第2章 - ダル・アイッカー
村の入口に立っていたのは、三人の狩人とジェイ・ベイカーだった。
ジェイは手をポケットに入れながら聞いた。
-ねえ、君たちの名前は?
一番先に答えたのは、軽いよろいを着た少年だった。
少しアゴを上げて、どこかえらそうに言う。
-オレはラレンだ。
次に、弓を持ったおだやかな少年が静かに言った。
-カイランだよ。
さいごに、大きな体で盾をかかえた男が、自分の胸をドンとたたいた。
-ブロムだ。よろしくな!
ジェイは軽く笑いながら言った。
-オレは…リヒターでいい。
本名を教える気はゼロだった。
ラレンが手をパンとたたく。
-よし、それじゃ行こう!
四人は森へ向かって歩き出した。
歩きながら、カイランがジェイに聞いた。
-リヒター、君の武器は何?
ジェイは肩をすくめて言った。
-オレのちえと…グロックだな。
-グロックって何だ?
ブロムが目をほそめる。
ジェイはため息をつき、ゆっくりとホルスターから黒い鉄のつつを取り出す。
三人は同時に一歩下がった。
-な、何だその武器は…
ラレンは目を大きく開いた。
ジェイはにやりと笑い、またしまった。
それから森に入り、四人は前へ進む。
ラレンは音もなく前を歩き、
カイランは弓に矢をつがえたまま、
ブロムは大きな盾をかまえてうしろを歩く。
ジェイは…とにかくマネして歩いた。
木の枝をふまないように気をつけながら。
突然、草の中からレオンクルンがあらわれた。
ガアアアアッ!
森がふるえるほどの大きな声。
ブロムがすぐ前に出て、盾でライオンのつきあげを止めた。
カイランは横にころがり、三本の矢を連続でうつ。
二本ははね返されたが、三本目が体にささる。
レオンクルンがよろめいた。
ラレンがすばやく前へ出て、くびに短い剣をつき立てる。
そのまま倒れた。
ジェイは目をぱちぱちさせた。
-(オレいらなくね…?)
ラレンがふりむき、軽くほほえんだ。
-さて、リヒター。お前の出番だ。わな職人の力を見せてみろ。
ジェイは肩を落としながらも、すぐ作業に入る。
十五分後には、いくつも罠が森にできあがっていた。
・木のつるをひそませた「足ひっかけわな」
・葉でかくした「落とし穴」
・木の丸太をぶつける「カウンターわな」
そして、その十五分でレオンクルンが三体つぎつぎに落ちてきた。
ラレンが手をたたいた。
-すごいな、リヒター! わなの天才じゃないか!
ジェイは頭をかきながら言った。
-まあ…今できるのはこれだけだし…
三人はうれしそうにレオンクルンの体をかついで帰ろうとした。
その時だった。
ヒュン――。
森の中を、するどい音が走った。
四人はぴたりと止まる。
急に、森が静かになった。
ジェイは からだ が ガタガタ と ふるえていた。
まっさき に アタマ に うかんだ のは、あの 二本しっぽ の キモいサル だった。
ジェイ と 三人 の カリウド は じめん に しゃがみ、ならんで まわり を けいかい していた。
しずか だった。
かぜ も、むし の おと も、なにも きこえない。
きこえる のは 四人 の あらい こきゅう だけ。
ジェイ は ゴクリ と つば を のむ。
その とき、左 がわ で「カサ…」と おと が した。
ジェイ が ゆっくり と そちら を 見ると――そこ に いた。
人 の かたち を した かげ。
くらやみ と いっしょ に とけこむ ような、黒い オーラ を まとい、きもち わるい ミアズマ を だしていた。
目 は まっ白。
どうしん も どうこう も ない。
ただ の 白い あかり の ように、くらやみ の 中 で ギラリ と ひかっていた。
ジェイ は 何か を 言おう と した が――
となり の 大きな カリウド が、のど を さける ような さけび声 を あげた。
ジェイ が はっと そちら を 見ると、
その カリウド の うで が、なかった。
かわり に たくさん の 血 が、ふんすい みたい に とびだしていた。
男 は くるしそう に さけびつづける。
ジェイ は こわばった かお の まま、うごけなかった。
なんとか アタマ を うごかして、右 の ほう を 見る。
そこ に いた はず の カリウド――
もう しんで いた。
