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第2.9章 - 1年

火のしゅうきょう界。

どこまでも広がるオレンジ色の空。

ずっと夕方のまま止まったような世界。

白いくもは海のように広がり、その上に小さな草の丘がぽつりと浮いていた。


その草の上で、ジェイ・ベイカーは静かにねむっていた。

あたたかい風がかれの髪をゆらし、草が子どものようにやさしく体をささえる。


少しはなれた場所では、火のジャガーがつまらなそうにすわり、ジェイのねがおを見つめていた。

しっぽをゆっくりゆらしながら、まるで「いつ起こそうか」と考えているようだった。


そして突然――


グルァァァァァァッ!!


世界がふるえるほどの大きなほうこう。

ジェイは悲鳴をあげて飛び上がり、草の上に転がる。


—な、なんだよ今の!?—ジェイ

心ぞうをおさえ、ぜいぜい息をする。


ジャガーはまるであくびのように平然と答えた。


—つぎのけいこ に いく時間だ。それと……おまえ、気づかなかったのか?—ジャガー


—何を?—ジェイ


ジャガーはあきれたように頭をかかえた。


—この世界のじゅうりょく。おまえがねむるたびに、少しずつ強くしていたんだぞ—


ジェイは目を見ひらいた。


—ああ……どうりで朝になるたび、トラック十台にひかれたみたいに体が重かったわけだ……—


ジャガーはくすっと笑う。


—そのくらいでへばっていたら、これからは無理だぞ—


ジェイは気持ちを切りかえ、しょうめんから聞いた。


—それで、つぎは何をするんだ?—


ジャガーはゆっくり立ち上がり、大地がふるえる。


—こんどは「えんじぇる」を おまえの中で感じさせる。つまり……火のエネルギーをあつかうれんしゅうだ—


ジェイの顔がパッと明るくなる。


—よし!ついに魔法つかえるのか!?—


ジャガーの目が にぶく光った。


—まだ言ってるのか。これは魔法じゃない。エネルギーだ。わかったら静かにしろ—


ジェイはにやにやが止められない。


ジャガーは深くため息をついた。


—まずは「感じる」ことからだ。火のエネルギーは、世界の根っこにある。つかうには、心を空っぽにしなければならん—


ジェイはこまった顔をする。


—それって…どうやればいいんだ?—


ジャガーはニヤリ。


—二ヶ月、めいそうする—


ジェイが固まった。


—に……二ヶ月!?ずっと!?—


—ねる時間だけゆるす。ほかは全部めいそうだ。気をそらすものは何ひとつ無しだ—


ジェイは天を見上げた。

夕日の空は、どこか遠くてさみしくて、それでもあたたかかった。


(でも……これで強くなれるなら……)


ジェイはゆっくりすわり、足を組んだ。


あたたかい風がほほをなで、世界がしずかに耳をすます。


ジャガーが静かに言った。


—はじめろ、命の魂をもつ者よ—


こうして、

ジェイ・ベイカーの人生でいちばん長く、

そして静かな二ヶ月がはじまった。


雲が地平線まで広がり、永遠の夕暮れのような空。

その中心、草が生えた小さな丘の上で、ジェイ・ベイカーは静かに座っていた。

目を閉じ、呼吸を整え、心を落ち着かせようとするが――まったく上手くいかない。


そのすぐそばでは、炎をまとったジャガーが、つまらなそうに尻尾を揺らしていた。


最初の一ヶ月は地獄だった。


ジェイが深く息を吸い、ようやく集中できそうな瞬間――


ガオオオッ!


ジャガーが背後から軽く吠える。

しかし、それだけでジェイは飛び上がるほど驚いた。


—ちょっ、おまっ…! なんで今のタイミングで吠えるんだよ!

