可愛い泥
三人、しゃがみ込んでもちもちと泥をこねること数分。
「「「できた!」」」
ボクたち三人は同時に声を張り上げる。
急ごしらえで作ったとはいえ、お師匠様の両手に収まるそれは確かにかっこいいとは――。
「まあ、愛嬌はあるよね」
「うん」
「そうだな」
ボクの絞り出した感想に二人は賛同する。
そうまでして、ボクたちが肯定しようとしている物、それは土人形だった。
三人で分担して作ったせいだろう。
ボクの作った顔は体と比べ不自然に大きく、目はただ丸い穴が二つ横に並んでいるだけで、左右の大きさも微妙に違う。
口は一本のぐにゃりとした線が引かれているだけで、笑っているのか怒っているのかも分からない……。
って言うか、ボクにはこれが限界だった。不器用だね、悲しいね。
上半身を作ったのはお師匠様だけど、その出来栄えは妙に生々しい。てらてらとひかる筋骨隆々な逆三角形のシルエットにはしっかりと二つのぽっちまであって、なんだか見ているだけでボクの顔が熱くなる……。
そして、下半身はリズの作った腰巻とそこからすらっとしたハイヒールの似合いそうな美脚が伸びる。腰巻にはリズの服装にもあるような民族的な文様が精緻に掘られていて――って二人とも、人形作るの上手すぎない!?
「時間さえあれば、もっと、よくできるんだけどな……」
「本当にそうね」
「いやいや、二人ともすっごく上手だから!」
ぱたぱたと手を振りながらそう伝えると、二人は頬を掻きながら、そう?と答えた。
「それで、お師匠様、この人形どうするの?」
「それはね――」
こうするのよ!そう声を張り上げながら、お師匠様は泥だらけの手で、傍らに置いた杖を掴む。
べちゃりと泥が柄につくのも気にせず、お師匠様は唱え始めた。
「小さな器よ、大地の意思に反して、今からあなたに命を与えます!」
そう言って、こつんと、杖の先の宝玉を土人形にあてがう。
すると。
空気が揺れる。
ぶるぶると震える空気はボクたちの髪をさらさらと流しながら、穴の開いた桶のようにくるくると大きな渦を巻いては一点に集まっていく。
穴の位置には土人形。
それはまるで、お師匠様の唱えた通り、命が、土人形に集まっているようだった。
ふっと、空気の流れが止まる。
それが合図だったのだろう。
土人形にあてがわれた宝玉が、淡く黄金色に輝いた。
「権限せよ!ゴーレムくんっ!」
声と共に。
ぴょこっと、土人形が立ち上がる。
「わあっ」
立ち上がって、きょろきょろと辺りを見渡す土人形ことゴーレムくん。
そのきょろきょろの果てにボクたちの姿を見つけたようで。
上目遣いでボクたちと目を合わせると、ひょこひょことおぼつかなく、細い美脚を使ってゴーレムくんはゆっくりとこちらに歩みだす。
「「かわいいっ!」」
思わず、そう、声を重ねると。
ぽてっとゴーレムくんは顔面から倒れてしまった。
「おわ、大丈夫か!?」
「た、助けないと!」
反射的に伸ばした手、しかしそれをお師匠様は阻む。
「ダメよ、メリアちゃん……助けてあげたい気持ちはわかるけど、でも見守るの」
今にも泣きそうな顔で、口を堅く食いしばってお師匠様はそう言う。
「わかったよ、お師匠様」
ボクはゆっくりと手をひっこませる。
その間にも、ゴーレムくんは筋肉でムキムキな両手を地面に這わせて上体を起こす。
でも、筋肉ムキムキすぎて身体が固いのか、這わせた手が滑り、再びずさっと地面に突っ伏してしまった。
「ああっ」
それでもなお、ゴーレムくんは諦めない、再び、地に手をついた。
「……頑張れっ」
自然と、心根が漏れる。
「頑張れ!」
「頑張って!」
ボクたちは手を差し伸べるように声をかける。
しかし何度も、何度も、上体を起こしては、滑ってしまうゴーレムくん。
体は泥にまみれ、それでもなお挑み続ける。
……そうやって、進み続けた者にのみ、光明は現れるのだ。
「あっ!」
そうだよ、それがだめなら、新しい方法を試してみれば良いんだ。
ゴーレムくんはぱっと片手を引く。
なんで気づかなかったんだろう、ゴーレムくん、君のそのムキムキな腕は片腕だけで君を起こしたりえる!
それはまるでばねのように。
片手だけを地面に這わせたゴーレムくんの腕は力を溜めながらに折れ曲がり、そして。
跳躍した。
くるくると空中で回ること三回転、その果てにすとっと、ゴーレムくんはその細い美脚で地を踏みしめる。
踏みしめた後、ゴーレムくんはその場で厚い胸板に手を置くと優雅に上体を傾けた。
その仕草からは、ボクたちへの深い謝意が感じられた。
「すごい!すごいよゴーレムくん!」
「お前ならやれると信じてたぜ……」
「よ、良かったわぁ、ゴーレムくぅん」
三者三様。
あるものはその成功を素直に褒めたたえ、あるものはその成功に疑いはなく、あるものは涙をぽろぽろと流しながらその成功を喜んだ。
ゆっくりと傾けた上体を起こすゴーレムくん。
そして踏み出した一歩は先ほどまでのそれとはまったく違って。
全く危なげなく、堂々と、ゴーレムくんはこちらへと歩み寄った。
「"成った"わね」
「ああ、"成った"な」
「うん、"成った"ね」
もう、彼はあの地面でずりずりしていたゴーレムくんではない。
どこに出しても恥ずかしくない、言うなれば、未熟な子供から一人前の大人へと成長した――。
「ゴーレム"さん"に、なったんだね」
「いや、それは違うわ」
「あっ、そうですか」
すぐさまお師匠様から、否定が入る。
理由はゴーレムくんの方が、名前が可愛いからだった。
「それで、お師匠様、このゴーレムくんがどうやってあの白蛇をどうにかしてくれるの?」
お師匠様の否定により、急激に飲まれていた空気から脱したボクは本来の目的を思い出す。
確かに、目の前でフロント・ラット・スプレッドを華麗に決めているゴーレムくんは力持ちって感じだけど。
如何せんちっちゃすぎるよね。
「ふっふっふ、今、メリアちゃんが考えていたことを当てて見せましょうか」
そう言って、お師匠様は杖をゴーレムくんへと向ける。
そして、唱えた。
「おっきくなーれ!」
それは呪文なんかではなく。
でも確かに、ボクの思っていたことをぴったりと言い当てている言葉だった。
宝玉が光る。
その瞬間から、ずんずんとビートを刻んでゴーレム君は大きくなっていく。
そして、その背丈がちょうどボク二人分くらいになった時、その成長は止まって。
「いえーい!」
お師匠様の声に合わせて、二人は寸分たがわず、ボクたちに向けてvサインを作る。
お師匠様の後ろに立っているのに、ボクたちに近いvサインは、まるで大木が二本聳え立つようで。
確かに、白蛇の問題は解決したのだった。
相変わらず、脚は美脚だし、顔はのぺーっとしているけど、ね。




