《鍛冶工房 ティナ》――再始動
灰色の空気が立ち込める薄暗い工房。その中に、ふたりの姿があった。
長い時を放置された炉は、煤にまみれ、冷えきっていた。棚にあったはずの道具は散乱し、打ちかけの剣が赤錆を浮かべている。魔法の光が溢れる街の中で、ここだけがまるで、時代に取り残された空洞のようだった。
けれど、武志はここの雰囲気が嫌いではなかった。
「一緒にやらないか?ティナ」
「なっなに急に!!あなたとなんかやらないわよ!!なんで急にそういう事になるのよ!!」
「いやいや待て待て!何か誤解してるぞ!そういう意味じゃない!鍛冶屋を一緒にやらないかって意味だ!」
「えっ?あぁ鍛冶屋・・ね鍛冶屋・・・そういうことなら・・・」
ティナの顔は真っ赤だ。
「本気?」
「本気だよ」
「武志あなた本当にバカだね。この街じゃ、鍛冶屋なんて骨とう品、自ら進んでゴミになりたいって言ってるのよ。魔法がすべてのこの世界で鉄を打つ人なんていない・・・」
「ゴミで良い・・・ティナと一緒にいられるなら・・・魔法にはないものが、きっとここにはあるから」
「バカだね・・・武志は本当にバカだね。わかった・・・もう一度、もう一度だけやってみる」
・・・勢いで言ってしまったが・・・本当に良かったんだろうか・・・。
魔法が中心の世界で剣とか鍛冶屋とかって本当に需要ないと思う。
需要のないことをやり続ける会社は倒産する・・・ここは倒産する会社なんじゃ・・・?」
心に不安を覚えつつも俺はティナと一緒にこの鍛冶屋をやっていく決意を固めた。
ティナは煤けたエプロンをつけ直すと、工具を拾い集めはじめた。
武志もそれに続き、無言で炉の下に薪を組む。彼女が慣れた手つきで火打石を鳴らすと、パチ……と小さな火花が走った。
「ここに火がつくのは久しぶり・・・」
「待っててマキ持ってくる」
朽ちかけた薪小屋から束を抱えて戻る武志。その姿を見て、ティナはふと呟く。
「ねぇ・・・」
「ん?」
「覚えてる?あのとき……最初に鍛え直してあげた剣の名前」
「もちろん。ティナソードXだろ?」
「そう!私作ったものには名前つけてあげたいからつけるんだけど・・・その名前かっこ悪いよね」
「えっ今更?」
ティナは苦笑しながらも、頷いた。
「ええ・・・それを気に入って覚えているあなたも若干かっこ悪いわ」
薪が燃え上がり、炉が再び赤く染まり始める。
俺の恋の炎はどんどん小さくなっていく。
若干の後悔・・・再開しないほうが良かったのでは・・・気づかないふりして通り過ぎていたほうが幸せな思い出だけを胸に楽しく生きて行けたかもしれない。
そんな思いでいっぱいだった。
鉄を打つにはまだ時間が必要だ。それでも、小さな灯火が工房の闇を照らしはじめた。
ティナはふと、傍らに立つ武志を見た。
「・・・一緒にやっていくって言ってたけど・・・この先どうするのか考えてる?」
「正直、また死ぬかもしれないし、転生するかもしれない。でも何回転生しても俺は必ずここに戻ってくるよ。ティナに会いに・・・」
「また・・・?また死ぬの?事件?私は転生したくないわよ」
ティナの声が震えていた。泣いてるのか、笑っているのか、わからない・・・って言うか怒ってる?
「もう転生はおしまい・・・今日から、ここで再始動!安住の地にしてくわよ」
ティナが手にした鉄槌を高く掲げ、振り下ろす。
ガン……!
その一打が、空気を震わせる。
火花が弾け、かすかな風が吹いた。
工房――ふたりの再始動が、ここに始まった。