次の街まであと少し!
潮風香る古道。すぐそばに迫る海岸は飛沫の音色を届ける。
太陽はさんさんと照っていて、海の恩恵では打ち消せない陽光がボクたちを照らしていた。
次の街まではあと少し、だから、頑張ろう。
「あついわぁ、メリアちゃん、ミスト、ミストやってー」
「もう、また?お師匠様、自分でやってよね」
「そんなこと言わないで、お願いー」
「はいはい、わかったよー」
ぐっと右手に力を籠める。そして体の中に流れる奔流を意識する。
イメージする穴は極力小さくした。お師匠様を水流で吹っ飛ばしたら大変だから。
奔流は右手に集まって、少しの抵抗の後に手のひらから流れ出す。
「ああ、生き返るー」
風に乗るくらい小さな水滴はお師匠様から熱を奪っていく。
もうそろそろ、いいかな。
「あ、待って、やめないでー」
「これ以上やったらボク干からびちゃうよ、ほら、街までもうすぐなんだから我慢してよ」
「そんな殺生な……あつい、あついよ」
「そんなに大きな帽子をかぶっているのに暑いの?」
「これは魔女の帽子だから暑いんですー」
「むしろ魔女の帽子なら涼しいんじゃないの?ほら、魔法の糸で編まれていてどこでも涼しく過ごせる!とか」
「魔女は道具に頼らなくても自分で涼しくできるからねー、そういうのは案外魔法が苦手な人達が持ってることが多いかな」
「ふーん、そうなんだ……ってじゃあお師匠様、それなら自分でミストやってよ」
「イルカ族のあなたと違って私は水を作り出すのに魔力を使うから、小規模な魔法だとかえって疲れちゃうのよね」
そう言いながらお師匠様は慣れた手つきでボクの尻尾をむにむにと触り始めた。
ボクの自慢の尻尾。魚とは違って横向きに広がった尾びれはイルカ族の証だ。
「それこそ、海の水を使って雨雲をつくるぐらい大げさなことをしないと魔力のつり合いが取れないの」
「雨雲!いいじゃん!ボク、雨に打たれたい気分だよお師匠様!」
思いがけない提案、その期待にぴょんと尻尾が跳ね上がりお師匠様の手は置いてけぼりにされる。
「ああ……」
「おねがいだよお師匠様、お師匠様の力ならそんなの朝飯ま――」
いつの間にか目の前に回り込んだお師匠様、その突き出された人差し指がボクの口に軽く封をする。
「メリアちゃん、いつも言っているでしょう、私たち以外に影響を与えるような大きな魔法は使っちゃダメだって」
「そうでした……ごめんなさいお師匠様」
「わかればいいのよ、あ、いや駄目だわ……えへん、今からあなたに罰を与えます」
「ば、罰?」
「私と手をつなぎましょう!」
「え?そんなことでいいの?」
「いいのいいの、だってメリアちゃんの手、ひんやりしてて気持ちいいんですもの」
そういいながら、すでにお師匠様によって握られた手。確かにお師匠様の手は暖かかった。
それはボクの手がひんやりしているからそう感じるのかな。
「さあ、じゃあ歩きましょう!何とかお昼までには街につきたいわね、もう焼き魚は飽きちゃったし」
「えー、ボクの取ってきた魚飽きてたの?お師匠様にはちゃんと美味しい魚をあげてたのに」
「いやいや!そういう訳じゃないの、何と言うかその言葉の綾と言うか、滑り出した本音と言うか……」
「これはもう、食後のおやつを二つにしてもらわないと許せないなぁ」
「それで、手を打ちましょう」
「やった!」
他愛のない話を動力にボクたちは歩く。
次の街まではあと少し。
お昼までにはつけるといいな。おやつが夜に持ち越しになったらいやだもんね。




