第2.11章 - 2年
終わりのない夕暮れが空を染めていた。金色と深紅と紫がゆっくりと混ざり合い、まるで世界そのものが溶けていくような静かな光の海が広がっている。この次元では、雲こそが王であり、地平線はどこまでも続く白い波のようだった。
その雲の大海のど真ん中に、ただ一つだけぽつんと存在する小さな丘がある。草がゆるやかに傾き、風が優しくなでるその場所に、人と獣が向かい合って座っていた。
一人は、黒髪の人間の少年、ジェイ・ベーカー。
足を組み、背筋を伸ばし、深い呼吸を刻みながら目を閉じている。彼の体からは、長い修行で鍛えられた静けさと緊張が同時に漂っていた。
そして、彼の正面には——
火でできたジャガーがいた。
その体はゆらめく炎の毛並みで覆われ、黒い斑点の部分は溶けた炭のように赤く光っていた。瞳は紅玉のような深紅で、軽く退屈そうに細められている。頭の上には、小さな火の輪が浮かび、太陽の欠片のようにゆらゆらと揺れていた。
二人は、この奇妙な丘の上で、雲に囲まれ、ずっと続く夕暮れの中に座っていた。
ジャガーは大きくあくびをし、尻尾の炎をだらりと揺らした。
—もう一年と六ヶ月がたったぞ、ジェイ・ベーカー—
ジャガー:いつものように皮肉っぽく、そして面倒くさそうな声で言う。
ジェイは片目だけゆっくりと開いた。
その瞳は一瞬だけ赤く燃え上がり、またすぐに元の色へと戻る。
そしてまた赤く光り、また消える。
まるで壊れかけの灯りのように点滅し続けていた。
虹彩には、小さな火の紋章——火のエレメントの印が刻まれ、静かに揺らめいている。
—しゃべるなよ、宇宙ネコ。集中できない—
ジェイ:わざとらしくため息をつき、口元を少しゆがめる。
ジャガーはにやりと笑った。炎の牙が揺れ、熱が空気を震わせる。
—そうか?なら、そろそろだな。
前へ進むための……最後の一歩の前の試練だ—
ジェイは眉をひそめ、口を開きかけた。
その瞬間——世界が切り替わった。
ジェイは息をのみ、肺が焼けるような感覚に襲われた。
視界が真っ黒になり、次の瞬間には——
死があった。
自分の死。
何度も、何度も、何度も。
喉を裂かれ、胸を貫かれ、落ち、砕け、消える。
そしてそれだけじゃない。
ダル。
彼の兄。
笑顔、声、あたたかさ——
それが全て、冷たく暗く消えていく。
さらに——
銀の耳を持つ少女、ネコトィナ。
怯えながらも立ち向かおうとする小さな背中。
その姿が、残酷な形で何度も倒れていく。
ジェイの心臓は破裂しそうだった。
呼吸はもつれ、視界はにじみ、体は震え、膝が地面に落ちる。
—は……っ、なんだ……今の……?—
ジェイ:胸を押さえ、汗を流しながら荒い息を吐く。
ジャガーはもはや笑っていなかった。
その深紅の瞳は、深い深い炎の底のように静かだった。
—耐える力をつける時だ、ジェイ・ベーカー—
ジャガー:静かに、しかし揺るぎなく言う。
—死が当たり前の場所で、心を折らずに進むためにな—
夕暮れの光が、ジェイの揺らめく赤い瞳に反射した。
雲の海が静かにうねり、風が丘を包んだ。
そして、二人の修行は——
まだ終わらない。
終わらない夕暮れが丘の上に静かに広がっていた。雲の海の中、草の斜面が柔らかく光に照らされ、ジェイと炎のジャガーを包み込む。光は温かく、そしてどこか神聖な雰囲気を帯びていた。
ジェイは深く息を吸い、まだ胸の中に残る不安を押さえながら口を開いた。
—これをずっと続けるのか?—
問いかける声はわずかに震えていた。
ジャガーは首を振る。赤いオーラが揺れ、火の輪がゆらりと揺れる。
—いいえ、一度だけ見せたかったんだ。ほかの世界で過信しないように—
ジャガーはいつもの皮肉な口調で言った。
ジェイは安堵のため息を吐き、肩の力を抜く。目を閉じて、夕日の柔らかい光を顔に感じた。
—じゃあ…この最後の六ヶ月は何をするんだ?—
問いかける声には興奮と好奇心が混ざっていた。
ジャガーはしばらく黙ってジェイを見つめ、その赤いルビーの瞳に微かな光が揺れる。
—さて…これで訓練する時だ—
その言葉が終わると同時に、空が反応した。
雲の上に、まるで世界が息を止めたかのような静寂が訪れる。
突然、天から光が降り注ぐ。
