詰まるほどの優しさ
「これが、アーガナージャに伝わる、神話さ」
「……なんだか、悲しい話だね」
「まあ、楽しい話ではないな」
リズは前を向いたままにそう答える。
「でも、俺はこの話が好きだ」
そらんじまうくらいにはな、とリズは笑う。
「どういうところが好きなの?」
「そう言われると難しいが……」
リズはそこで、言葉を切る。
「なんとなく、この話には優しさが詰まってる気がするんだよ」
そんな声と共に、沙漠に吹くのはカラカラに乾いた爽やかな風。
ボクは思わず、リズの手を取る。
「わかるっ!!!」
「うわ、なんだよ」
びくっと、身体をのけぞらせるリズを尻目にボクはまくし立てる。
「なんかさ!神様が色々助けてくれたり、頭領が父親に恩を返したりさ、うまく言えないけど……それってお互いを思いあう優しさだよね!」
一瞬だけ目を見開いたリズは。
「ああ、そうだな、優しさだ」
と柔らかな声音で、そう呟いた。
「ふふっ」
すると何故かお師匠様が笑顔を零す。
「お師匠様、なんで笑うのー?」
「ううん、二人のやり取りが可愛くって、つい、ね?」
「「可愛いー?」」
口をいーって横長に引き延ばして、ボクたちは不満を表明する。
「ごめんごめん……あっほら、見えてきたんじゃない!?」
たたたっとお師匠様は逃げるように砂山を駆け上がると振り向きざまに、砂山の先へと腕を伸ばす。
「ほんとかなぁ?」
なんかタイミングが良すぎる気がするんだけど。
心の中、そんな風に呟きながら、足取りは変わらず、少し遅れてボクは砂山の頂上から先を見渡す。
するとそこには!
「わあっ!!」
太陽を受けてきらめく金の砂海の中。
まるでどこかこことは違う場所から地面ごと持ってきちゃった!みたいな。
そんな青々と茂る森が急に姿を現していた。
その中央には裾野を苔むした、とっても大きな白がたくさんの木々に埋もれていて。
死してなお、鎌首をもたげ続けるそれは、まったく誇り高き、竜の遺骨だった。
まだ遠く、しかし確かに、風の中に砂漠では感じえないはずの潤いを覚えるのはボクがイルカだからではないだろう。
本当に、砂漠のただ中にこれだけの命が栄えているのだった。
「あれが、我らが神が命を投げうってまで作った、神骨の聖域だ」
驚いたか?とリズは何故か得意げにそうボクに問う。
「すっごくすごく、驚いたよ!」
ボクはその小さな矛盾に気づくことなく素直にそう返すのだった。




