最古の戦争
「最古の戦争、それは人類と魔物を率いる魔族が世界を賭けて命を散らし続けて、その果てに人類が世界を勝ち取るまでの争いの歴史……」
日を受けて白く煌めく砂浜を背景にぴょんっと襟元から顔だけを覗かせ話始めるお師匠様。
口が勝手に形作るのを何とか頬を緩ませる程度で抑える。
……鳥になったお師匠様が可愛いなんて、調子に乗るからね、絶対に言えないね。
「とここで、メリアちゃんに抜き打ちテストです!最古の戦争、それは何年前の出来事だったでしょうか?」
「だいたい1000年ぐらい前だよね、あれだけ聞かされてるんだもん、流石のボクだって覚えたよ」
「そうそう、大正解!最古の戦争は厳密に言うと今から約1040年前の春に起こったとされているわ、とっても大昔の戦争で当時の戦争の資料はあまり残されておらずその実態は不明瞭なの、それは長い年月のうちに資料が失われてしまったからと、そうよく"勘違い"されているのだけど、実際はそうじゃない……さてそれは何故でしょうか?はい、そこのメリアちゃん、答えてください!」
ぼわっとほっぺの羽を膨らませながら、ボクを翼で指すお師匠様。
たしかそれはこの最古の戦争特有の"戦況"のせいなんだよね。
「人間側が戦力を”英雄”に頼り切っていたから、だよね」
「……魔族と人間、その二つの種族には圧倒的な力の差があった、魔族は強大な魔法や力を持ち、そして大勢の魔物を率いる術すら持っている、突然どこからか現れた魔族にたいして人はあまりにも無力だったの、人が一方的に蹂躙、支配されていたその時だった、それは魔族が現れたとき以上に突然に前触れなく、強大な魔法と剣技を操る英雄と呼ばれる人間が各地に現れ魔族を討伐し始めた……はい、メリアちゃん正解です!最古の戦争、その実態は人間対魔族ではなく英雄対魔族なのです!だから、実際に最古の戦争の実態をその目で見た人間は少なかったの、メリアちゃん!ちゃんと要点を覚えててえらい!」
「えへへ、そんなに褒められることじゃないよ〜」
「うんうん、確かにそうね」
「えっ?」
「そしてその英雄の一人がクルルなのでした〜」
「全然話が入ってこないよ!耳から耳に言葉が通り抜けちゃうよ!」
「メリアちゃんものすごーく早口になってるわよ、ほら落ち着いて」
「落ち着けないよ!」
「ふふっ」
とそこでお師匠様は堪え切れないように笑い声を漏らす。
「ごめんなさい、私、難しい話をしてるとついついメリアちゃんを揶揄いたくなっちゃうのよね」
「ひどいよ、お師匠様……」
「期限直して、ほら食後のデザートもう一つ追加してもいいから、ね?」
お師匠様お得意の必勝法、だけど今日のボクは一味違う。
「……それは違うよ」
ボクはいつにもまして淡々と真面目な声音を形作る。
「え?」
そして困惑を声に出したお師匠様の頬を指をカニにして挟んだ。
光の羽毛を掻き分けて、とくとくと流れる小鳥の息吹を感じながらに突きつける。
「二つ、でしょ?」
「しょ、しょれで手を打ちまひょう」
「やった」
むにむにとお師匠様を弄りながら。
「二つで許してあげるボクの寛大な措置に感謝してよね」
「ふぁい」
ボクに両頬を挟まれたお師匠様はその嘴から気の抜けた返事を漏らす。
鳥のほっぺってなんでこんなにふわふわなんだろう。
「あの、しょろしょろ放してほしいのだけれど……」
「……」
「メリアちゃん?」
「……」
「ピっ!」
「はっ、ボクはいままで何を……ってお師匠様は?」
目の前にうっすらと残された光の軌跡、無意識にたどるとそれは人混みを縫うように先へ続いていて。
「あっ」
人混みを抜けた先、沿道のテラス席にその小鳥は止まった。
この街特有の魔族の意匠が刻まれたテーブルには見覚えがあって。
小鳥はぴょんぴょんと飛び跳ねるようにして、そこへゆったりと乗せられた手のひらへ口づけをする。
「ん……」
光は解けて、まるでお昼寝から目が覚めるように魂が戻った。
「あ、メリアちゃん、こっちぃ!」
真っ白なパラソルの下でお師匠様は大きく私に呼んでいた。




