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メリアと不思議な旅  作者: 首長イ鳥
砂とうねりの街
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vs白蛇!

 森の中、走るのは随分と楽になった。

 それは慣れからではない。

 森の穴、白蛇が暴れたその穴が合流し、大きな穴へと成長していたからだ。

 その光景には、ただ真っ直ぐに逃げることの無意味さを悟る、逃走者の苦悩が感じられた。

 右へ左へ、うねるようにぐるぐると回るその逃走経路は森の中に小さな広場を産む。

 そして、その中に人影はあった。


「お師匠様っ!」


「はい!」


 森の中に空いた青天井。

 その真ん中に彼は倒れている。

 ボクたちには気づかない。

 彼は今、目の前でとぐろを巻き、鎌首をもたげた白色に夢中だ。


「えりゃあ!!」


 ボクは気合と共に駆ける。

 駆けた勢いそのままに、真っ白な横っ面に狙いを定め。

 奔流を意識する。

 既に体の中、奔流は暴れるような濁流となり。

 既に白蛇は眼前。

 真っ白な視界で拳を硬く握る。

 今日は手のひらからじゃない。

 手の甲から奔流は激流となってあふれ出し、加速した拳で力いっぱいに殴る!


「ふんぬ!」


 喉から零れる静かな吐息に反して。

 めり込む拳の感触。

 鱗を割り、肉を割き、骨によって阻まれる。

 骨によって阻まれて、吹き飛ばし、白蛇は広場の端、かろうじて残った木々に叩きつけられなぎ倒す。


「メリア!」


 背後を振り返る。


「大丈夫、無事よ」


 お師匠様は息子さんに駆け寄ると、"ヒール"と魔法をかける。


「安心して気を失ったみたいね、少し血が出ているけど、命に別状はないわ――」


 と、そこでお師匠様は言葉を区切って。


「――どうする?メリアちゃん」


 そうボクに問う。

 どうする?

 その言葉にはたくさんの意味が込められている。どこに逃げるか、そしてその方法は?

 だけど。


「これはボクの勘なんだけどね」


 いまだ、木々の隙間に体をねじ込ませている白蛇へと、向き直る。

 そして。


「ボク、やれる気がする」


 そう、真っ直ぐに見つめた。


「メリア、ここは一旦引いた方が」


「うん、もちろん、そうなんだけどね、でも逃げるにしても、少し弱らせておいた方が良いと思うんだ」


 ボクたちはお父さんと息子さん二人を抱えて逃げないといけないしね。


「それはそうだが……」


「大丈夫だよ、危なくなったら逃げるから、リズはお師匠様を守ってあげて……お師匠様、最強の魔法使いだけど、魔法使いは近づかれちゃうのに弱いから」


「……わかった」


 ボクの言葉にそう言うと。

 リズは息子さんを抱えて、端へ寄せ、そして正中に剣を構えた。


「白蛇だろうが、なんだろうが関係ねぇ!俺がいる限り二人には誰も近づけさせねえぞ!」


 その咆哮にボクは安心する。

 あの覚悟があれば、二人は大丈夫だろう。


「……メリアちゃん」


「どうしたのお師匠様?」


「私の有声魔法は威力が高い分発動に時間がかかる……だからメリアちゃん、隙を作って、そうしたら私が倒すわ」


「りょーかいだよ、お師匠様」


 ボクは答える。隙を作るだけで良いのなら、そんなの楽勝だね。


「……」


 気付けば。

 木々から脱した白蛇がこちらを睨んでいる。

 音もなく、ただしゅるしゅると舌なめずりをする白蛇は、ゆっくりとこちらの様子を伺っていた。


「……来ないのなら、ボクから行くよっ!」


 靴底で地を打つ。

 いち、にい、さん歩目で飛び上がって、大口を開けた白蛇の顔面に拳を――


「メリアちゃん、水!」


 その言葉にボクは思考するより先に、奔流を両手からあふれ出させる。

 その瞬間だった。

 ぼわっと、白蛇はその大口から炎の塊を吐き出した。

 肌を焦がす熱風。

 じゅっと音を立てて蒸気と化す水流はギリギリで炎を受け止める。


「うわっ!」


 水流の反動で、ボクはしりもちをついて、白蛇を見上げる。


「なんで、炎吐けるの!?」


「メリアちゃん、それ、蛇じゃないわ!」


「蛇じゃない?」


「よく見て、ほらそこ!」


「そこ?」


 ボクはお師匠様が杖で指した先を見る。

 するとそこには。


「ちっちゃ!」


 そう思わず声が出てしまうほどに。

 本来の役目を放棄した小さな足が、地につくことなく所在なさげに横っ腹にぶら下がっている。


「それ、ドラゴンよ!」


「ドラゴン!?」


 ドラゴン、それは最強の魔物。巨大な体に、刃の通らない鱗、口からは炎のブレスを吐き、向かうところ敵なしの化け物。


「の、子供だけどね!」


「子供!?」


 そうみると、確かにドラゴンに……。


「見えないよっ!ってやばっ!」


 再び大口を開ける白蛇。その喉奥が気付けば太陽のように輝いて。

 それが放たれる前に、ボクは奔流を放つ。

 横っ腹から放たれた奔流はボクを真横に弾いた。


「ぶべっ!」


 幹に叩きつけられながら、ボクは一瞬前まで座り込んでいた地面が焼け焦げるのを見た。


「痛いなぁもう!」


 強く打った背中はじんじんと痛み、ボクは立ち上がる。

 その隙に白蛇はぐるりととぐろを巻いて、ぎらりと光る尻尾をしならせる。

 くるっ!

