あたらしいおうち
「確か、この辺のはずで……あっ!あったわ!」
ポップな絵柄で描かれた二階建ての三角屋根の看板。それを見つけ、お師匠様は声を上げる。
「じゃあ、早速突撃よ!」
「おー!」
そんな掛け声をかけながら扉を押し、中へ入る。
足を踏み入れた瞬間鼻をくすぐったのは古い羊皮紙と乾いた木の匂いだった。
細長い店内には、壁一面に地図と物件の巻物がびっしりと掛けられていて。
「いらっしゃいませ」
そんな内装に気を取られているとカウンターの向こうから声を掛けられる。
「あ、すみません、お家を借りたいと思っていて」
「借家をお探しですね、それなら、こちらで案内することができます、どうぞお座りください」
「はい!」
にこやかなスマイルを携えた、ぴっちりしたスーツ姿のおじさんが椅子に手を差し伸べた。
「つまり、半年間、借家を借りたいということでよろしいですか?」
「はい、そうです!」
「ご予算はどのくらいでお考えでしょうか?」
「予算の心配はしなくて大丈夫です!」
そう言うとお師匠様は一つの札束をカウンターにどんと乗せる。
「おお!」
その威圧感に思わず、声が漏れる。
「お金はあります……」
何故か薄暗い声音でお師匠様はそう言った。
「こ、これは……!」
その分厚さにガタッとおじさんが椅子から立ち上がって。
そしてすぐに座った。
「全て、旧紙幣ですね」
「へ?旧紙幣?」
「数十年前に廃止された紙幣で、今はこちらを使っているんですよ」
そう言ってカウンターの引き出しから、お札を取り出すおじさん。
確かに、全然デザインが違う!
「え!じゃあ、もう使えないんですか!」
「いえ、もちろん、お使いいただけますよ、ただ……」
「ただ?」
「この街も当時と比べてだいぶインフレしまして」
すっと差し出された、札束と新紙幣。
そこに描かれた数字、お師匠様が持ってきた札束には0が3つも足りなかった。
「そ、そんな、なんてこと……」
「この札束一つでだいたいこの新紙幣一枚分の価値しかありませんので、それですと半年と言うのは少々……」
おじさんが言いにくそうにそう告げる。
「ど、どうしようお師匠様」
ボクは焦ってお師匠様へ呼びかける。
「大丈夫よ、メリアちゃん、私に任せなさい」
「お師匠様、頼もしいよ!」
その言葉にボクは安心しているとお師匠様がふらふらと椅子から立ち上がる。
「お師匠様?」
「……」
お師匠様は何故か何も答えない。
凍り付いたように動かないお師匠様、それを揺り動かそうと服の裾に触れようとしたその瞬間。
お師匠様は脱兎のごとく、入り口の扉から外へと飛び出す。
「ええ!?」
「あ、逃げた!?」
同時に扉の方を凝視する。
「……」
「……」
気まずい沈黙。
「えっと!あの、その!お師匠様は――」
「いやでも、まだ何の契約も交わしていませんので……」
残されたボクを哀れに思ったのか、おじさんが優しくボクに話しかけたその瞬間だった。
その雰囲気を打ち破るようにばんと勢いよく入り口の扉が開かれた。
そこにいたのはお師匠様で。
「お金ならありますからぁ!!」
両手いっぱいに札束を抱えたお師匠様がそこに立っていた。




