第1.2章 ー 未知の獣
ジェイは土の道を下り続け、山からどんどん遠ざかり、王国を囲む森の奥へと近づいていった。
異世界にいるにもかかわらず、景色は…驚くほど普通だった。
背の高い木、緑の葉、ありふれた低木。
巨大な食虫植物も、話す木も、光るキノコもない。
あまりにも普通だ。
「ふう…まあ、ここには変なものはないな」
彼はつぶやきながら進んだが、動物が全くいないことに少し不安を覚えた。
鳥もいない、虫もいない、ウサギもいない。
何もいない。
静けさは深く、歩くたびに地面を叩くような音が響いた。
ジェイは深く息を吐き、落ち着こうとした。
「もし兄がここにいたら…」
少し懐かしさを感じながら考えた。
「狂っただろうな。あいつは俺よりオタクだし。理論を叫んだり、統計を話したり、この森を十個のゲームと比較したりして…」
その時、腹が突然鳴った。
「うわ…最悪。腹減った。もちろんだよな…」
彼は唸った。
ジェイは少し早歩きになった。
できるだけ早く王国を見つけたい。
食べ物と水、できれば人間との接触が必要だ。
地元の生き物が自分をメニューの一部と見なしているかを、最悪の方法で知りたくはなかった。
しばらく歩くと、よく整備された小さな土の道を見つけた。
「これは…道?」
驚きながら小声でつぶやいた。
「誰かが使っているに違いない。よし。生命の証。人間。文明。完璧だ。」
ジェイは少しほっとして、軽い足取りで道に入った。
だが、その安心感は長く続かなかった。
森の中で咆哮が響いた。
深く、低い声。
地面がわずかに振動するほど強力だった。
ジェイは凍りついた。
「な…なに…今のは…?」
喉をからしながらつぶやく。
二度目の咆哮は、さらに大きく、近くで響いた。
考える間もなく、彼は最も太い木の陰に飛び込み、恐怖で動けなくならないように、素早く木を登り始めた。
「高校で運動しててよかった…」
命がけで枝や突起に手足をかけながら登るジェイはそう思った。
…たぶん、本当に命をかけていたのだ。
高い枝に身を沈め、できるだけ音を立てないようにした。
呼吸は荒かったが、なんとか抑えることができた。
隠れた場所から地面の様子がよく見えた。
その時、彼は見た。
森の木々の間で、シルエットが動いていた。
大きい。非常に大きい。
人型ではない。
生き物が少し光の差し込む場所に出ると、ジェイははっきりと見えた。
ライオンのようだが、成獣のグリズリーくらいの大きさ。
毛は暗く、ほぼ黒で、額からは太く前に曲がった角が生えていた。
サイの角のようだが、より鋭い。
ジェイは目を見開いた。
「お…おい…なんだこれ…?」
唾を飲み込みながら考えた。
怪物は空気を嗅ぎ、何かを探すように動いた。
何か、あるいは誰か。
ジェイだ。
「敵かな?うーん…見た目は敵っぽい。すごく敵っぽい。
…待て、角がある。じゃあ…これ何?ユニコーンライオン?」
ジェイは心の中で緊張した笑いを漏らした。
「完璧だ、ジェイ。異世界動物学すごすぎる。」
「ユニコーンライオン」――その即席の名前で呼ぶべきかもしれない――は、ゆっくりと進みながら、明るい黄色の目で地面を注意深く見回していた。
ジェイは完全に動かず、怪物が視線を上げないことを内心で祈った。
1分。
2分。
3分。
怪物はどうやら立ち去ろうとしているようだった。
ジェイはゆっくり息を吐き、運が良かったと思った。
しかし、突然…
頭上の枝がきしんだ。
乾いた、はっきりとした音。
「CRACK」
ジェイは心臓が止まったような感覚でゆっくり後ろを向いた。
そしてそこに何かがいた。
さっきはいなかったものが。
ジェイは唾を飲み込んだ。
高い葉の影の中、細長く暗い指で幹にしがみつく生き物。
一見するとサルのようだった。
だが一度よく見ると、背筋に冷たい汗が走った。
その毛は暗く、ほぼ灰色で、黒い斑点があり、光を吸い込むようだった。
体は細く、筋ばっていて、皮膚の下の腱だけでできているかのよう。
そして何より…ジェイの血を凍らせたのは目だった。
その生き物がまばたきしたとき、垂直ではなく水平に閉じた。
まるで魚や爬虫類の瞬膜のように。
ジェイは吐き気をこらえた。
「な…なに…これ…?」
声にならない声で思った。
しかし恐怖の中で、滑稽な考えも浮かんだ。
「二つの尻尾がある…?無許可ポケモンか…?」
実際、その動物の後ろには二本の骨のような尾がぶら下がり、独立して小さな蛇のように動いていた。
警戒しながら、絶えず動いている。
サル――いや、それが何であれ――は動かず、じっとジェイを見つめていた。
ジェイも動かず。
お互い、一ミリも動かない。
冷や汗が首筋から背中に伝わり、体が硬直する。
呼吸は胸に詰まり、かすかにしか聞こえなかった。
森全体が息を止めたかのようだった。
そして、異様な霊長類は動いた。
ジェイの方ではなく、下へ。
猫のような敏捷さで木から降り、長い指を滑らせながら幹を下る。
ジェイは知らずに息を吐き、安堵で目を閉じかけた。
しかし再び目を開けると…
恐ろしい光景が目の前に広がっていた。
サル――まだそう呼べるなら――は、巨大なユニコーンライオンの体の上に座り、脳を食べていた。