 直感的に飛びのいたその場所に、叩きつけられるは尾。

 バァンッ!と地面は抉れ、土ぼこりが舞う。


「くっ、これじゃ近づけない……」


 手元に引き戻された尻尾は陽炎のようにゆらゆらと頭上で揺れる。

 とぐろを巻いたその姿はさながら城塞で。

 高い位置からこちらを見下げる目が的確にボクを尾で打つ。

 轟音を轟かせて何度も何度も尾が振り下ろされる。

 さっと飛び避けるのは簡単だ。

 だけど、こちらから攻めれば確実にそれは避けられない――。


「……だったら、これならどうだ!」


 そう言ってボクは白蛇に指先を向ける。

 出口はぎゅぎゅっと絞ってそこに荒れ狂う奔流をぶつけるっ!

 我先にと勢いを増し、一閃となりて白蛇に迫る水流は。

 直後、放たれたブレスによって一瞬で蒸気と化した。


「あわわ、反応はやっ!」


 間一髪、ボクはその場を飛びのく。


「くそう」


 ボクの激つよ水流でも届かないなんて。

 あのブレスが厄介だよ、あれがある限りボクの水流は全部蒸気になっちゃう――。

 ――ん?蒸気?

 そうだっ!


「ふっふっふ――今度はボクのターンだよ!」


 そう宣言して、ボクは奔流を開放する。

 開放。普段はぎゅぎゅっと目いっぱいに絞って勢いをつける奔流を今日だけはただ外に流れ出させる。

 内に封じ込められた奔流は、今日こそはとボクの全身からあふれ出し一瞬で、辺りを海にする。

 その光景にびくりと顔を震わせるは白蛇。

 その瞬間。

 ボクは燃え上がらせる。

 擦って擦って、奔流を擦って、熱く熱く、温度を上げていく!

 暴れ狂う海、ぼこぼこと泡を吐きながら膨張する水は刹那の後に爆ぜるっ!

 じゅっと、一瞬にして、世界は蒸気によって包まれた。

 真っ白な視界。

 その中をボクは駆ける。

 蒸気になったとしても元はボクの奔流だ。

 目の前の蒸気たちはボクに頭を垂れて道を譲る。

 それはさながら見えない刃で白蛇への道が切り裂かれたようで。

 見えたっ!

 靴底で地を打つ。

 いち、にい、さん歩めで体を低くして滑り込みいまだ数舜前のボクを見る白蛇の顎へ拳を目いっぱい突き上げる!

 手の甲から溢れるは水流じゃない。

 今度は蒸気!

 パンと、突き上げた拳から蒸気が爆ぜる。

 一瞬にして何千倍にも膨張した蒸気はボクの肌を焦がしながらに爆発的な推進力を生んで。

 白蛇は空を舞った。


「お師匠様!」


 蒸気の海を抜け、太陽を背に重なる白蛇の顔。

 そこへまっすぐと向けられるは杖の宝玉。

 強大な魔力にたなびく裾を尻目に、軽やかに、お師匠様は唱えた。


質量を持った光(ヘヴィレイ)


 天へと放たれる光柱。

 それは音もなく、白蛇の顔を包むと。

 背後の太陽へ還るように吸い込まれて。

 そして、消えた。

 どさりと、空から白蛇が落ちる。

 塵すら残さず、顔を消し飛ばし、地に落ちる。


「よっしゃあ!――ってあちゃちゃちゃっ!」


 息絶えた白蛇、それを見てなりを潜めた興奮に体は熱を思い出す。


「あらあら、メリアちゃん、拳の推進力に蒸気を使ったのね」


 パタパタとこちらに向かうお師匠様は、はい、"ヒール"と魔法を唱えてくれる。


「だって、水流だと勢い足りないかもって思ったから……」


「頑張ったのね、メリアちゃん」


 お師匠様は、そう言って優しくボクの頭を撫でた。


「ま、マジかよ……」


 手持ちの剣で、つんつんと白蛇の体をつつくリズ。


「ちゃんと死んでる?」


「ひっ!?」


 そう問いかけるとリズは後ずさる。


「なんだよぉ、化け物見たみたいな声してさ」


「いや、実際、あの白蛇を一人で捌くなんてばけも――」


「なぁにぃー?」


「な、何でもないです」


「ふーん……?」


 ボクはそう息を零しながらに、白蛇をのぞき込む。


「うわっ、ほんとにすごいね」


 白蛇の先、もともと顔がついていた場所にはやはり何もなく。

 それは血を流すことも許されずに、断面は綺麗な弧を描いて、焼け焦げていた。

 じゅーじゅーと音を出しながら断面から白く立ち上るは蒸気。

 それはさっきボクが生み出した蒸気とは匂いも意味合いも、何もかもが根本的に違っていて――。


「なんかさ」


「なんだよ?」


「美味しそうだね」


 気付けばじゅるりと口の端からよだれが漏れる。すでにもうボクの目は白蛇から離せなくなっていた。


「ひっ……」


 リズはボクのその言葉にしりもちをつき、後ずさる。

 見境のない後退、その果てにとんっと、リズの背に当たるはお師匠様。


「あら、大丈夫?」


 そう言ってお師匠様は優しくリズに手を差し伸べる。


「あ、ありがとう」


 リズは礼を言って手を取った。


「メリアちゃん、食べちゃダメよ?」


「そ、そうだぞ、メリア、食べちゃダメだ」


「……生焼けじゃ、お腹壊しちゃうわ」


「え?」


 言葉と共に。

 口の端からぽたりと垂れたよだれが、リズの額を打つ。


「本当に……美味しそうねぇ」


「ひぃぃぃぃぃっ!!」


 それは断末魔と違いはない。

 叫び声と同時に、リズの意識は恐怖の深淵へと吸い込まれた。



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