英雄排斥主義
「英雄排斥主義……? もちろん知らないよ!」
「ふふっ、じゃあ、それから、解説しましょうか……えへんっ」
お師匠様は咳ばらいをして、声を形作る。それはいつもより、ちょっぴり理知的で、優しい声。
「英雄排斥主義は、その名の通り、英雄を排除しようとする考えのことを指すの」
「それは、なんとなくわかるけど……でもなんで、そんなことをするの? 英雄は魔族から人類を救う救世主なのに……」
「そう、メリアちゃんの言う通り、英雄は人類の救世主、なんてったって、自分たちを虐げる魔族たちを圧倒的な力で狩っていくんだから、当たり前よね」
そう言いながら、お師匠様は、骨の近く、苔むした倒木を見つけると、そこに腰掛け、ぱんぱんと隣を叩く。
「おいで、メリアちゃん!」
「うん!」
ぽふっといい感じにクッションとなる苔をお尻で感じながら、ボクはお師匠様を見つめる。
「っと、ここで問題です!」
「おっ、きたね!」
お師匠様お得意の問題、ボクは背筋を伸ばして、それに身構える。
「英雄は、人間たちを虐げる魔族を狩ることで、英雄として、皆に一目置かれていた……でもそのせいで逆に、英雄のことを英雄視しなかった人々がいたの……彼らの共通点とはいったい何でしょうか、メリアちゃん! お答えください!」
「え? そんな人達がいたの? だって、英雄は魔族を自分たちのかわりにやっつけてくれるんだよね」
「惜しいわ、メリアちゃん!」
「惜しい?」
ボクへと顔を近づけるお師匠様に気圧されながら、ボクは問い返す。
「実は、そうじゃなかった人がいたのよ」
「そうじゃなかった人……」
「それがおっきなヒーント!」
テンション高く、腕を使い頭上で、おっきな丸を作り出すお師匠様を尻目にボクは思考を巡らせる。
そうじゃなかった人、ってことは、襲われてるのに、英雄が魔族を倒してくれなかった人達がいたってことだよね。
でも、英雄は分け隔てなく、魔族に襲われていた人たちを助けていたって言うし……。
一旦、考えるところを変えてみよう。
多分だけど、英雄を英雄視しなかった原因は、英雄たちの持つ圧倒的な力を恐れたからだと思うんだよね。
彼らのその圧倒的な力が今度は人間を蹂躙するために使われたら怖いってその人たちは思ったんだよ。
でもその懸念を英雄たちは魔族だけを倒し、人間を救うことで証明したんだ。
証明……例えばだけど、その証明を受けていないような人がいたら……。
「あっ、わかったよ!」
びびびっと、思考が繋がり、ボクは声を上げる。
「お! じゃあ、メリアちゃん正解をどうぞ!」
「彼らの共通点は、英雄たちに頼らなくても、自分たちで魔族を退けることのできた人たちだよ! 自分たちで魔族を倒せちゃうからこそ、英雄たちの力はいらないし、逆にその強大な力が自分たちに向かないか、怖くなっちゃったんだよ!」
「だいだいだいだい、大正解! メリアちゃんすごいわ!」
「えへへ」
くしゃくしゃっと頭にあてがわれたお師匠様の手の感触を味わう。
「一つ、補足をすると、そう言う自分たちで魔族を退けることのできる人たちって言うのは、基本的に、自分たちで強大な軍隊をもつ大国ってことになるのよね」
「なるほど、そう言うことになるんだね」
「そして、メリアちゃんの言う通り、彼ら大国は、英雄が自分たちの国を襲うんじゃないかってひどく恐れたの」
ぶるぶるっと自分を抱いて、震えて見せるお師匠様。
「でも、それだけだった」
「それだけだった?」
「そうよ、それだけ……だって、英雄たちは治世や権力に興味はなかったから大国を襲うこともなかったし、逆に、大国が英雄を襲うこともしなかった……このことで何が起きたかって言えば、大国側がもし英雄が攻めてきた時のために、戦備を増強したぐらいね」
「ふーん、そうだったんだね」
そう言ってボクは気付く。
「あれ?それじゃあ、何も起こらなかったんじゃない?」
「それが、起こってしまったのよ……」
そんなボクの疑問に。薄暗く、でもちょっぴり、これから先の激動にわくわくを隠せないように、お師匠様はそう応えた。




