色々なお花の色
さくさくと切り裂くはお花の茎。
木の上や、木陰に咲く花を切り取っては、切り取っては、リズへと手渡していく。
「この可憐な彩に、束の間の命を――フォンテ」
リズは一つ一つに願いを込めるように、その魔法を花にさずけてはかごへと詰めていく。
「ねえねえ、その魔法はどんな魔法なの?」
そう問うと、リズは少し苦笑して答える。
「いや、これはただのまじないだよ、ただ、花が長く美しくいられますようにって」
「そうなんだ、良いおまじないだね」
「ああ、ちょっと、めんどくさくもあるけどな」
そんなことを話していると。
「メリアちゃん!リズぅ!」
「あ、お師匠様!ってすご!」
「えへへ」
両手いっぱいに純白の花を抱えたお師匠様が茂みからひょっこり姿を現す。
「うわっ、すごいな!アルヴァリリィがこんなに!」
「少し、取りすぎちゃったかしら」
「いや、アルヴァリリィはいくらあっても足りないからな、助かるよ」
そう言って、リズは受け取ったその白い花をかごへと詰めていく。
「あれ、そのアルヴァリリィ?にはおまじないかけないの?」
「ああ、アルヴァリリィは別れの花だからな」
「別れの花?」
「ああ、アーガナージャで白い花は告別に使うんだ、白い花で埋め尽くして、姿を見えなくして、お別れをする……真っ白に染まって別れを悲しむのは少しの時間で良い、だから、アルヴァリリィのような白い花には、おまじないを掛けないんだ、すぐに枯れて、早く楽しかった思い出になるように」
「そうなんだね……うん、とっても素敵だ」
「そう思ってくれて、うれしいよ」
さらさらと聞こえてくる葉擦れの音に混ざって。
さくさくと、辺りに響くリズムは一定でボクたちの会話を優しく後押ししてくれる。
「ねえ、リズ?」
お師匠様が問いかける。
「どうしたんだ?」
「さっき、白い花が別れの花だと言っていたでしょう?もしかして、花の色の違いで、意味合いが違うのかしら?」
「ああ、その通りだよ」
「やっぱりそうなのね!じゃあ、赤い花どんな意味があるのかしら?」
口に指を当て、小首をかしげるお師匠様に、リズは答える。
「赤い花は"決断"だな、だいたい結婚式とか、家を建てる時とかに人生の節目を祝って送られる花だ、アルヴァリリィ――白い花とは違って贈るのは一輪だけ、背が高くてまっすぐで花弁の大きな一輪を、あなたの選択の先に大きな幸せがありますようにって願いを込めて渡すんだ」
「へえ、それも素敵な風習ね」
「まあ、素敵は素敵なんだがな……」
お師匠様がそう言うと、リズはなんだか苦虫を噛み潰したような顔でそう答える。
「どうしたの?そんな、黒毒虫を噛み潰したような顔してさ」
「なんだよ、その黒毒虫って……いや、なんとなく、意味は通じるな」
なぜか納得したようにそういってリズは続ける。
「いやな?さっき、赤い花は背が高くてまっすぐな物を贈るっていっただろ?」
「言ってたね」
「言ってたわね」
「そこまでは、あなたの進む道がまっすぐでありますようにって意味が通ってて良いんだが……張り合うんだよ」
「張り合う?」
「ああ、どっちの花が真っ直ぐだの、背が高いだのでな?ただでさえそうなのに、贈り主に名家が重なった日にはもう、お家のプライドをかけたお花合戦に発展するんだよ……」
「それは……大変そうね」
「大変なんてもんじゃないぜ!」
リズはそう叫ぶと、きょろきょろと周りを見渡す。そしてお目当ての物を見つけたようでそれをがっしと掴んだ。
「見てくれよ!この花を!こいつの名はイフリティア、この神骨の聖域、唯一の赤い花だ!」
「こ、これは……」
リズが胸元に引き寄せた花、それはこれでもかってくらいにぐにゃぐにゃにうねうねしていた。
「イフリティア、またの名を焔花、揺らめく炎のように自由に成長していくことからついた名前だっ――」
言葉を詰まらせ、まくし立てるリズを尻目に、イフリティアは顔を背けるように、くにゃーんと真っ赤な頭を垂れる。
「こいつの注文が入るたびに一族総出で真っ直ぐな焔花を探すんだ、三日三晩探し続けてようやく見つけたそれを、長さが足りないと目の前に金貨をドサッと上乗せされた日にゃ……考えただけでも恐ろしいぜ」
ぶるぶると震える身を両手で抱いて、リズはそう言うけど……。
「え?でも追加で金貨がいっぱい貰えるんだったらいいんじゃ――」
「違うわ、メリアちゃん!」
力強く、そう応えたのは何故かお師匠様で。
「――お金がもらえるからこそ、その期待に絶対答えなくちゃいけないから、大変なのよ」
「ああ、その通りだ……」
そういって遠くの何かを見つめるように、虚ろな目をしている二人。
リズはわかるけど、お師匠様には一体何が……。
「そ、そうなんだね、大変だね」
ボクはとりあえず、二人を傷付けないようにそっと符牒を合わせて答えておく。
そんな時だった。
「うわあああああああっ!」
森の奥から、声が聞こえた。
「今の声……」
「ああ、俺も聞こえた」
お師匠様の呟きに、リズがすぐに返す。
「ただ事じゃない、よね?」
ボクたちは三人、目を見合わせる。
ちゃきっと、リズの腰から下がった剣が音を立てる。
それは、リズが剣を抜き去った結果。
「出でよ、惹きの杖」
光が集まり、すぐにお師匠様の"本気"が具現化する。
……ボクには抜き去る剣も、杖もないけど。
体の中を穏やかに流れる奔流は、すでに激流となりボクの中を流れる。
「助けに行こうっ!」
「おう!」
「ええ!」
返事は頼もしく、ボクたちは森の中へと駆け出した。