ジェイは怒りながら叫ぶ。


ジャガーは大きなあくびをした。


—これも訓練だ。すぐ動揺するようじゃ、内なる炎は目覚めないぞ、人間。


ジェイは歯を食いしばり、また目を閉じて座る。

しかし、ジャガーのちょっかいは止まらない。


時には首元に熱い風をフッと吹きかけ、

時には地面を小さく震わせ、

果てにはジェイの周りをぐるぐる歩きながら——


—集中してるか? してるのか? ほんとにしてるのか? おい。


と、わざとらしく囁き続ける。


イライラして心が燃え上がりそうだったが――

それでも、耐えることが訓練だった。


混乱の中で静けさを保つこと。

炎の中心で呼吸を続けること。


そうして日々が過ぎるにつれ、ジェイは少しずつ慣れていった。


二週目には、軽い吠え声には眉ひとつ動かさなくなり、

三週目には、ほとんどの挑発を無視できるようになった。

四週目になると、ジャガーのほうがつまらなさそうな顔をし始めた。


—ちっ…もう驚かないのか。つまらん。

ジャガーは尻尾の火を小さく弾けさせてつぶやく。


ジェイは得意げに微笑んだまま、ゆっくり息を吐く。


—もう慣れたよ、お前のくだらないイタズラには。


すると、ジャガーは無言でジェイを前から押し倒した。


—調子に乗るな。静けさなんて、すぐ崩れる糸みたいなものだ。


ジェイはため息をつきながら再び座る。


だがその頃から、胸の奥で何かが目を覚まし始めた。


最初は、ただの小さな熱。

ほんの一瞬だけ灯る温もり。

疲れだと思ったジェイだが、ジャガーはすぐに気づいた。


—感じ始めたか?

世界に属さない、おまえの炎を。


ジェイは何も言わず、ただ呼吸を続けた。

その熱は、日に日に大きくなっていった。


やがてジェイの心の中に、ひとつの火が映った。


白く、静かで、揺らがない炎。

風に吹かれても、闇に沈んでも、決して消えない炎。


まるで何万年も彼を待っていたかのような、孤独な灯。


その火を見つめながら、ジェイは呼吸を続けた。


時間の感覚はとっくに消えていた。


足は痺れ、背中は固まり、眠気が襲うたびにジェイは倒れた。

眠った瞬間、この世界の空は変わる。


燃えるような夕暮れが消え、

深い青の夜空が広がり、

雲は銀色に光り、草原は小さな星のように輝き始める。


それは、ジェイのためだけに作られた夜だった。


ジャガーはその横に座り、星を眺めながら小さく呟く。


—まったく…バカな人間め。

自分の力に気づいてもいない。


ジェイが目を開くと、また世界は夕暮れに戻る。


二ヶ月目には、心の動きはさらに静かになり、

炎ははっきりと姿を見せ始めた。


ジェイが最後に目を開いた時、

空気がわずかに震え、体は重いはずなのに心は驚くほど穏やかだった。


ジャガーは口の端を釣り上げて笑った。


—よし。

これでようやく、ほんとの炎に焼かれる準備ができたな。


第二段階が終わった。


本当の試練は、今から始まる。


二ヶ月が過ぎた。


果てしない雲の海と、永遠の夕暮れに染まる空の下。

ジェイはゆっくりと目を開けた。

空気がどこか違っていた。

軽く、温かく、まるで生き物のように呼吸しているようだった。


胸の奥で、小さな火が鼓動している。

弱くても確かな、目覚めたばかりの炎の拍動。


ジェイは手をゆっくり握りしめた。

そこには…

元素の火の気配があった。


まるで、小さな太陽を抱えているようだった。


ジェイは嬉しさを隠せず言った。


—で、次は何をするんだ?—ジェイ(目を輝かせながら)


ジャガーは前足をそろえ、立派な姿勢でジェイを見つめていた。

その目は、深い赤のようなくれない色、まさにカーマインの光で輝いていた。

見る者の心を射抜くような圧倒的な存在感。


—次は、その力を形にする時だ—ジャガー(低い声で)


ジェイは喜びのあまり跳ね上がった。

まるで新しいおもちゃを買ってもらった子供のように、飛び跳ねて笑っていた。


ジャガーは「まったく…」とでも言いたげに尻尾をゆっくり振った。


—よく聞け、人間—ジャガー

—力を生み出すには、まず炎を感じること。それはもうできた。次は、その力をどこへ出すか決める—


ジェイは何度もうなずく。


—手に送れ。足にも。最後は全身に。炎の形は、お前の意志が決める—ジャガー


ジェイの顔が真剣になる。


ジャガーは続ける。


—だが忘れるな。お前たち人間は魔法を使う。決まった言葉、決まった形、昔からある術だ。

誰かが作った形を呼ぶだけで、姿は勝手に決まる—


ジェイは驚いたように目を細めた。


—だが元素の力は違う。

形は誰かがくれるものではない。

自分で作る。

思い描き、形にし、意志で固めるんだ—ジャガー(雲海に響く声で)


