一時間はながい
「ねえ、メリアちゃん」
「どうしたのお師匠様」
新しい我が家へのながーい道中。霧の中、湿った石畳に滑らないように気を付けながら歩く。
お昼なのになんだか人も全然いなくて。たまにすれ違う人は深くコートを被ってそそくさと通り過ぎていく。
ボクたちのお家の先行きが不安になる、そんな中、お師匠様はいつもの調子でボクに話しかけた。
「この街に来た目的、覚えてる?」
「もちろんだよ!」
どんどん、少なくなっていく街灯を通り過ぎて、ボクは答える。
「お師匠様のお仕事だよね?」
そう答えるとお師匠様ははあと大きなため息をついた。
「そうなの、冒険者ギルドの方から呼ばれちゃってね」
「そう言えば、お師匠様、その冒険者ギルドのお仕事って何をするの?」
「何をやるかはまだ聞かされてないのよね……でも前は街道に居座ったドラゴン退治だったわ」
「ひええ、ドラゴン!怖すぎるよ……」
ぶるぶると震える体を両手で抱く。
「今回はどうなることやら……そう言えばメリアちゃん、私がお仕事してる間、何をするか決まった?」
それは突然飛んできたボクへの矢。
「え!?いやあ、そりゃもう、お勉強でもしようかなーなんて」
ちらちらとお師匠様を見ながらボクは白々しい嘘を並べる。
「まだ、決まってないのね……」
「はい、そうです」
「私、朝から晩までギルドの方にかかりっきりだから、メリアちゃん暇になっちゃうわよ?」
「そうだよねー、ほんと何しようかなぁ、いっそのことバイトでもしちゃおうかな?」
何の気なしに行ったその言葉に。
「え?」
そう零してお師匠様は急に立ち止まる。
「どうしたのお師匠様?」
「メリアちゃん、今なんて?」
「え?なにしようかなーって」
「そこじゃなくて、もうちょっと後」
「その後?いっそのことバイトでもしようかなって――」
そこでお師匠様は前触れなく、ぶわっと両目から大粒の涙をこぼす。
「お、お師匠様!?どうしたの!?」
「メリアちゃんがバイトするなんて……」
「どうしたの、お師匠様、バイト、だめだった?」
「ううん、違うのよ、メリアちゃん、その逆よ」
「その逆?」
「メリアちゃん、前はあんなにちっちゃかったのに、バイトなんて」
お師匠様は手のひら同士の幅で大きさを示す。その幅はボクの顔がすっぽりそこに入れるくらいで。
「ボク、そんなにちっちゃくなかったよ!」
「バイトなんて、メリアちゃん、成長したのね……」
指の腹で涙をぬぐうお師匠様。
「ほんとにメリアちゃん、バイト、できるの?」
「え?いやまだ、するとは決めてな――」
「できるのね?」
「へ?」
ボクを遮ったお師匠様。
涙の奥にあるその目には、固い意志が籠っていて。
「はい、やります」
こうして、ボクのお家でごろごろ大作戦は終わりを告げたのだった。




