ー再開ー 折れた心と折れない剣
あれから俺は転生を繰り返していた。
もうそろそろ数えるのやめようかな・・・。
そして63回目の転生。
でもなんか数えないと気がすまない.。
赤い屋根の魔導塔が立ち並ぶ都市。
その片隅に、人通りのない裏路地がある。
魔法の光が宙を舞い、空さえも輝いているこの街で、そこだけは古く、灰色で、時代に取り残されたようだった。
ひときわ目立たない古びた看板に、うっすらと読める文字。
──《鍛冶工房 ティナ》
「・・・まさか・・そんなわけない」
ギィ……という扉の音。中は薄暗く、煙のような焦げた臭いが漂っていた。
棚に並ぶはずの道具は乱雑に放り出され、打ちかけの剣が炉の傍で錆び始めている。
ガンッ、ガンッ――
炎の音。鋼を打つ音。誰かが、まだここで金属を打っていた。
「・・・いらっしゃい・・・、注文なら後日・・・」
振り向いた女性が、目を見開く。
鍛冶エプロンの下、煤けた頬。少し伸びた髪。
だけど間違いない。俺の知る、あのときの“ティナ”だ。
「・・・・ティナ?」
工房の隅、酒瓶を片手に座り込んでいた女が、こちらを見上げた。
「・・・なに?あんた誰?何?」
声が低く、目の焦点が合っていない。
「武志だよ。武志!!」
「・・・ああ、なんか勇んで剣もって出てってあっさり死んでなんの役にも立たなかったじゃない・・・」
「・・・結果的には・・・」
「なんで・・・なんで今さら私の前に来たの?」
ティナは瓶を机に叩きつけた。中身の酒が飛び散る。
「もうねぇここじゃ鍛冶屋なんてゴミ以下!!糞よ糞!!魔法ひとつで武器も防具も亨さん再生!アナログで火を起こして鉄槌で打つとか薄汚れたゴミ人間の仕事よ!需要もあんまりないし」
「・・・じゃあなんで鍛冶屋を続けている・・・誇りを失っていないからじゃないのか?火事屋の看板は下ろしてないじゃないか」
「・・・バカだからよ。バカだから他の事なんか出来ないの。急に魔法が・・・とか言われても魔法なんか知らないしここじゃ単純に魔法も使えないバカ扱いよ!バカの一つ覚えで剣を打っても、誰も必要としてくれない。魔法使いの事も達にも”鉄なんて重いだけ”バカの持ち物だって言われてるのよ」
俺はそっと、彼女のそばに座った。
「……バカじゃない。俺は好きだよ鉄・・・俺は今でも、あの剣を……ティナソードXを誇りに思ってる」
ティナは目を細めて、じっと俺を見た。
「武志・・・あなたは変わらないのね」
「ああ。何回死んでも、お前の剣だけは覚えてる。あの夜の熱さも、強さも……全部だ」
しばらくの沈黙のあと、ティナは膝を抱えて顔を伏せた。
「・・・もう一回だけ打たせてほしい。あたしの全てを込めた、“本物の剣”を」
「・・・ああ、頼むよ」
薄暗い工房の片隅で、静かに、何かが確かに始まりかけていた。