ジェイは深呼吸をした。


こうして、ジェイの新しい修行が始まった。


ジェイは目を閉じた。

胸の中の炎を感じ、その熱を手へ送ろうとする。


だが、何も起こらない。


十分。

一時間。

二時間。


ジェイは歯を食いしばり、汗を流し、時々力を首や背中に流してしまい、失敗を繰り返した。


ジャガーは黙って見ていた。

助けず、邪魔せず、ただその成長を見守る教師のように。


時間が過ぎ、空は赤く、金色に、やがて深い紫へと変わっていく。


十四時間後。


空気がふるえた。


ジェイの手のひらの上に、小さな光。

炎のようで、炎ではない。

だが、確かに「火」だった。


控えめに揺れる、小さなキャンドルのような火。


ジェイは目を見開き、叫んだ。


—やった!! やったぞーーー!!!—ジェイ(全力で)


その声は雲海の向こうまで響いた。


ジャガーは大きくため息をついた。


—あまりはしゃぐな。その力はまだ俺のものだ。お前が元素を使えるのは、俺たちのおかげだ—ジャガー


ジェイは手を下げたが、笑顔は全く消えない。


だって、自分の意思で炎を生み出したのだから。


—で、これを…どのくらい続けるんだ?—ジェイ(まだ笑顔のまま)


ジャガーは紅い瞳でじっと見つめ、静かに言った。


—四ヶ月だ—


以前のジェイなら叫び、文句を言い、寝転んで抵抗しただろう。


だが今は違う。


手の中には、確かに「炎」があった。


—なら始めよう!!—ジェイ(全力の笑顔で)


