年輪のあるお店
「ついたぜ、ここだ」
がったんがったんぷしゅーっと三輪車は停車する。
そこはスチームホルンの中心街から少し外れた路地裏、石材でできた、建物の裏側が立ち並ぶなかぽつんと一つだけ入り口をこちらに開けているお店、その前にボクとおじさんは立っていた。
スチームホルンでは珍しい年輪に彩られたその外壁、それに少しの違和感を感じて、その表面に手のひらで触れると、ひんやりとした感触を返す。
それは木の温かみではなくて、石の堅牢さだった。
「これ、石でできてるんだ、本物みたい」
「ここの店主が木造が好きでよ、でもこのスチームホルンじゃ木の建物はすぐに腐っちまうからな、特注で建てたらしい」
「そうなんだぁ」
それを聞いてボクは窓ガラスから店主とやらを探す。
しかし擦りガラスに隔てられた店内の様子はよく見えなくてボクは他に目を移した。
入り口の横、小さな立て看板には湯気を湛えた暖かそうなカップの絵が描かれていて、その下には。
「コーヒー?」
とそう書かれていた。
「そう、ここはコーヒーショップ、いわゆるかふぇーってやつだ」
そう言いながらおじさんは入り口を開ける。
からんとドアベルが鳴った。
「いらっしゃい」
間髪入れずに低い男の人の声がボクたちを迎え入れる。
「マスター、コーヒー二杯、一つはミルクと砂糖たっぷりで」
「そっちの子の分かな」
「うん」
「座って、少々お待ちを」
言葉の前にすでにおじさんはどっかとカウンター席に座っている。
ボクもそのおじさんの横に座った。
カウンターにちょこんと両手をのせ、店内を見回す。
外の外壁とは打って変わって、一面、あたたかなオークで彩られた店内。
調度品は最低限で、丸いランプシェードが少し薄暗い店内を頼りなく照らしている。
部屋の隅には背の高いドラセナが控えめに茂っていた。
店内に流れるのはカタカタと揺れる火にかけられたやかんのふたの音だけ。
とっても落ち着いていて、夜更けのお布団のような居心地の良いお店だった。
「はい、お待ちどおさま」
そう言って、丸メガネに口ひげを蓄えた初老のマスターがいつの間にか用意されていたコースターの上の白いカップを置く。
あたたかな湯気が煙るそれを恐る恐る口に運ぶ。
「美味しい!」
一口含んだ瞬間、ふわりと舌の上に広がるのはミルクの丸い甘みだった。
そこにあとから追いかけるたっぷりの砂糖が解けた香ばしさは、まるでキャラメルのように柔らかく、それを飲み込んだときにギリギリその正体が、ボクコーヒーだよと表明することで体裁を保っている、そんな一杯だった。
「それはよかった」
そう言ってマスターはにこやかに笑う。
「ほら、いうことがあるだろ」
おじさんがカップを握ったままボクを肘でつつく。
そうだ、ボク、コーヒーを飲みに来たんじゃなかった。
「うん?」
おじさんのその言葉にマスターは不思議そうに声を漏らす。
ボクはカップをかたりとコースターに戻すと席を飛び上がるように立って、頭を下げた。
「ぼ、ボクをここで働かさせてもらえませんか!!」
その言葉が響いた後、店に残ったのは静寂。
「……これは詳しく話を聞いた方がよさそうだね」
それを破ったのはそんな声だった。




