一杯目 下手な嘘
朝早く、俺は起きた。
ああ、違う。嘘だ。
眠れなかったんだ。
夜からずっと横になっていた。横になって、ごろごろごろごろ。
それでも、一睡もすることが出来なかった。
半身を起して、カーテンの隙間から僅かに差し込む陽を見る。
いつも会社へ向かう時間だ。
「んん・・・?起きたの・・・?」
僕の隣で、彼女が体を起した。
むにゃむにゃ、と目を擦って笑顔を作る。
「えへへ・・・、オハヨ」
屈託の無い笑顔。
その笑顔に、心が痛む。
「ああ、おはよう」
僕も笑った。
つもりだった。
でも、
「・・・?どうしたの・・・?」
彼女は言って、怪訝そうな顔をした。
笑えてなかったのだろうか。
僕は焦って答えた。
「なんでもないよ」と。
「大丈夫」と。
僕はまた嘘を言った。
何でも無くなかった。
大丈夫じゃ、無かった。
朝早い朝ごはんを食べて、スーツに着替えて、僕は玄関に立っていた。
「行ってらっしゃい。頑張ってね」
彼女は小さく手を振って、笑った。綺麗に笑った。
「行ってくるよ」
僕は、笑えているだろうか?
彼女がまた怪訝そうな顔をした。
上手く笑えていなかったらしい。
彼女が何かを言おうと口を開きかけた。
僕は何かを言われる前に、早々に家を出た。逃げるように。
向かう場所なんて、無いけど。
BUMP OF CHICKENの「ベンチとコーヒー」を僕なりの解釈で小説にしました。BUMPの小説はこれで二つ目です。十話にも満たない数で終わると思うので、楽しんで頂ければ幸いです。




