どりっぱー
「じゃあ、次はいよいよ、コーヒーを入れようか」
「はい!」
「まず、そこのカップを取って」
「カップ!」
「そしてその上にドリッパーを置くんだ」
「どりっぱー!」
「そしたらそこにコーヒーフィルターを乗せて」
「乗せる!」
「よし、じゃあ、フィルターの中にこの匙で二杯、コーヒー豆を入れてくれるかな」
「りょーかいです!」
ボクは匙いっぱいにこんもりとコーヒー豆を掬う。
「擦りきりね」
「擦りきりで」
縁でコーヒー豆を拭う。
「よし、それじゃあ、お湯を入れよう、普通の人はやかんでお湯を沸かすんだけど……メリア、お湯を出せるかい?」
ことっと目の前に置かれるのはノズルの細いドリップポッド。
「お、お湯」
ボクは体の中を流れる奔流を意識する、熱く熱く……。
じょろろと手のひらからお湯が沸いて出る。
「……」
「どうですか……?」
「少し、お湯の温度が低いね、メリア、君はどうやってお湯を作り出しているのかな?」
「え?それは熱くなれ熱くなれって体の中の奔流を意識して……」
「なるほど、奔流は意識できているんだね」
そう言うとマスターは手のひらを向ける。
「メリア、寒いときに手を擦ると暖かくなるだろう」
「うん、ボク、やったことあるよ」
寒い冬の日、お師匠様と手を擦りあった思い出が頭に浮かぶ。
「それと同じことを奔流でするんだ、だから、熱くなれではなく――」
マスターの手のひらから水球がぽわりとあふれ出す。
「奔流を速く擦り合わせるんだ」
言葉に呼応してそれは急にぼこぼこと気泡と蒸気を出すと、水球はあっという間に小さくなって消えた。
「すごい……」
「こればかりは練習あるのみだけどね、メリア、やってごらん」
「わかったよ、速く擦る、だね」
ボクは目を閉じて体の奔流を意識する、速く擦る、それってどういうことだろう。
やってみる。とりあえず奔流を速くする、そしてそれを擦るためにその反対方向から別の奔流を速くぶつけて――
その時だった。
「うわっ!」
ぶしゅっと。
ボクの手の平から奔流は勢いよく放たれ、壁に立てかけてあったフライパンにぶつかって派手な金属音を轟かせる。
「あっあっ」
「……びっくりした、おいマス――」
「何でもない、ちょっとした事故さ、気にしないでくれ、ルーラン」
「ああ、それならいいが……」
ボクはそう言われ居住まいを正すルーランを見ていた。
そして今の状況を飲み込む。
「ご、ごめんなさい、ボク、やっちゃった」
「大丈夫だよ、メリア、奔流を速く動かそうとしたんだろう」
「うん……」
「私も、まだこの手のひらに水かきがついていたころ、何度も家を水浸しにしてね、よく母に怒られたものだ」
そう言ってマスターはどこか遠くを見た。
「だから、気にすることなんてない」
「ありがとう、ロドリゴさん」
その優しい声音にお礼は心からすっと飛び出した。




