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メリアと不思議な旅  作者: 首長イ鳥
霧の街
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水操術

「まったく、あきれたよ、ルーラン、君の無鉄砲さは全て理解しているつもりだったがね」


先ほどまでの堅苦しさを取り払ったマスターはそう言ってため息をついた。


「ルーラン?っておじさんの名前?」


ボクは隣に座るおじさんに問いかける。


「ああ、俺の名前だよ」


「名前も名乗っていなかったのかね」


それにため息をついたのはマスターだった。


「これは長い話になりそうだからまず私も名乗っておこう」


そう言ってマスターはボクの方に向き直る。


「私の名前はロドリゴ、よろしく」


それにボクは再び椅子からとび上がる。


「あ、ボクの名前はメリアって言います、よろしくお願いします」


カウンター席に打ち付けんばかりに頭を下げた。


「ああ、そんなに固くならないで、リラックスするといい、ここはそういうコンセプトで作った店だ」


それにロドリゴさんはそう返す。


「ありがとう、ロドリゴさん」


そう言ってボクは再び座り直した。


「へえ、メリアか、美しい名前だ」


「名前も聞いていなかったのか……」


「えへへ、そう言えば、名乗ってなかったね」


「……」


「……」


「ど、どうしたの?」


ボクのその言葉になぜか二人はボクをじっと見つめる。


「いやあ、花が咲いたようだと思ってな」


「花?」


「若いお嬢さんがいると店が明るくなるってことだね」


「えー、そうかな?」


ボクのその返答に二人は優しく笑みを漏らす。


「なあ、マスター、俺からも頼むよ、この子が街にいる半年間、雇ってくれないか」


「お願いします!」


「そうは言ってもだね、ルーラン、君もこの街でよその方が働く難しさは知っているだろう?」


「それは大丈夫かもしれないんだ、メリア、さっきのあれ、マスターに見せてやってくれ」


「あ、うん、わかったよ!」


「さっきの?」


そう言葉を反芻するマスターを尻目にボクは目の前に手のひらを突き出して体の中の奔流を意識する。

できるだけ熱く、熱く、そして、お店の床は濡らしちゃダメだから、手のひらから奔流が離れないようにして。

そう唱えるとむにっとボクの手のひらからあたたかな湯気を湛えた丸い水の玉が現れる。


「これは……」


マスターはその光景に言葉を詰まらせる。


「ボク、蒸気は出せないけど、お湯なら出せるよ?」


その言葉にマスターは手のひらで返した。


「私もだ」


そう言うとマスターの手から次々と小さな水球が飛び出てくる。

それはさながら、息に吹かれたしゃぼんだまのようで。


「わあ!」


「メリア、君のその立派な尻尾を見て、もしやと思ったが……」


そう言って、マスターは自分の顔の横に手を持ってくると、耳を引っ張った。


「あっ」


そこには人間にはない、水かきがついていた。


「私には魚人族の血が混じっていてね、水操術を使えるんだ」


そう言って柔らかに笑うマスター。


「えっ」


私には魚人族の血が混じっている。

その言葉がボクの中をぐるぐると駆け巡った。

駆け巡った言葉はすっと胸の内に溶けて、それがボクのずっと心の中に閉まっていた思いをあふれ出させる。


「えっえっ、ほんと!ボク、初めて会ったよ!同じ魔法を使う人に!」


「水操術は失われて久しい術だ、私も同胞にあったのはどれくらいぶりかわからない……それにメリア、君の今の言葉で一つわかったことがある」


「わかったこと?」


「ああ、水操術は魔法ではないんだよ、メリア」


「魔法じゃ、ない?」


「どうやら君は海の者について、何も知らないようだね」


ボクを見つめるロドリゴさんの顔、それはどこかボクを憐れむようなそんな瞳だった。


「海の者……うん、ボク、何も知らないや」


心根が漏れる。そうだ、ボクはボクのことを何も知らない。


「わかった」


「……」


「メリア、君をここで雇おう」


「え?」


「そして、この店で、私が水操術について教えよう、もちろん給与は出すし、雑用もやってもらうけどね」


「あっ」


「おい、やったな、メリア!働かせてくれるってよ!」


その言葉にボク以上にルーランが喜ぶ。席をたって小躍りをしながらカウンター席を飛び越える。


「おい、何をしてる、ルーラン」


「いや、あの術を見てよ、絶対あんたなら力になってくれるって思ったんだよ、やっぱり俺の目利きは間違っちゃいなかったと思ってな!」


「おい、やめろ」


そう言ってルーランはロドリゴさんと肩を組む。

結構本気で嫌がって突き放すロドリゴさんを見て。


「あ、ありがとうございます!お世話になります!」


そこでボクはやっと自分が目的を果たしたことに気が付いたのだった。



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