第1.3章 – 命と死、そして一台の馬車の間で
ジェイは限界だった。
体はもう以前のように動かなかった。足は弱く、ほとんどゼリーのようで、一歩一歩が自分の体の重さとの戦いだった。喉はまるで火を飲み込んだかのように焼け、胃は長い間空っぽで、もう鳴ることもなく、ただ深く痛むだけだった。
それでも、歩き続けた。
一歩。もう一歩。
ふらふらと、不器用に。
目の前の世界は、まるで熱い水でできたかのように揺れ始めた。
王国の城壁は遠くに見えるが、時間が経つごとに小さくなり、まるで嘲笑うかのように彼から離れていくようだった。
まぶたはまるで何トンもあるかのように重かった。
つまずいた。膝が地面にぶつかり、乾いた小さなほこりが舞う。
手をついて起き上がろうとするが、腕が震えた。
かすかに、ほとんど聞こえない声で、つぶやいた。
—だれか…助けて…
視界は、重いカーテンが一気に落ちるかのように閉じた。
そして世界は完全な黒に溶けた。
暗闇には形も、音も、温もりもなかった。
完全に包み込む、静かな虚無。
だが、その闇の中に、かすかな光が現れた…そよぐ羽ばたき。
蝶だった。
あの青い蝶、以前この世界に来る前に触れた、あの蝶。
羽は砕けたガラスのようで光を反射し、一羽ごとに繊細な音を立てる。ガラスの軽い響きと電子的な歪みの混ざった音だった。
ジェイは近づこうとしたが、足は地面に届かなかった。
蝶は浮かび、ゆっくり震えながら漂っていた…そして、少しずつ離れていく。
—待って… —小さくつぶやくが、聞こえるはずもない。
蝶はさらに遠ざかる。
光が消えると、再び闇がすべてを飲み込んだ。
そして…
遠く、深く、小さなオレンジ色の点が現れた。
小さなろうそくの火のような光。
ジェイは近づこうとしたが、その時、声が割り込んだ。
はっきりとした、生きた声。
—おい…おい、生きてるか?
ジェイはゆっくり目を開けた。
太陽の光が一瞬彼の目を眩ませ、まぶたを細めさせる。
最初に感じたのは、水の冷たさ。
誰かが口に水を含ませてくれたのだ。
—ゆっくりだ、むせるな —男性の声。
視界がはっきりすると、目の前には金属のヘルメットと、素朴な中世風の鎧を着た男性が笑顔で立っていた。
騎士は柔らかく笑った。
—間に合ってよかった。あと数分ここにいたら、森の獣に食べられてたぞ。
ジェイはまだふらつきながら、少し頭を上げ周囲を見た。
木製の簡素な馬車の中だった。
板と大きく太い車輪だけ、贅沢はない。
周囲には六人の男たち。頑丈で、ベテラン戦士のような者もいれば、若く彼と同じくらいの者もいた。
ジェイは唾を飲み込んだ。
—ど…どこに…いるんだ?
水をくれた騎士が、馬車の縁に腰をかけた。
—君はヴァルダレス王国の偵察隊だ。ルートを巡回し、必要があれば物資を届ける。
ジェイは目を見開いた。
—君たち…私の言葉を話せるのか…
騎士は首をかしげ、困惑した表情。
ジェイはすぐに考えた。
自動翻訳能力か?それとも偶然進化で言語が一致したのか?
答えはわからない。
—どこへ行くの? —ジェイ。
—もちろん王国に戻る。物資を補充し、報告を届ける必要がある。
騎士たちはジェイの服を上から下まで見て、現代風のベストやポケット、合成繊維、帽子を確認した。
一人は驚いたように口笛を吹いた。
—その変な服はどこから来たんだ?
ジェイは本当のことは言えなかった。
いや、言えば信じてもらえないことを知っていた。
—ア…アメリカ大陸から… —曖昧に言う—。向こうでは…まあ、Wi-Fiやバイクとか…そういうものだ。
騎士たちは互いに顔を見合わせ、困惑していた。
—ワ…ワイ…ファイ?バ…バイク? —眉をひそめる。
ジェイはため息をつき、首をかいた。
—何でもない…大陸の話だ。
助けてくれた騎士は再び笑った、今度は少し大きく。
—なるほど、君はよそ者か。しかも…金がないな。
ジェイは肩をすくめ、疲れたながらも正直に答えた。
—ここではドルは使えないよね?
—ド…ドル? —皆一斉に。
ジェイは手を振った。
—忘れて、私の話だ。
騎士は深く息を吸い、肩を軽く叩いた。
—金がないなら、王国に着いたら働くしかないな。
ジェイは突然目を輝かせた。
—仕事?冒険者みたいなやつ?A、B、C、Dランクとか?
騎士たちはまるで別の言語を聞いたような顔。
—何のことだかわからん —騎士— 冒険は好きなだけできる、命がけだがな。責任は自分にある。
ジェイは瞬きをした。
—じゃあ…冒険者ギルドはないの?
