ある噂
「そのきっかけはある噂だった……」
お師匠様はそう言うと、ボクの耳に手のひらをあてがって、囁く。
「英雄は世界を消滅させる」
「あっ、それ聞いたことあるよ」
それはこんなボクでも知っている言葉。
「でも、それってただのうわさでしょ?」
そう言いながら、こくりと小首をかしげる。
「今はね……過去を見て、そう言い切れるけど、当時はそうじゃなかった……実際に英雄は世界を揺るがすだけの力を持っていたし、もともと英雄を訝しんでいた大国にはそれだけで十分だったの」
「それだけで十分だった?」
「そう、彼ら大国が英雄を制圧しようとするのに、十分だったの」
「英雄を制圧する!?」
ボクは思わずそう素っ頓狂に叫ぶ。
「そう、制圧……でも、直接に英雄に手を下すことはほとんどなくて、具体的には街道の通行を禁じたり、国に入れなくしたりすることが多かったみたい」
「英雄にそんないやがらせみたいなことしてたんだ、ちっちゃい国だね!」
ぷんぷんとしたボクのそんな言葉に、お師匠様はふふっと笑って。
「そして、そんな英雄にちっちゃい嫌がらせをしていた大国の内の一つが、あのアーガナージャの神話の時代に踏破商たちを砂漠に送り込んでいた国、バルカディア王国なの」
「お、やっと話が繋がってきたね!」
そう声をあげると、お師匠様は嬉しそうに、繋がりました~と語尾を伸ばす。
「それでね、バルカディア王国は、英雄たちにどんなことをしていたかって言うと――」
お師匠様はそこで言葉を区切ると、声音を薄暗ーくして。
「国に訪れた英雄たちを捕縛しては、砂漠に追放していたの」
そう言った。
「さ、砂漠に!?……あ、でもそれくらいなら」
「うん、英雄たちにとっては痛くも痒くもないでしょうね、彼らは強靭な生命力を持っていたから……でも、追放された英雄は二度と姿を現すことはなかった」
「え?どういうこと?」
ボクは思わずそう聞き返す。
「英雄たちも、そう思った、追放された彼らはどこへ行ってしまったのか……」
そう言って、お師匠様は、ふるふると手を振る。
すると、ぱっと、お師匠様の手の中に、一冊の本が現れた。
「それは?」
「これはね、そんな不思議に立ち向かった英雄たちの記録」
お師匠様はその表紙に書かれた文字列を指でなぞる。
「とりまるの書?」
「いいえ、メリアちゃん、これは、カラスマの書って言うのよ」
「へぇー、そう読むんだ……」
「カラスマの書、それは不思議な喋る刀が紡いだ書……まだ英雄たちが世界を救う前の太古の物語――」
お師匠様はそこまで言うと、声音を語りてのそれへと調律する。
「ではご清聴ください、烏丸の書、このお話は、彼らがバルカディア王国を訪れたところから始まります……」




