4またまた失礼な王女殿下
ダリルが席を立った所に、執事のハモンドが慌てて応接室に入ってきた。
「お嬢様、カトレーヌ王女殿下がお見えになられております」
「カトレーヌが?」
先に声を上げたのはダリルだった。
来るとは思っていなかったらしい。多分。
そこに突撃するようにカトレーヌ王女殿下が入ってきた。
「申し訳ありません。お待ち下さいと申し上げたのですが…」
侍女のメイアが。
「何を言ってるの?私は王女よ。私を待たすなんてあり得ないわ!ダリルお話は終わった?」
彼女はメイアにすっと一度視線をむけるとすぐにダリルに顔を向けた。
「ああ、ジュリアーナはちゃんと謝罪を受け入れてくれたよ。心配ない」
私は一応挨拶をしようとしたがそんな暇はないらしい。と言うか失礼だろう。
まるでこの部屋に居るのは2人みたいな顔だ。
「それで、彼女からの私への不敬に対する謝罪は?」
「あれは…こちらにも責任のあることだし、ねぇカトレーヌ。それはもう」
「なに言ってるの?王女である私が見下されたのよ。あなた、それを無かったことにしろって言うつもり?」
カトレーヌ王女殿下の声は尖り頬は不貞腐れたように膨らんだ。
「でも、こちらにも少し非があっただろう?」
「そんなの。でも、私を馬鹿にしたのよ!この人!」
いきなりカトレーヌ王女殿下が私の方に向いた。
ギロリと見据えられる。
あっ、見えていたんですか。と思った。
昨日言い負かされたことが相当頭にきたらしい。まあ、当然か。
蝶よ花よと大切に育てられ我が儘放題で義理妹と同じ。この世界はすべて自分の都合で回っている。
一度は受け入れた隣国の王太子との婚姻でさえ、嫌になればさっさと終わらせれるほどだ。
まあ、向こうもほっとしているだろうけど。
それに昨日のパーティーにも平気で顔を出してあんな真似ができた。たいした心臓の持ち主だ。
ダリルでさえ、この人には逆らえないみたいだし、まあ、だから昨晩のような失礼極まりない出来事が起きたのだろうけど。
ほんと。ダリル、こんな女のどこがいいのかって言いたいわよ。
私は見据えられた瞳を見つめ返す。
ああ、こう言うの前世の記憶があるからかな。
王族にわざわざ逆らわなくてもいいのに、無駄なプライドが意地でもって。
「何よ。まだ、文句があるの?」
カトレーヌ王女殿下がはっと何かを思い付いた。
「そうだ。いいことがあるわ。ダリル、彼女に離縁を強いた事。すごく申し訳ないと思わない?」
「ああ、だからこうやって謝罪を」
「でしょう。私、彼女に新たな嫁ぎ先を決めたわ。ルーカス・メートランド辺境伯。彼は数年前に妻を失くしているし、ジュリアーナもこのまま王都に居るのは辛いと思うの。だって、私達すぐに結婚するんですもの。ねっ、彼女にとってもそのほうがいいと思うでしょう?」
ダリルの肩にしなだれかかり腕を絡めながらカトレーヌ王女殿下の唇には勝ち誇ったような微笑みがあった。
「それは彼女が決める事で‥」
獲物に狙いを定めたような眼差しにダリルがひゅっと息を吐いた。
「あら、これほどの良縁はないと思うわ。帰ったらすぐにパパにお願いするわ。ああ、ジュリアーナ、あなたも楽しみにしておいて、すぐに新しい相手が出来るなんてすごい事よ。あなた賞味期限切れぎりぎりですもの。ねっ、良かったわね。うふっ、お礼はいいのよ。あなたにはほんの少しダリルがお世話になったんだから。じゃ、失礼するわ。ダリル帰るわよ!」
「ああ、それじゃ、お金はきちんとするから、君も新しい相手とお幸せに‥ちょ、待ってくれよカトリーヌ~」
「もう、ダリルったら‥」
廊下で二人のじゃれ合う声がしてそして部屋には静寂が訪れた。
「お嬢様‥大丈夫ですか?」
メイアが駆け寄った。
私はソファーとテーブルの間で放心状態になる。
辺境に?ルーカス・メートランドって確かかなり年配だった気が。そんな相手と結婚?
はぁぁぁぁぁぁ~?何であんたが勝手に私の結婚決める訳?
「だから、あんな人を相手にしてはいけなかったんです‥」
「だって‥」
メイアも私が何を言ったか知っている。それでも私のそばにいると言ってくれた。
2人ともそれ以上は何も言えなかった。
数日後、離縁届が教会で受理されたと手紙が来た。
そこには一千万ルルの支払い明細書も添えられていた。
お金は私名義の銀行通帳に入ったと言う事だ。
でも、家族には慰謝料を貰った事は話さなかった。話す必要もないと思った。
その日の午後当てもなく王都に出かけた。
メイアと護衛騎士を連れて宝石商に行き婚姻していた時の宝石を売る手はずを整えた。
「お嬢様、いいんですか?かなり高価な宝石もあります。手元に残されていた方がいいのでは?」
メイアが心配して尋ねた。
「そうかもしれないけれど、手元に置いておくのは嫌なの。思い切って売ってしまった方が気持ちも吹っ切れるかもしれないでしょう?」
「‥ええ、そうですね。あんな男のくれたものです。さっぱり売り払ってしまいましょう。そしてそのお金でお嬢様は何か気晴らしをして下さい」
「そうね。でも、気晴らしって言っても、ねぇ‥」
まだ、これからの事は何も決めていない。何をすればいいのか。何がやりたいのか。義理母の言ったようにどこかの貴族の後妻にでも入ればいいとは思っていない。
買い物から帰って来ると義理母が慌てて封筒を差し出した。
王家の封蠟が付いている。
急いで封筒を開封する。
” ジュリアーナ・スタールクス侯爵令嬢にルーカス・メートランド辺境伯との婚約を申し渡す。
この手紙をみたらすぐにメートランド辺境領に出発するように。
婚約期間は3カ月。年内に挙式を挙げること。
これは王命である。
国王 ローランド・デヴェーラ ”
きっとカトレーヌ王女が国王に泣きついたに違いない。王女も国王もろくでもない奴らだ。
私はその手紙をぎゅっと握りしめた。
すぐ横に義理母が来て手紙を覗き込んだ。
「まあ、ジュリアーナ。あなたこんないい縁談はないわ。さすが国王陛下だわ。辺境伯と縁せきになれるなんてすばらしい事よ。すぐに旦那様に‥あなた~」
義理母はうれしそうな声で父の書斎に向かった。