炎の光、純粋なエネルギーの閃光が丘を貫き、風と熱が巻き起こる。
ジェイは腕で目を覆い、眩しさに息を詰まらせた。
光が少し落ち着いた時、目の前にあったものを見て息を呑む。
丘の真ん中に、待ち焦がれた物があった。
一本のサーベル。
刃にはわずかな曲線があり、光を反射する鋼は純粋で磨かれ、まるで生きているかのように光る。
柄は深い茶色で、ガードには金の装飾が施され、光を受けて温かく輝いていた。
ジェイは胸の奥に懐かしい感覚を覚えた。
これはこの次元のものではない。
地球を思い出させる形。
独立の戦士や歴史の英雄たちのサーベルを思わせる、騎兵の武器。
—これ…僕のものか?—
声は震え、興奮が隠せなかった。
ジャガーは皮肉たっぷりに笑う。
—違う、俺のものだ。両手で使ってるだろ?…ああ、そうだ、手がなかったな。これは君への贈り物だ—
ジェイは息を整え、慎重にサーベルの柄に手をかける。
触れた瞬間、柔らかな熱が手のひらを駆け抜け、まるで武器が息をしているかのようだった。
ジャガーの声が止める。
—まず名前をつけろ。名前のない武器は主人を認めない—
ジェイは目を閉じる。
風が頬をなで、永遠の夕日の光が顔を温める。
雲たちが静かに見守る中、彼は考え抜いた。
五分間。心臓の鼓動と呼吸がリズムを刻む。
そしてついに、目を開けて言った。
—ダマスコスと名付けよう—
刃は微かに震え、金色の光が走る。
スペイン語で名前が刻まれ、母国の言葉が宿った瞬間だった。
ジェイは力強く刃を引き抜く。
土の隙間から炎のオーラが立ち上がり、サーベルを包む。
空気が熱を帯び、丘の上で刃が完全に解放されると、太陽の光を受けて輝いた。
ジェイは両手でダマスコスを握りしめ、胸の鼓動を感じる。
次に訪れるのは訓練。
痛みと努力。
成長と克服。
ジャガーの赤い瞳がそれを静かに見守る。
この瞬間、ジェイ・ベイカーはもうただの人間ではなかった。
ダマスコスを手にした戦士として、新たな道を歩み始めたのだった。
太陽は雲の海の上にゆっくりと沈み続け、空をオレンジと紫色に染め、丘の影が長く伸びていた。ジェイは、ダマスコスを手にしたまま、その刃を敬意を込めて見つめていた。夕日の光が刃に反射し、まるで武器自体が空の炎を吸収しているかのようだった。
—それで…この剣の訓練はどのくらい続けるの—とジェイは尋ねた。心の中の興奮を抑えようとしながら、かつて火の紋章が点滅していた瞳は、今や集中で輝いていた。
ジャガーは赤いルビーのような目で彼を見つめ、ゆっくりと頭を傾けた。
—六か月もあれば、実践的な知識を得るには十分だ—
ジェイは頷き、安堵と期待が入り混じった感情を覚えた。六か月は長く感じるかもしれないが、ダマスコスとの戦い方を磨く機会は逃せないと思ったのだ。
—おしゃべりはこれまでだ、今から始める—とジャガーは言った。その言葉に無駄な仕草はなく、空気全体が訓練の強さで震えているかのようだった。
ジェイは構えを取り、足を軽く開き、剣先を地平線に向けた。体中の筋肉が緊張と弛緩を繰り返し、まるで弓の弦が放たれようとしている矢のようだった。深く息を吸い、丘の頂上を吹き抜ける風を感じた。髪を撫でるその風は、彼の故郷、地球の穏やかな夕暮れを思い出させた。
ジャガーは座ったまま、じっと観察していた。動かなくても十分だった。ジェイの集中と正確さ、そして動きの習熟がこの訓練を形作るのだ。
最初の一撃はゆっくりで慎重だった。左から右へ優雅な弧を描き、刃が空気を切る音はかすかで、風と溶け合うかのようだった。ジェイは何度も繰り返した。回転し、身をかわし、ダマスコスを持つ手に力と柔らかさを同時に感じながら、心と体を剣の動きに同調させようとした。その一つ一つの動きが静かな詩のようであり、刃と彼自身の対話のようだった。
夕日が沈むにつれて、ジェイの動きは徐々に滑らかになった。最初のぎこちなさ、刃を傷つける恐れ、握りの不安は消え、足は地面をしっかりと捉え、傾いた丘の傾斜と調和するようになった。大地が彼の努力を理解しているかのようだった。
ジャガーは時折、低く唸るだけで、まだ改善の余地があることを示した。指の力、肩の緊張、刃が空気を切る感覚――すべてが完璧を目指すための小さな挑戦だった。ジェイは汗を流し、全身の筋肉が限界まで働き、疲労が肩や足に溜まっていった。しかし興奮と決意が疲れを超えていた。
