―――
言える訳がない・・・。
「はぁ・・・」
僕はため息をつく。つきたくなるさ。ため息の一つや二つ。
昇る朝日が、僕を明るく照らす。
気が滅入るくらい、綺麗な朝日だった。
お願いだから、僕を照らさないでくれよ・・・。
怒りとか、悲しみとか、不安とか。そんな感情がごっちゃになって、更に太陽の光も相まって、僕に襲い掛かる。
・・・太陽の陽をこんなに眩しいと感じたのは初めてだ。
そんな事を考えながら、僕は顔を上げた。
上げて、周りに視線をやる。
僕がここにのんびりと座っている事が、段々不思議に思われる時間帯になっていた。
僕の前を通り過ぎる人達は、一様に僕に視線を向ける。
「何をしてるんだろう?」と言う目線は勿論、「ああ、アイツ・・・」と、解ったような顔で通り過ぎていく人も居た。
僕は全てを悟られないように、隠れるように身を縮めて顔を伏せた。
しかしそうすると、手に持ったコーヒーカップを見つめることになる。コーヒーに反射した僕の顔はとても情けない顔をしていて、僕はコーヒーカップを振ってそれを見ないようにした。
ああ、と、呟く。
僕は、本当に情けない。
ふと、コーヒーから目を背けて駅の方を見る。
すると、スーツを着た一人の男性が目に入った。何故か、と言えば、彼のシャツのエリが立っていたからだ。
しばらく目で追っていると、男性は、はたと立ち止まって襟を直し始めた。気付いたようだ。
ソレを見て、何故だろう、ズキン、と胸が痛んだ。
思わず、目を背ける。
背けて、「何でだ?」と呟いた。
何で目を背けた?と。
いや、答えは解っていた。
背けた理由。
自分を見ているように思えたから、だ。
周りを窺って、隠れるように襟を正す。
あの姿が、今の僕にそっくりだった。
本当に、もどかしくてまいるな・・・。
いつもの僕はどうだ?
彼女の前では何時も格好つけて、強がって、子供みたいな屁理屈をツラツラ並べて粋がってる。
それでも、いつも焦って、それを取り繕うために必死になって、それでも、それを認めることはしない。
本当に、幼稚なんだ、僕は・・・。
何故だか、こんな時なのに、いつもの自分が冷静に判断できて恥ずかしい。いや、こんな時“だから”、か。
だけど、と思う。
ああ、だけど。
あの人が、
さっきのあの人が、どうか、会社に間に合いますように・・・。と。
僕の分まで、何て、言わないけども。
二話目です。何か主人公が情けない感じになりましたが、気にしません。
ともあれ、楽しんで頂ければ幸いです。