—ギルドはある —男— でも「冒険者」のギルドじゃない。商人や職人、傭兵の組織だ。
ジェイの心は沈んだ。
毎日のクエストも、ランクも、ステータスクリスタルも…何もない…
馬車はゆっくり進み、王国の巨大な城壁へ向かう道を行く。
ジェイは木の硬い座席に頭をもたれ、ため息をついた。
—金もない…仕事もない…まるで十三歳の時のようだ… —つぶやく— でも今は大人の重み付き…
晴れた空を見上げる。
これから先…絶対に変なことになる気がする。
その予感は正しかった。
馬車は土道を進み、やがて厚い石の橋へ変わった。
長い間森の影の下にいたため、外の光はまるで直射の懐中電灯のようだった。
橋を渡ると、見えた。
王国。
灰色がかった青の城壁は揺るぎなく立ち、古い傷や小さなひび割れがあるが、依然として破壊されそうにない。
ジェイは背筋に小さな寒気を覚えた。本物の城壁だった。CGでもイラストでもアニメ背景でもない。
馬車が門に近づくと、ジェイは以前見逃していたことに気づいた。
助けてくれた騎士たちは…人間だった。
青い肌でも、光る目でも、尖った耳でもない。普通の人間。
粗末に刈ったひげ、汗と金属の匂い、魔法めいた話し方もなし。
安心感は予想以上だった。
家に似た感覚が、まだ世界を越えて存在するような気がした。
街道に入ると、木と石の家が並び、騎士は肩に手を置いた。
—ここまでだ —優しい口調— 金は取れるが…君はよそ者だろ?今回は無料だ。
ジェイは涙が出そうになった。
—ありがとう…本当にありがとう —ぎこちなくお辞儀。
騎士は笑い、馬車は再び動き、市場と人混みの音に消えていった。
ジェイはその場で動けず、周囲を見渡した。
完璧すぎる。
あまりにもクリシェ。
古典的ファンタジーすぎる。
石畳の道、色鮮やかな果物の屋台、赤い屋根の家、昼でも灯る松明、荷を運ぶ人々、木の剣で遊ぶ子どもたち。
兄と読んだ物語の世界そのものだった。魔法があり、理屈は通らない。
だが、最も衝撃的だったのは人々だった。
人間もいた。
でも――
エルフ、長く優雅な耳、陶器のような白い肌。
どっしりした胴体の幅のある髭を持つドワーフ。
歩くたびに尻尾を揺らす猫娘。
耳と短い鼻を持つ狼人間。
皆、まるで普通のように共存していた。
ジェイの頭に真っ先に浮かんだのは…不適切なイメージだった。
「猫耳メイドはどう見えるんだ…?」
すぐに頭を叩いた。
—集中しろ、馬鹿…
そのとき、胃が猛獣のように鳴った。
ジェイは目的もなく歩き始め、人を避け、意味不明の記号が書かれた看板を眺めた。
—発音は同じでも、文字はまったく別の言語だ… —苛立ち。
歩きながら、猫耳狼の老婆の尻尾に触れそうになったが、理性が止めた。
空腹だ。非常に。
そのとき、小さなパン屋を見つけた。
ジェイは人を避け、寝ている犬や空から落ちたボールを飛び越え、店に駆け込む。
店主は中年の女性…と思った。
半分狼だった。
大きな毛深い耳、灰色の襟毛、眠そうな黄色い目、少し猫背。
手は人間だが爪は厚く丸い。
優しいおばあちゃんに見えつつ、腕を押せば噛まれそう。
—パンはいくらですか? —死人のような声で。
女性はゆっくりパンを指す。
動きが遅く、幻かと思うほど。
—…そーれーは…じゅーう…コローン…
ジェイは目を見開き、必死に頼む。
—お金がないんです…一つだけください。後で払います、約束します…
女性は急に速くなる。
ラッパー並みに、言い放つ。
—あげない。買う気がないならどいて!
ジェイは口を開けて呆然。
—な、なんだ—?!速すぎる!
女性は優しい笑顔で、見えないほうきで追い払う。
ジェイは空腹のままふらふら歩く。
そしてポケットを触ると…何か音がした。
包みのクシャリ。
慣れた手触り。
ジェイは神の啓示のように目を開ける。
ポケットから取り出す。
エネルギーバー三本。
反対のポケットに二本。
—やべ…! —涙ぐみながらつぶやく。
三本を一気に食べ、二本は金の延べ棒のように大切にしまう。
空腹はまだ残るが、視界は少しクリアになった。
再び街を歩き、食べ物屋を探しながら考える。
—もしかしたら…このバーを珍しいものとして売れるかも…誰か腹減ってるかもしれない…
こうして、ポケットに二本を入れ、尊厳ゼロで、ジェイのヴァルダレスでの冒険は続いた。続いた。




