保護者として
「今日はそんなことがあったんだ」
ぬくぬくとお布団の中でボクはお師匠様にすっかり日課となった今日の報告をする。
「親として、避けられない問題ね……ちょっと刺さるものがあるわ」
「え?お師匠様、子供いるの?」
思わず聞くとお師匠様はふふっと笑って。
「あなたのことよ、メリアちゃん」
とそう、返した。
「へ?」
その言葉がボクの脳内を駆け巡る。
そして。
「ボクってお師匠様から生まれたの!?!?」
「いいえ、違うわ」
「違うんかいっ!」
ボクの手はひとりでにお師匠様の胸を手の甲で打つ。
「でも、似たような物でしょう?私はメリアちゃんの保護者なんだから」
そう言ってお師匠様はボクの髪の毛を弄る。
「あ、そっか、そう言うことになるんだよね」
ボク、ちっちゃいし、お師匠様はお姉さんだからね。知らない人から見たらそう見えるよね。
「でも、お師匠様に保護者感ないよ?」
「そうなの?じゃあメリアちゃんから見て、私ってどんな感じ?」
「うーん、友達かな!」
「へえ、そうだったのね」
「意外だった?」
「うん、私から見て、メリアちゃんは可愛い妹みたいなものだから」
「そうなんだー、なんか不思議だね」
そう言ってボクたちは二人笑う。
「そう言えばさ、お師匠様、お仕事どんな感じ?」
「うーん、それがね?」
そう言うとお師匠様はもぞもぞとお布団の中で動く、そして心なしか居住まいを正して語りだした。
「どうやら、冒険家ギルドはこの街を作ったとされる英雄について調べているみたい」
「この街を作った英雄?」
「ええ、彼女の名前はネレイア、水流を自在に操り"水操"の異名を持つ英雄よ」
「へー、そうなんだ……ん?水操?」
その矛盾にボクは引っかかる。水操、それは最近聞いた言葉。
「メリアちゃんも、気付いたみたいね」
「英雄は失声魔術を使えないんだよね、それなのに、"水操"なんてちょっと変だよ」
「その通りよ、メリアちゃん、英雄は有声魔法を私たち人類に伝来した……そのせいなのかはわからないけど、今まで失声魔法を操ったとされる英雄は一人も見つかっていない、そのため、英雄は失声魔法を使えなかったと考えられているの」
「なのに、英雄ネレイアの異名は水操なんだ」
「うん、だから、冒険者ギルドはネレイアが本当は失声魔法の使い手だったんじゃないかって疑っているみたい」
「なるほどね、ってことはネレイアについて調べることがお師匠様のお仕事なんだ」
「ええ、そうみたいね、でも、冒険者ギルドにある資料はもうほぼ見終わってしまったのだけど、決定的な証拠はどこにもないのよね……」
そう言うとお師匠様はふうとため息をついた。
「お師匠様、大変だね」
「そうなの、すっごく大変なの、だから――」
そこでボクは敏感に気配を感じ取る。
「だ、だめだよ、お店に来ちゃだめだよ!」
それはもう何千回と繰り返された気配。
「うう、メリアちゃんの入れてくれたコーヒーさえあれば私、頑張れるのにぃ……」
「だめだからね!」
「うう、じゃあ、せめて抱き枕にさせて、メリアちゃん」
「それもだめ!」
「そ、そんなっ、しっぽ、しっぽならいいでしょ」
そう言いながらすでに尻尾に這わせられている手のひらを弾く。
「しっぽもだめだよ、ボク疲れてるからもう寝るね」
「ひどいわメリアちゃん、しくしく」
もうその手には乗らないよと、ボクは耳を枕に押し当てる。
お師匠様お得意のウソ泣きはボクが眠りにつくまでいつまでもいつまでも続いていたのでした。