頭蓋骨の裂け目に指を突っ込み、素早く効率的に灰色の組織を取り出す。
音は、湿ったぬるっとした音だけ。
ジェイの胃は逆流するほどだった。
これはただのかわいい動物でも、進化の味方でもなかった。
捕食者だ。
角のあるグリズリーサイズの獣を殺せるほどの。
そして、ジェイはわずか数メートルの距離にいる。
ジェイは拳銃を握りしめ、指の白さで力を示すほどだった。
「くそ…くそ…どうしよう…」
彼は震えを抑えながら考えた。
木から慎重に降りなければならない。
幸運を祈るしかない。
獲物に夢中で、自分に気づかないことを。
慎重で、ほとんど儀式的な動きで、ジェイは幹を下り始めた。
1センチが永遠に感じられる。
怪物はまだ食べ続け、気付かない。
ジェイは信じられなかった。
ただ地面に到達すればいい。
ただ――
「CRACK」
靴の下で枝が折れた。
森の静けさに銃声のように響く。
ジェイは魂が一瞬体を離れるのを感じた。
「いや…いや…ちくしょう! こんなクリシェが今起こるなんて! もちろんだよ!」
頭の中で叫び、心の中で自分を打ちたくなった。
心臓が止まったまま、ゆっくりと顔を怪物の方へ向けた。
血まみれの顔を上げたサルは、口を開き、噛んでいた残骸を落とした。
そして…
ジェイめがけて飛びかかる。
速度は人間の限界を超えていた。
オリンピック選手でも見切れないほどの速さ。
暗い影、殺意の光。
ジェイは思わず叫ぶ。
「いやいやいやいや!」
本能だけで銃を構え、狙いも定めず、技術もなし。
ただ必死に引き金を引く。
「BANG! BANG! BANG! BANG! BANG!」
五発。
さらに三発。
さらに二発。
反動で手が震えるが、弾が尽きるまで撃ち続けた。
サルの体は地面に落ち、体をよじり、胴体と手足に穴が開いて血が滲む。
撃たれても動き続けるとは、こんな生き物は見たことがない。
ジェイは不器用に地面に降り、息を整える。
震える足で怪物の体に近づく。
顔は青ざめ、目は大きく見開き、汗で髪が濡れていた。
カラカスで恐ろしい経験はしてきた。
暴力を見て、銃弾が近くを飛ぶのを聞き、命からがら逃げたこともある。
しかし、これは…別次元だった。
横にまばたきするサル。
二つの尻尾。
ユニコーンライオンを狩る能力。
そしてジェイに向かって突進。
ジェイは震えたが、グロックを再装填し、再び撃った。
「BANG!」×10発
完全に動かなくなるまで撃ち、ジェイは息を吐いた。
その呼吸は、こらえたすすり泣きのようだった。
「…この森から、出ないと…」
声を震わせてつぶやいた。
何が待っていようと、王国でも、人でも、モンスターでも。
ただ一つ確かなこと。
この森を出る。
どんな犠牲を払っても。
ジェイは荒い息をつき、手の震えと混ざる。
火薬の金属臭が鼻に残り、消えそうになかった。
二尾の奇妙な霊長類の死体の前でどれだけ立っていたかはわからない。
体が先に反応し、頭より早く走り出した。
命がかかっているから、走るしかない。
汗が額にたまり、目に入り、痛みを伴う。
呼吸はうなり声のようだが、止まらない。
頭の中はひたすら同じ考え。
「走れ、走れ、走れ…止まるな…走れ!」
空腹も、脚の痛みも、心臓の鼓動も関係ない。
重要なのは、この森から抜け出すことだけ。
最初は狭かった土の道が徐々に広がる。
木々も互いに近く、自然の檻のようだったが、離れていく。
木の間から差す光も強く、温かくなる。
ジェイはそれに気づいた。
奥の方、木々の間に、森にはない明るさが見える。
開けた広い光。まるでトンネルの出口のよう。
「行け…行け…」
無意識に歯を食いしばってつぶやく。
ブーツが湿った土を叩き、小さな泥を跳ね飛ばす。
一歩一歩が最後のように思えたが、さらに一歩を踏み出す。
ついに最後の木々を抜けると、世界が開けた。
森は暗い影となり後ろに残る。
目の前には、幅広い土の道が谷へとまっすぐ伸びていた。
遠くを見ると…まるで大きな絵画のように horizon にそびえるのは…
城壁だった。
巨大な、明るい石の壁。現代の建物くらいの高さ。
堂々と立ち、幅は1キロ以上。
頑丈で古いが、毎日誰かが磨いているかのように手入れが行き届いていた。
ジェイは息をのんだ。
疲れ、痛み、空腹だったが、まだ自分に残っていた力の火花が湧き上がった。
「まさか…」
感情を抑えきれずつぶやく。
「文明だ…!」
城壁の入り口には人型の影が見える。
数人。
歩く者、話す者、長い槍で警戒する者。
ジェイは肩の荷が下りるのを感じた。
この世界に落ちて以来背負ってきた重荷。
人型の存在。
二足歩行の生き物。
おそらく人間。
少なくとも近いもの。
この未知の惑星に来て以来、ジェイは初めて、
「もしかしたら…まだ完全に迷子ではないかも」と思った。
アドレナリンが徐々に引き、安心感が支配する。
心臓はまだ速い。
走ったせいだけでなく、希望のせいでもある。
儚くても、確かな希望。
「行け、リヒター…」
彼はつぶやき、揺れながらも、城壁へと歩を進めた。
文明へ。
未知へ。
この世界での最初の本当の試練へ。




