美味しい?
「はい、お嬢ちゃん」
「わーい、ありがとう!」
ボクは、ロゼルさんから、器を受け取る。
「今回のお祭りはお嬢ちゃんたちのおかげだからね、お肉、いっぱいいれといたから! 神骨猟師協会をよろしくね!」
そう言って、ロゼルさんは片目をぱちっと閉じて見せる。
「……あ、ありがとう!」
ボクはそう答えて、リズと、お師匠様の待つ場所へと戻る。
「やっぱり、ちゃっかりだったよ」
顔を突き合わせてすぐに、そうボクは零す。
「私の時も、ちゃっかりだったわよ?」
「俺の時なんか開口一番、白蛇を食えることを感謝しろだぜ? ちゃっかりどころか、どっかりって感じだったぞ」
ボクたちは口々にそう言って顔を合わせる。
「まあ、白蛇を捕まえたのはボクたちだけどさ! お祭りをしてくれたのは協会のおかげだから……良いんだけど、いいんだけどっ!」
そう、心の中のわだかまりに押されるように何度もいいんだけど、と口に出す。すると。
「なんか、良くなってきたかも!」
もやもやはいつの間にか、消え去っていた。
「良いのかよ!」
リズが突っ込む。
「そう言うところに拘らないところがメリアちゃんのいい所よねー」
「お! お師匠様、ボクのことよくわかってるね!」
「そりゃ、お師匠様やってますから!」
「「いぇーい!」」
と寸分たがわずにボクたちは手のひらを合わせる。
「ほんと、仲良しだな……ほら、そんなことやってると、スープ、冷めちまうぞ?」
「あっ、そうだよ、早く食べないと!」
そう言って、スープへと目を落とす。
とそこで気づいた。
「そう言えば、ハーディスさんは?」
「副協会長ならさっき、まだ仕事が残ってるってスープ片手に帰ってったぞ」
「そうなんだ……一緒に食べたかったな」
「……だな」
そう、しみじみとした空気になった瞬間。
ぱんっとお師匠様が手を叩く。
「さあ、冷めないうちに食べちゃいましょ! 私、もう待ち切れないわ!」
「そうだね! 食べちゃおう!」
「だな!」
誰からともなく、ボクたちは競うように、スープに半身を浸しているスプーンを手に取る。
「みんな、準備は良い?」
「ええ!」
「ああ!」
その期待に満ちた声音に、ボクは音頭を取る。
「じゃあ、いただきまーす!」
「「いただきます!」」
そう言って、ボクたちは同時にスープに沈んだ白蛇の身を頬張る。
もきゅもきゅとした身の感触。ほろほろとはほどけない身はまるでゴムのような弾力を歯に伝える。
それでもぎゅうっと押しつぶしたお肉からは……なんにも染み出てこない!
「うーん」
それが第一声だった。
見れば、お師匠様も微妙な顔をしている。
「なんかさ」
「うん」
「美味しいものではないのかもしれないね」
「そうね……」
だって、白蛇って倒すのが大変だし。
その白蛇を食べることに意味があるんだよね。決して美味しいからじゃないもんね。あんなに強かったら栄養とかすごそうだし。
「こんなにも、匂いは美味しそうなのにな」
もやもやと香るスープからはお肉がぎゅっと凝縮されたような、こんなにも香ばしい匂いがしているのに!
「これだったら、リズの言う通り、あそこに置いてきても――」
と、そこでリズを見る。そして思わず、ボクは言葉を失った。
「ん」
そう返事したリズは、まるで爆発寸前の風船のように頬っぺたをパンパンにしていた。
そしてごっくんと、確かに聞こえたそんな音と共に大きな塊がリズの喉を通り抜ける。
「え?」
見れば、リズのボウルはもうすでに空だった。
「なあ、お前ら、それ食べねえのか……?」
ギラギラと、まるで生者を狙うアンデットのように、瞳の奥に隠しきれない渇きを滲ませながら、リズは問う。
「いや、これから食べるところだけど……そんなに欲しいなら――」
ちょっとだけ分けてあげるよ、そう言い切る前に。
「――ありがとう!」
リズはボクの手にあるボウルに飛びつく。
そして、一瞬の後にスプーンで白蛇の身を全て掬うと自らの口に押し込んだ。
「ああっ!」
再び、ごっくんと喉を鳴らすリズ。
「なんで、全部食べちゃうの!」
「あ、ああ……」
ボクは抗議の声を上げるけど、リズの虚ろな目はボクを見ていなくて。
既にお師匠様の手元を見ていた。
「なあそのスープ――」
その目線に。
「はむっ!」
お師匠様のスプーンが煌めく。
眼にもとまらぬ速さで動かされたスプーンによって、一瞬の後にスープの中の白蛇はお師匠様の頬っぺたへと全て格納された。
「ああ……」
リズががっくりとうなだれる。
「んんんんん!!!」
その姿に頬っぺたをパンパンにしたまま、お師匠様が勝ち誇ったように吠える。
その姿はなんだかとってもおかしくて、笑っちゃいそうだけど……でもなんかおかしいよ。
「どうしちゃったの?リズってそんなに食い意地張って無かったよね」
そう聞くと、リズは頭を片手で抑えながらに答える。
「……悪い、どうかしてた、なんだか、あの白蛇の肉が美味しすぎて」
「美味しい?」
ボクはお師匠様と顔を見合わせる。
「そんなに、美味しいものではなかったと思うけど……」
「んんんんん、んんんんんんんん!」
「お師匠様、飲み込んでからじゃないと何言ってるかわかんないよ?」
その言葉に、すぐにごくんとお師匠様が喉を鳴らす。
「……一つ、心当たりがあるわ、リズ君、あなた、過去に――」
その時だった。
「な、なんだ!? お代わりは皆に行き渡ってからで、うわあああ!!」
その声に、三人は広場の中央へ顔を向ける、すると、たくさんの人々が、大鍋に殺到していた。
皆々が木のボウルを片手に、スープを掬っては口へと運ぶ。
それを見て。
「――お、俺もお代わり!」
そうリズが叫んで、大鍋へと走っていく。
「あ!ちょっと待ってよ、リズ!」
すぐにそう叫んだ言葉はリズには届かなかったみたいで。リズは大鍋を覆う人々の隙間へと消えていく。
「もう、本当にどういうこと……?」
そんな言葉をつぶやきながら、ボクたちも大鍋へと向かうのだった。