その小さな炎は、まるでジェイの決意に喜ぶように、ふわりと揺れた。


こうして、ジェイの本格的な元素修行が始まった。


火の次元では、いつまでも夕方のような空が広がり、雲の海が地平線まで続いていた。

その中心にある小さな草の丘の上で、ジェイ・ベイカーは長い修行の日々を過ごしていた。


四か月という時間は、人間にとっては果てしなく長く感じるかもしれない。

だが、この不思議な次元では、朝も夜も曖昧で、時間の流れさえ炎に溶けてしまうようだった。


ジェイは毎日、ただひたすら炎のエネルギーを操る修行を続けていた。


最初の頃、彼が生み出せる炎は、指先でゆらゆら揺れる小さな火種だけだった。

しかし時が経つにつれ、その小さな火種は手のひらからあふれる本物の火へと変わり、さらに勢いを増していった。


空が金色に染まる時間には、安定した炎の形を作り出す練習。

赤く濃い夕暮れの時間には、腕ほどの大きさの火の波を生み出す訓練。

そして、夜を思わせる暗い時間には、灯りの強さを呼吸と心で調整する細やかな修行。


赤いほのおのようなカルミア色の目をした火のジャガーは、岩の上からそれを見守っていた。


だが、ある日。


ジェイはあまりにも強い炎を作ろうとして、胸の奥に力を集めすぎた。


空気が震える。

雲が大きく割れる。

大地のないこの世界そのものが唸った。


次元全体が揺れた。


ジェイの手には、赤白の混ざった暴れる炎が渦巻き、叫びながらも制御できずにいた。


火のジャガーはため息をつき、優雅に岩から飛び降りると、静かにジェイの前に着地した。

そして、しっぽの先でそっとジェイの肩を触れた瞬間。


すべての炎が消えた。

揺れも止まり、世界は何事もなかったかのように静けさを取り戻した。


ジェイは膝をつき、息を荒げながら言った。


「今の…やばかったよな…?」とジェイ。


ジャガーは軽く鼻を鳴らした。


「もし私がいなかったら、この次元に穴があいてただろうな。あるいはお前が先に爆発していたか。まあどっちでもいいがな、人間。」


しかし、その危険な出来事も乗り越え、ジェイは着実に成長した。


拳に炎をまとわせる技。

呪文もなしに炎を放つ技。

動きの軌道に炎の線を残す技。


体は鍛えられ、心は燃え上がり、魂はさらに強く輝いた。


そんなある日、火のジャガーがジェイに向かって言った。


「そろそろ、お前のV2を使う時だ。」


ジェイは目を瞬かせる。


V2

まるでアニメの変身シーンみたいな名前だ。


彼が心の中でそうつぶやくと、ジャガーはすぐ答えた。


「まあ、結局ちょっとだけテンプレっぽいな。」


そして続けた。


「V2と言うだけで身体能力が上がる。声に出す必要もない。心の中で唱えても発動する。」


ジェイは待ちきれず、すぐに叫んだ。


「V2!」


その瞬間、体が軽くなる。

空気が変わる。

力が満ちる。

まるで血が燃えるエネルギーに変わったようだった。


視界が鮮やかになり、地面の感触さえシャープに伝わる。


外見の変化はとても小さい。だが確かに存在した。


ジェイの目が、炎のような赤とオレンジに光り始めた。

そして虹彩の中に、小さな火の形の紋章が浮かび上がった。

火のエレメンタルの印だ。


派手ではない。

たった一つの炎のマーク。


けれど、それは確かに燃えていた。


ジェイはそれに気づかず、ただ体の軽さに驚きながら叫んだ。


「すっげぇ! 体が軽い! 走れる! 飛べる気がする!」


火のジャガーはあくびをした。


「ただの身体強化だ。いちいち大げさにするな。つかれる。」


しかし、その赤い目には、わずかに誇らしげな光が宿っていた。


ジェイの本当の修行は、ここから始まろうとしていた。


火の次元に流れる時間は、まるで終わらない夕暮れのようだった。空には赤い光が広がり、足元の雲はゆっくりと波のようにうねっている。その上にそびえる小さな丘で、ジェイは炎の力をひたすら鍛えていた。


拳をふるえば、空気に熱い軌跡が残る。息をすえば、胸の奥で小さな炎が揺れるような感覚があった。そんな日々が続くある日、赤いカーマイン色の瞳を持つジャガーが言った。


—よくやったな、子どもよ。今日で…一年がたった。


ジェイは耳を疑った。次の瞬間、彼は喜びで飛び上がり、丘から転がり落ちそうになるほどだった。

やっと元の世界に帰れる。そう思ったのだ。


しかし、次に続いた言葉が彼の心を真っ二つにした。


—おい、あまり喜ぶな。まだ一年残っている。


ジェイは固まった。

そしてゆっくりと顔がゆがみ、水があふれるように涙がこぼれた。


—う…うそだろ…こんなの… —ジェイは泣きながら座りこんだ。


ジャガーはめんどうくさそうにため息をつきながら、しかし少し楽しんでいるような目をした。


—さあ、V2を使う時だ。発動しろ。


ジェイは涙をぬぐい、大きく息をすって言った。


—V2。


その瞬間、体の中で眠っていた何かが目を覚まし、心臓が「ドン」と強く打った。

体は軽く、力が全身に流れ、視界さえも鮮やかになった気がした。


見た目の変化はほとんどない。

だがジェイの目だけはまったく別物だった。炎のような赤と黒が交互に瞬き、虹彩には小さな炎の紋章が光っていた。


—で、何をすれば? —ジェイは期待で体を震わせた。


—一年目と同じだ —ジャガーは答えた—。だが今度はV2を使いながらだ。


ジェイは眉を上げた。


—最初の半年は走るやつだろ? V2があれば楽勝かも。


ジャガーは笑った。深く、悪戯っぽい、いや、悪魔的な笑いだった。


そして重力を上げた。


ジェイは地面に押しつけられるようにして膝をつき、顔がゆがんだ。


—V2が切れたら、重力は元に戻す —ジャガーは言った—。長時間使えば、元素エネルギーが飽和して体が壊れる。だから今は耐性をつける訓練をする。V2に慣れたらV3へ…そして最後の形、V4を目指す。


ジェイの瞳が輝いた。

V3。

V4。

新しい力の段階。


—よし、子ども —ジャガーが言う—。走れ。


こうして二年目の地獄が始まった。


ジェイは走った。

丘の上を、雲の端を、赤い世界の中を。


V2の力が体の中で燃え、足は火花を散らすように速くなる。しかし重力は重く、全身が焼けつくような苦しさだった。それでも彼は走り続けた。


雲の海は彼の走りに合わせて波のように揺れ、風は熱く顔を打ち、目の前がかすむほどだった。

V2が乱れれば、瞳の炎紋が激しく点滅し、胸の奥の熱が暴走しそうになる。だが転んでも、倒れても、ジェイは必ず立ち上がった。


半年という時間がゆっくりと溶けていくように、ただ走り続けた。


少年は人間の限界をこえようとしていた。

そして、火の元素の子として、少しずつ「何か」へと変わっていった。


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