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メリアと不思議な旅  作者: 首長イ鳥
砂とうねりの街
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労いの光

「うわ、すっごいねえ……」


思わず、そんな言葉が漏れる。

大鍋はすでに、人で完全に覆われていて、その姿を見通すことはできなくなっていた。


「お代わりは皆に行き渡ってからですぞ!」


そんな中、ただ一人、秩序を掲げる声に気づく。


「ロゼルさん!」


「その声はメリア殿! 少し、手を貸してくださらぬか!」


枝葉のように、人々の間から突き出ているロゼルさんがそう叫ぶ。


「わかったよ!」


そう叫んで、お師匠様と一緒に引っ張る。するとすぐにぽんっとロゼルさんは人々の間から引っこ抜けた。


「お二人とも、協力感謝します」


地に足を付け、そう、ロゼルさんは頭を下げる。


「どうして、こんなことに?」


ボクは蠢く人の山を横目にそう尋ねる。


「それが、急にお代わりを希望する人々がなだれ込んできて、なすすべなく……」


よく見れば、大鍋の周りには、群がる人々にはじきとばされたのだろう、ロゼルさんの部下たちが腰を地につけて呆然と人々を見上げていた。


「あの白蛇に、何か彼らを引き付ける毒のようなものがあったんじゃ……」


「えっ!!」


ボクは素っ頓狂な声を上げる。


「そ、そんなことは……」


ない、とは言えなかった。って言うかそれならめちゃくちゃに説明がついてしまう!


「いえ、あの白蛇にそのような毒はないですよ」


さらりと、そうお師匠様が言う。


「そ、そうだよね、毒なんてないよね」


「そうですか、でもそれならどうして――」


そう、ロゼルさんが言った瞬間だった。

ぴたりと、大鍋を取り囲む人々が一斉に静止する。


「なんだ?」


ロゼルさんのその疑問の声と同時に。ゆっくりと、大鍋から剥がれていく人々。その中央には。


「ああ! ない!」


空になった大鍋だけが残された。


「そ、そんな、私がまだ食べてないのにぃぃっ!」


ロゼルさんが、聞いたことない声音で叫ぶのを尻目に、人々は大鍋から離れていく。

その中でロゼルさんはただ一人、大鍋の前で地面に崩れ落ちて、地に頭をこすりつけていた。

そんなに食べたかったんだ……それは、可哀そうだけど。


「……でも、良かったんじゃない?」


「何が良かったのです!」


キレ気味にロゼルさんがそう叫ぶ。


「スープが食べられないのは残念だったけどさ……でも、スープがなくなっちゃったから、みんなおとなしくなってくれたし」


「いいえ、メリアちゃん、おとなしくなってないかもしれないわ……」


「え?」


そう言いながら、お師匠様は人々を示す。

そして気づいた。


「みんな、おんなじ方向に歩いてる……?」


「あ、あの方向は!」


そう言って、ロゼルさんたちが剣を鳴らしながらに走る。


「どうしたの!?」


「あの方向は神骨の聖域の方向です!」


「ええ!?」


この人たち、みんな聖域に行こうとしてるってこと!? なんのために!?


「白蛇ぁ」


「捕まえて食べるぅ」


「聖域狩りだぁ」


その理由は、彼らの独り言ですぐにわかった。


「この人たち、白蛇を狩ろうとしてるんだわ!」


「夜に、聖域に行ったってみつからないよ!」


「それでも、たべます、何故なら美味しいから」


「完全におかしくなってる!」


「うわぁー」


「白蛇食べたいー」


口々に、彼らは白蛇を求める。そんな中、ロゼルさんが叫んだ。


「見つかる見つからない以前に、夜に、聖域へいくなんて自殺行為ですぞ!」


「じゃ、じゃあ、止めないと!」


ボクは目いっぱい両手を広げて、人々の先頭に回り込む。


「止まってぇ!」


そう叫ぶけど。

でも皆、ボクがいないみたいに素通りしちゃって。


「どうしよう、止まってくれない……」


ボクじゃ、小さすぎてこの人の波を止められないんだ……。だから、もっと大きな何か――


「あ、そうだ!」


そこで気づく。


「ゴーレムくん、かもん!」


その声に呼応して。

ふんっと、ひとっ飛びでゴーレムくんが人々の先頭に着地する。

ムキムキで美脚でおっきなゴーレムくん、君ならぴったりだね!


「ゴーレムくん優しく通せんぼしちゃって!」


そのお願いに。ふぬぬと、ゴーレムくんは大股を開いて、腰を落とした。

そして。


「ふおおおおおっ!!!」


轟く。

――それは、ゴーレムくん、生まれて初めての咆哮だった。

声と共に、あのムキムキな腕が流星のように尾を引いては瞬く。一瞬の間に何度も上下左右へと揺らめく腕は。気付けば、人々を砂漠の中に横たえた。


「す、すご!」


横たえた。それは本当に文字通りで。

ゴーレムくんはその高速に動く腕で、優しく、砂漠の砂の上に人々を次々に寝かせると、労わるように身体に砂をかけていく。

それはまるで、母が我が子をベッドに寝かしつけた後に優しく布団を掛けるようで。

瞳の奥、白蛇への渇きを携えたアーガナージャの人々は幼き頃に戻ったように、満足そうな寝顔を晒す。

輝く月を背後に、ゴーレムくんは腕を振るい続ける。そして、砂に埋まる首が、砂漠一面を覆う頃。

それだけがゴーレムくんを労うように。

太陽の光が、優しくゴーレム君を包みこんだ。



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