からだ は そのまま なのに、あたま が なかった。
ち が じかん を かけて こぼれ、おそろしい におい が ひろがる。
ジェイ は はら の 中 が きりきり と ねじれた。
カラカス で 人 が うたれる のは 見た こと が あった が、
うで を ひきちぎられたり、あたま を もがれたり する のを 見た のは はじめて だった。
のど の 奥 まで、はきけ が せりあがる。
三人目 の カリウド、ゆみ を もつ 男 が、パニック に なって にげだした。
-し、しにたくない! しにたくない!!-
くりかえし さけびながら、きた みち に むかって そのまま 走った。
ジェイ は 叫んだ。
-まて! 動くな!! もどれ!!-
だが おそかった。
かげ が 一回、すばやく うごいた。
それ だけ で、にげた カリウド の からだ が、まっ二つ に わかれた。
ジェイ の せなか に、つめたい なにか が はしった。
まだ 生きていた のは、うで を なくした 大きな カリウド だけ。
その 男 は 泣き声 を あげながら、のこった うで で ぶき を にぎり、かげ に むかって ふり下ろした。
だが かげ は、なんの どうさ も なく、
その うで も ちぎった。
男 が あえいだ つぎ の しゅんかん、かげ から 黒い やり の ような もの が のび、
男 の 目 に ささった。
二本 の 黒いやり が 目 に めりこみ、
男 の からだ が だんだん と ちから を うしない、どさり と たおれる。
それ を 見た ジェイ は、
へなへな と しりもち を ついた。
ぜんしん が ふるえて、はきそう で、こえ も でない。
もり は もう、ただ の きけん な 場所 では なかった。
そこ は、ほんもの の じごく だった。
ジェイは、まえにたつ 黒いかげ を見つめた。
そのかげは 白い目 だけが光り、まるでこの森の中のくらやみとひとつになっているようだった。
ジェイのあたまの中では、いろいろな思いがはしった。
――ここでしぬのか?
――ネコティナを宿にのこして?
――あの人たちのしがいを見たまま?
――この世界で、なにもできずにおわるのか?
そんなのは、ぜったいにいやだった。
かげはゆっくりと 手 を上げ、ジェイにむけてふりおろそうとした。
まるで「さいご」のサインのようだった。
その時――
ジャガーのような大きなほえ声 が森にひびいた。
つぎのしゅんかん、ジェイの 体 は赤い 火 につつまれた。
火はゆれるたびに、かげをおしもどすように大きくなった。
ジェイはなにがおきたのかわからなかった。
すると、あたまの中に声がきこえた。
「おまえの体は、まだ火のちからにたえられない。
すまない。これがげんかいだ。
これいじょうちからを出すと、おまえの体も心もしんでしまう」
それは、あのジャガーの声だった。
火はゆっくりと小さくなり、ジェイの体からきえていった。
かげはうごかず、くずれたわらい声を出した。
耳がいたくなるような、へんな声だった。
かげの体から 黒いヤリ が五本、生まれた。
そして、それをジェイに向かってなげつけた。
ジェイはとっさに目をとじ、手で顔をまもった。
その時――
かみなりのような大きな音 がすぐ横でひびいた。
ジェイのまえにあった黒いヤリは、まるで空気にとかすようにきえていった。
ジェイはゆっくりと目をあけた。
そこには、ひとりの人 がたっていた。
ジェイにせを向け、黒いかげをにらみつけていた。
その人はゆっくりとふりむき、あたたかく、すこしふざけた声で言った。
「まったく……またおれにめんどうをふやしてくれるな、ジェイ」
ジェイの目は大きくひらいた。
その人は、黒い長いコートをきていた。
ふちには赤いラインが入り、どこかかっこよくて、どこかきびしい感じを出していた。
下には黒いチョッキと白いシャツ。
ズボンも黒で、長いブーツに入れていた。
かみは黒くて少しとがり、風でゆれているように見えた。
かおは少しだけぼやけて見える。
でも、なつかしい気配があった。
ジェイののどがひきつった。
「……に……にい……さん……?」
ふるえた声でそう言うと、その人はかすかにほほえんだ。