何時間も、訓練は続いた。刃は弧を描き、円を描き、突きや防御を繰り返す。動作の一つ一つがより確実になり、足取りは安定し、丘の草が少し舞い上がるたびに光が刃を照らした。まるで太陽自身がジェイの努力に拍手を送っているかのようだった。
ジェイは徐々に刃と一体化する感覚を覚えた。ダマスコスはもはやただの武器ではなく、体の延長のように動き、思考や反応に応じて自然に応じた。魔法も能力もなく、ただ剣と自分の体、そして心の訓練だけで得られる自由と力は、これまでにない感覚だった。
ジャガーは満足そうに見守った。ジェイが修正する動作、筋肉に刻み込む反復、学ぶ小さな細部、すべてがより大きなものへの一歩であることを知っていた。太陽が地平線の向こうに沈み、空が不可能な色に染まる中、ジェイは動き続けた。これが始まりに過ぎないことを、心の底で感じながら。
剣の訓練は始まったばかりであり、風と夕日の中で、彼の新しい章が静かに、しかし確かに刻まれていった。
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六ヶ月の剣の訓練が過ぎた。最初の三ヶ月は、まるで大リーグにデビューする初心者を見ているかのようで、動きはぎこちなく、足は震え、剣の柄も時々手で揺れ、空を切るだけで精確に斬ることはできなかった。しかし、時間が経つにつれて少しずつ変化が現れた。次の三ヶ月で、そのぎこちなさは体と剣の間にわずかな調和に変わり始めた。派手ではなかったが、動き、回転、手首の使い方に少しずつ剣と一体になる感覚が現れた。
訓練の最終日、夕焼けの空はオレンジと紫に染まり、丘の草原にそよ風が静かに吹き抜ける中、ジェイは剣を一瞬下ろし、深く息を吸った。そして、長い時間導いてくれたジャガーを見つめながら口を開いた。
—今まで訓練してくれてありがとう、そして力を貸してくれてありがとう— ジェイは感謝と少しの興奮を込めて言った。
ジャガーは炎のような毛皮をたなびかせ、赤いルビーの目で彼を見つめ、誇らしげで自慢げな口調で答えた。
—もちろんだ、母の子であり兄弟のためなら何でもする。来てくれて嬉しいよ—
ジェイは心の中で苦笑した。
—本当は承諾してないんだ、勝手に連れて来られただけ…—
ジャガーは裂け目を開く前にジェイに近づき、深く、はっきりとした声で忠告した。
—人間よ、今は平均的な人間より強いが、まだ訓練が必要だ。帰ったら、訓練を続けることだ。君はこの星で最強ではない、多くの者がまだ強い、そして信じろ、多くの者が—
ジェイは眉をひそめ、皮肉めいた口調で答えた。
—なるほど、異世界の主人公が弱すぎて強化されるべき時ですね?理解できます…ここでは二年だけど、兄とネコティナの星では二日しか経ってない—
ジャガーは眉を上げ、低く唸った。
—お願いだ、第四の壁を壊すのはやめろ—
—何を言ってるの?— ジェイは微笑みを浮かべながら答えた。
その瞬間、足元に裂け目が開き、紫と青の光を放った。宇宙を思わせる光が渦巻き、時間までもが歪むように見えた。ジェイは落ちる感覚に包まれ、上を見上げると、ジャガーが草の上でじっと彼を見ていた。
—幸運を祈る、兄弟よ— ジャガーは静かで温かい声で言った。 —必要な時はいつでもそばにいる、そしてエネルギーを過剰に使うな—
突然、ジェイはダルの屋敷の庭の草の上に立っていた。片手にTシャツ、もう片方にダマスコの剣を持ち、夜の空に包まれた。周囲の景色は静まり返り、屋敷の柔らかい灯りが長く伸びる影を作り出していた。ジェイは驚きと困惑で周りを見回した。
—ここで本当に二日しか経ってないのか?—
目の前には兄とネコティナが立ち、屋敷に入ろうとして足を止めていた。庭の裂け目は紫と青の光を放ち、縁には炎が巻き上がり、まるでジェイが来た火の次元の裂け目を思い出させるようだった。ジェイは胸を張り、誇らしげに、そして少し遊び心を込めて声を上げた。
—僕のこと、寂しかった?—
夜風に声が乗り、裂け目の微かな光が揺れる中、世界は静かに息をつき、ジェイの新たな冒険の始まりを告げていた。




