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メリアと不思議な旅  作者: 首長イ鳥
霧の街
35/41

お父さん

「メリア、もう少しそっち寄ってくれ」


「そんなに寄ったらボク見えちゃうよっ」


「おい、おとなしくしないか」


ボクたちの小競り合いをマスターが咎める。

あのボクの発言の後、その手があったか!と飛び上がるルーランと共に三輪車にぎゅうぎゅう詰めになること30分。

ボクたちはルーランが今朝聞いたというデート場所のレストランにやってきていた。


「あの子が、娘さんなんだよね」


「ああ、そうだ」


ボクたちの視線の先、そこにはセーラー服姿で一人、テーブルにノートを広げる女の子がいる。


「ったく、俺の娘を待たせやがって……」


「まだ、5分しかたってないけどね」


「5分もだっ、男なら先に来て待っとくもんだろう」


「へー、そういうもの?」


ルーランとボクは落ち着かない様子でちらちらと背後の娘の様子を伺う。


「メリア、ルーラン、こんなこともあろうとこれを用意しておいた」


その声に振り返ると、マスターはボクたちにサングラスを差し出す。


「お、気が利くじゃねえか」


「ふっ、まあな」


既に装着済みのマスターはとても自慢げだ。


「メリア、ほらっ」


「おお、なんか探偵みたいだねっ」


そうつぶやいたその時だった。


「あの――」


その声にサングラス三人衆はばっと振り返る。


「ひっ!」


声の主は僕たちの顔を見るなり、小さく悲鳴を上げる。

真っ白のエプロンに後ろで纏められた髪、手にはメモ用紙を持っていて……ってどう見ても店員さんだった。


「ご、ご注文をお伺いしたいのですが……」


こわごわとウエイトレスさんが、ボクたちに話しかける。


「……ああ、すまない、コーヒーを三つ貰えるかな?」


「コーヒー三つですね、かしこまりましたっ!」


そう言うなり、逃げるように去っていくウエイトレスさん。

そして客観的な事実に気づく。


「……ボクたち、すっごく不審だよ!」


「サングラスはやめておこう」


「そうか?せっかく用意したんだがな……」


名残惜しそうにマスターがサングラスを取った。

その時だった。


「お待たせー、待った?」


そんな声が聞こえてきた。


「ううん、今来たとこだよ、ほら座って?」


ルーランの娘さんが声の主、制服姿の男の子を促す。


「あいつが……」


「彼氏のようだな」


「うん、そうみたい……」


ボクたちはごくりと生唾を飲み込んで見守る。


「じゃあ、今日も頼む!」


そう言って彼氏は娘さんに向かって手のひらを合わせる。


「頼むって、何をお願いしてるんだろ?」


「きっと、金の無心だ、あの野郎、俺がぼこぼこに――」


「まてルーラン!もう少し様子を見よう」


今にも席を立とうとするルーランを二人で抑える。


「はいはい、そのために来たんだもんね、ほら早くノート出して」


「りょーかい、せんせ」


彼氏はカバンからノートを取り出す。

その様はいたって学生として健全で。


「勉強してるみたい?」


「どうやら、そのようだな」


二人は仲睦まじく身を寄せ合いながら、ペンを走らせる。

時折、彼氏の方が、娘さんに教えを乞うてはありがとうと大げさな振る舞いで感謝の言葉を口にしていた。

それは窓から夕焼け模様が見えるようになるまでいつまでも続いて。


「ルーラン、心配することはなかったじゃないか」


「……」


ルーランはその様子をただ、見つめていた。


「……でもさ、急に勉強教えてほしいなんてどうしたの?」


「だって、今の成績のままじゃお前と同じ王立大学にいけないしさ……お父さんにはもう大学のこと言ったの?」


「ううん、まだ言えてないんだ、お父さん、お仕事大変なのに、大学に行きたいって言えなくて」


「そっか」


彼氏はそう呟くと意を決したように娘の手を取る。


「一人じゃ言いにくいならさ、俺も一緒にお願いしに行くよ!それでさ、もしダメだって言われたらさ、二人で二年くらいバイトして学費稼いで、それから大学行けばいいよ」


「うん……ありがとう、ほんと優しいね」


「へへへ、あっ、でもお願いしに行ったらお前なんかに娘はやらんって怒られちゃうかな?」


「どうだろう、お父さん私には優しいけどね」


「そのにはが怖すぎるんだけど」


「でも、一緒に来てくれるんでしょ?」


「当たり前だ、男に二言はない!」


虚栄を膨らませて胸を張る彼氏に娘は笑う。

それはとっても幸せそうで。


「いい人みたいだね」


そんなボクのつぶやきにルーランはゆっくりと席を立つ。


「ルーラン?」


「いこう、マスター、メリア」


「うん!」


「ああ」


先導するルーランはちょっとしょぼくれてたけど、でも背中はとっても大きかった。



「俺は、娘が生まれたとき、一生こいつを守ってやるってそう思ったんだ」


「うん」


ボクは相槌を打ちながらとくとくとカフェオレをカップに注いで、ルーランの目の前に置く。

あのレストランからお店に戻って、カウンター席に着くなり黙り込んだルーランはとつとつと話し始めた。


「でも、それは間違いだったんだな」


「間違いだなんて……」


「いや、間違いなんだ、娘は大きくなった、いつまでも俺のそばにいるわけじゃない、もうすぐ旅立っていくんだなって」


そう言ってちびちびとカフェオレを飲むルーランはすごく寂しそうで。


「でも、それは今じゃない、今のお前にはやれることがあるんじゃないか」


「ああ、そうだな」


そう言うと、ルーランは一気にカフェオレを飲み干すと、立ち上がる。


「今日はありがとな、二人とも」


「気にするな」


「どういたしまして!」


ルーランはボクたちの声を聴き終えると右手をあげカランカランとドアベルの音だけを残し、店を去る。

すぐに外からはぷしゅーっと特徴的なルーランの愛車の音が聞こえてきた。


「お父さんって、大変だね」


「ああ」


なんとなく、ボクはお師匠様のことを考えながら、残りのお仕事、お皿をふきふきするのだった。



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