甘い匂い
ガタゴトとボクを気持ちよく眠りへと誘う振動に、逆らってただ窓の外を眺める。
前から後ろへ、ものすごい勢いで通り過ぎていくのは森の木々たち。
青々と茂るその間をもくもくと煙で縫うように、列車は走る。
「メリアちゃん、おまたせ!」
「遅いよ、お師匠様――」
そこまでいって気づく。両手いっぱいにお師匠様が抱える甘い匂いに!
「って、なにそれ!お師匠様!」
「あっちの客室で車内販売やっててね、お菓子、買ってきちゃった!」
いたずらっぽくお師匠様はそう言うと、両手で抱えたお菓子を列車にそなえつけられた小さなテーブルいっぱいに積み重ねる。
チョコレートクッキーにミルクキャラメル、それにラスクにワッフルにミニドーナツも!
「うわあ!こんなにいっぱいいいの!」
「ずっと列車にいるのは退屈でしょ?今日くらいはいいわよね」
そういってお師匠様はお腹をさする。
「やったあ!」
そう言ってボクとお師匠様がミニドーナツにかぶりついたその瞬間だった。
「まもなく、スチームホルン、スチームホルンに到着いたします、お出口は右側になっております――」
緩やかに目的地への到着を告げる車内アナウンス。ボクは目の前のお菓子の山に再び目を移した。
「や、やばいわ、メリアちゃん!全部、食べきるのよ!」
「うおお!食べる!」
ボクたちは同時に口の中にドーナツを押し込んだ。
「またのご利用、お待ちしています」
ぷしゅーっと水蒸気の音を響かせて、列車は去っていく。
レンガ造りのその駅はまだ朝も早いのにたくさんの人が行きかっていた。
「やってみたら意外と食べれたね」
「ええ、そうね、一瞬だったわね……」
お師匠様は複雑な表情でお腹をさすっている。
「とりあえず、駅を出ましょうか」
「うん、そうだね」
さっきまでの慌ただしさの分を取り戻すように、ゆったりとボクたちはプラットホームを後にする。
そして。
「「ついたー!」」
改札を出て同時に、喜びを言葉にする。
霧の街スチームホルン。
目の前にはその名に恥じない霧が街を覆っている。
でも嫌な感じは全然しなくて、むしろ心地良いのはそれが全て水蒸気だからだろう。
そんな霧の合間におんなじ形のテラスハウスがずらっと横に並んでいるその光景はやっぱりいつもの街って感じではなくて、都会って感じがして。
そこを行きかう人々もなんだかお洒落な感じがした。
「そう言えば、お師匠様この街、長くなるんだよね」
「ええ、多分、半年くらいかな、それぐらいはこの街で過ごすことになるわ」
「一つの街にそれだけ滞在するのは久しぶりだなあ」
「だから、まずはお家を選びに行きましょう!」
「お家!」
「ちゃんと不動産屋さんの場所、チェックしておいたから……」
そう言いながらお師匠様はウエストポーチから折りたたまれたメモを取り出す。
「こっちね、メリアちゃんついてきて!」
びしっと街の中へと指を指すお師匠様。
「はい、お師匠様!」
ボクたちはまだ見ぬお家へと歩き出した。




