3元夫の訪問
前日夕食の時父が「大丈夫か。いいからゆっくりしなさい」と言った。
私はありがとうございますとだけ返事をした。詳しい話は聞かれなかった。ただ離縁を言い渡された事は理解したと言う感じだった。
まあ、理由を聞かれてもこっちも困るのでそれで良かった。
翌日ダリル・バルハン公爵が来訪した。
元夫は父が迎えた。
「スタールクス侯爵。申しわけありません。一度ジュリアーナと話がしたいのですが」
「今さら何の話です?」
「いえ、昨晩はいきなり離縁を申し渡して申し訳はなかったと思っているんです。何しろカトレーヌ王女がうるさくて早く決着をつけた方がいいと急かしたので‥」
「バルハン公爵は離縁を後悔しているんです?」
「いえ、そういうわけではありません。が‥」
「まあ、これは夫婦の問題でしょうし、話しはジュリアーナとして下さい。今ジュリアーナを呼びますので話をして下さい」
私は応接室に呼ばれ父は席を外した。2人の会話の想像はついていた。私の希望でメイアに同席を頼んだ。
すぐに 「ジュリアーナ、体調はどうだ?」
向かい側に座った元夫が心配そうな顔で私に声をかけた。
結婚している時もそれなりに夫婦の会話はあった。おはよう。今日は遅くなる。夜会のドレスは宝飾品は自分の好きに選ぶと言い。などとそれなりの気づかいはしてもらっていたと思う。
食事も屋敷にいるときは一緒だった。でも、会話が続いたことはない。
この家と同じ。その場にはいるけどただそれだけ。
屋敷の事はすべて執事を通して確認などを行っていたので直接ダリルと話す事はあまりなかった。
なのにわたしの体調の事を気遣っている。
「ふふ‥ダリル様、離縁したらずいぶんお優しいんですね」
「なっ、私はいつだって君を気遣っていたじゃないか。それにあんなに場を悪くする気はなかった。カトレーヌが場違いな事を言って‥そんなつもりはなかった」
「ですが、ふつうあのような場所であんな事を言えばどうなるか。子供でも分かる事ですよね?私にわざと恥をかかせる気だった事は間違いありません。でも、もういいじゃありませんか。ずいぶんと勝手なあなたは離縁出来たんですし想い人と一緒になれるんです。自分が少し負い目を感じているからってそうやって謝罪して自分の気持ちをなだめようなんてずいぶん勝手なやり方です事。ほほほ。あなたがずいぶんな人だと思っていましたがこれほどとは思ってもいませんでしたわ!もう、おかしい」
わざとらしくコロコロ笑ってやる。
謝って自分だけ楽になろうなんて思わないで!
気がふれたとでも思ったのかダリルの顔が強張る。
「ジュ、ジュリアーナ。悪かった。穏便に離縁を受け入れてくれないんじゃないかと心配だったんだ。私がカトレーヌを好きだったことは知ってるだろう?だが、彼女が離縁してデヴェーラ国に帰って来るとは思っていなかったんだ。こんなチャンスは二度とないと思って焦っていた。悪かった。きちんと誠意を見せて離縁を頼むべきだった。それで、これは君に贈った貴金属だが受け取ってほしい。他にも慰謝料を支払うつもりだ。だから」
ダリルは私に送ってくれた宝石箱を差し出した。中にはかなり高額な宝石がたくさん入っている。でも、私は昨日はそれらすべてを持ち出さなかったのだ。
傷ついたプライドがそれらを持って行くことを拒んだ。彼から貰ったものなど欲しくはなかった。
「そんなもので許せると?」
「いや、そういうわけではない。でも、これは君のものだ。3年間公爵家を支えてくれたことは事実だ。だからこれは君の物だ」
更に手を差し出して宝石箱を真ん中にあるテーブルの上に置いた。
たくさんの宝石が入った箱。
すっと後ろに控えていたメイアが耳元で囁く。
「お嬢様。この先の事を考えれば頂いておいた方がいいのでは‥」
我が家の状況。父は義理母に甘い。彼女が私を追い出す気ならきっとそう仕向けられる。義理妹も嫌がらせをしてくるのは目に見えている。
それならばいっそ隣国にでも行ってしまおうかとも思う。それにはお金が必要だ。そう言う事ならば遠慮なくいただいておいたほうがいいのでは。
まあ、公爵家で一応公爵夫人としての仕事もこなしていたんだし。
「そこまでおしゃっていただけるならこれは有難くいただきます」
「ああ、そうしてくれ。離縁状にもこちらの都合の離縁と言う事で宝飾品はジュリアーナに譲ることを明記しておく。そして慰謝料として1千万ルル支払う事も約束する。君の名誉を気づ付けた事許してほしいと言うのは図々しいがこれで終わりにしたい。いいだろうか?」
ダリルはずいぶんと真摯な態度だった。
元々公爵家の跡取りと言う事で幼いころから厳しい教育が施されただろうと思えた。昨日のあの失態は彼の中でもかなりまずい状況と認識できているらしい。だったら最初からこういう話で終わらせればよかったのに。
後悔、後に立たずか。
「いいも、悪いも。どうしようもありませんから。あなたは最初から私を避けられていましたから、いつかはこんな日が来るかもと思っていました。ええ、いいですわ。これで終わりにしましょう」
「ジュリアーナありがとう。君も幸せになってくれ、じゃあ、これで」
ダリル様は重荷がおりたような清々しい顔で立ちあがった。
これで終わり。
寂しいでもない。やりきれないでもないが何だかもやもやした気持ちのままだが、まあ、それを言ったところでと思った。
彼の相手は王女殿下だ。これ以上何もなければいいと思うしかない。




