似合ってる?
「ねえ、どうかな!」
ボクはカウンター席でくるりと一周回る。
「とても似合っているよ」
「綺麗すぎて目に見えないくらいだ!」
「えー、そんなに褒めないでよー」
そう言いながら勝手ににやけていく頬を両手で抑える。
ロドリゴさんのお古だという薄茶色のエプロンの感想は上々だった。
「じゃあ、早速だが……」
そう言ってマスターはコーヒー豆の袋を持ってくる。
「このルーランに一杯コーヒーを入れてやってくれないか」
「はい!任せてください!」
「マスター、それっておごりってことで良いんだよな?」
「ふふふ……」
マスターは不敵な笑みをこぼしながらカウンター席に背を向け、調理場へと向き直る。
「ほら、メリア、こっちに来なさい」
「はーい!」
「コーヒーを入れたことは?」
「な、ないです……」
「安心しなさい、一から私がコーヒーの何たるかを教えよう」
「お願いします!」
「じゃあまずはコーヒー豆の選定から始めよう」
「選定?」
ボクがそう聞き返すとマスターはコーヒー豆の入った麻袋を開き、中身をバットの上に流す。
「まず、これが、良い豆だ」
そう言ってマスターはバットの上から豆をつかみ取る。
それはまさにコーヒー豆って感じの見た目で全く違和感はない。
「形はいいし、筋も真っ直ぐで色も濃い」
「なるほど……」
「そしてここからこういった悪い豆を弾いていく」
マスターは先ほどの良い豆を戻すと、そこから2、3個豆を掴む。
「これは割れているし、こっちは形が歪だ、それで……これは何が駄目かわかるかな、メリア」
「うーん……あっ、いい豆に比べてこれは色がとっても薄いよ、マスター!」
「そう、その通りだ、これは色が薄く、ちゃんと焙煎されていない、じゃあ、メリア、この中から悪い豆を選別してくれるかい?」
「任せてよ!」
そう言って、ボクはバットの上に目を移す。
これは割れてるし、これはちょっと色が薄いかな、これも形が変だから弾いちゃおう。
そうやって、ボクはどんどん悪い豆を弾いていく。
そして。
「こ、これでどうかな?マスター」
「どれどれ……」
そう言ってボクをずっと後ろから見守ってくれていたマスターがバットの上をのぞき込む。
「うん、完璧だ、メリアは良い目を持っているね」
「えへへ、ありがとう」
「じゃあ、次は、このコーヒーを挽いてみようか」
そう言ってマスターは、バットの横に、棚に積まれていたコーヒーミルを置いた。
「それじゃ、ここにコーヒー豆を入れてくれるかな」
「はい!」
言われるがままにバットを傾けてコーヒー豆を入れる。
「そしたらふたを閉めて」
「閉めてー」
「次はこのハンドルを力いっぱい回すんだ!」
「回す!」
ボクはがりがりと引っかかるコーヒー豆をぐるぐると挽く。
「マスター、これぐらい!?」
「いいや、まだだ、もっと、もっと早く!細かくするんだ!」
「わかったよ!うりゃー!」
もうボクは遠慮なんてしなくて、がりがりと全速力でミルを回す。
そして。
「よし、そんなところで良いだろう」
「はぁはぁ……」
ボクの腕を犠牲に、コーヒー豆は挽き終わった。
「コーヒー豆は細かくすればするほど濃厚でコクのある味になるんだ、いやあ、この歳になるとそこまで挽くのは大変でね」
「美味しいコーヒーができるのならよかったよ……でも、もうボク挽けないよ……」
「大丈夫だ、メリア、もう今日一日は、そのコーヒー豆でやっていけるよ」
「え?これってルーランさんの分じゃないの?」
「ふふふ……」
その言葉にマスターはにこやかに笑うだけだった。




