出会いと別れ転生ラプソディ
思わず勢いで村に入ってしまったけど大丈夫だろうか?
急に自信がなくなってきた。
「あの・・・そういえば名前聞いても良い?」
「名前・・・武志、佐竹武志」
「タケシ・・・変わった名前ね」
「普通だ俺がいた世界じゃ平凡な名前だよ」
「そうなんだ・・・あれ?武志あなたの剣・・・普通の剣ね・・・きわめて平凡な」
「ええガチャの引きが良くないもんで・・・」
「ガチャ?引き?」
「あっ気にしないで」
「でもその剣ちょっと見せて」
「良いけど普通だよ」
「・・・うん、これなら・・・武志ちょっとうちに寄って行って」
「うっ家に・・・いや・・いきなり自宅にとかちょっと大胆というか・・・」
「あの・・・そういう変な事じゃなくて」
「そうなんだ・・・」
それはそれでちょっとがっかりだが・・・。
「私鍛冶屋だからその剣鍛えなおしてあげるわ。たぶん素材自体は良い素材でできているから鍛えなおしたら結構よくなるわよ」
「マジで?ハズレ引いたと思ってたんだけど・・・意外と良かったのか?」
カン!カン・・・・。
鍛冶場に金属を打つ音が響く。
炎の熱気と赤く燃え盛る炉の光が、ティナの横顔を照らしている。
真剣な表情も・・・かわいい。
「・・・ねえ・・・ずっと見てられるとやいづらいんだけど?」
「ごめん・・・見とれてた」
ティナは汗をぬぐい、手にした鉄槌で俺の剣を打ちなおす。
「出来たわ!!ティナ作 新生鉄の剣!ティナソードXの完成よ」
「ティナ?ティナソード・・・?X・・・?」
「名前よ名前剣の名前!つけるでしょ普通」
「いや・・・」
「ダメだな愛着わかないよ。今日からこの件はティナソードX!!大事にしてね」
「名前はよくわかんないけど大事にするよ。ティナが鍛えてくれた大事な剣だから」
「今日はもう遅いから泊まっていって。夜はモンスターが多く出現するから危ないわ」
「いや・・・でもさすがにそんな急展開は・・・」
「そういうんじゃないわよ。変な事したらこの鉄槌で殺すわよ」
「はい・・・肝に銘じておきます」
こうして俺は部屋でゆっくりと眠りについた。
よく考えたら転生して以来初めての睡眠だ。
モンスター襲撃の夜
夜空に、赤い光が走った。
村のはずれで爆ぜる火花、上がる悲鳴、響き渡る獣の唸り声。
・・・嫌な予感は、やっぱり当たる・・・俺の人生ずっとそうだ。
嫌な予感はよく当たるし良いことは長続きしない。
「何……何の音?」
鍛冶屋の窓から空を見上げたティナが、顔を青ざめさせた。
遠くで、火柱が上がっている。家々に火が放たれ、村人の叫びが風にのって届いてくる。
「ちょっと行ってくる・・・」
「ダメよ!今更あなたが行ったところでどうにもならないわ!」
ダメな気がする・・・言われなくてもダメなのはわかる。
この場合は逃げるのが正解だと思う。
でもね・・・ティナ・・・君が鍛えてくれたこの剣
こいつが俺を前に進ませる。
「私も行くわ!」
「ダメだ。ここで待っててくれ必ず戻ってくるから」
「武志・・・」
俺は走り出した。
多分人生で1番力強くて自信に満ちた走り、それは多分ティナが鍛えてくれた剣のおかげだ。
この剣があれば今度こそ大丈夫だ。
村の広場に出ると、そこはもう“地獄”だった。
家々は焼かれ、地面には倒れた村人たちが転がっている。
その中心に黒く巨大なモンスターがいた。
その禍々しい姿は牙を持ち、双頭の狼のような異形。
《魔獣ウルファング》
戦いに飢えた魔の獣。ランク:A。
ランクA圧倒的に強い。
俺なんかがどうこう出来るようなヤツじゃない。
それでも・・・俺は逃げない。
今まで逃げるだけだった受け身の人生だった。
そんな人生はここで終わりだ!
「……来いよ、ケダモノ」
剣を握る手に力が入る。
「ゔぁぉぉぉぉぉぉあ!!!」
俺は全力でウルファングを斬りつけた。
視界が赤い・・・目の前のウルファングが真っ赤に見える。
意識が遠のいていく・・・景色が・・・消える・・・いやっ!まだだ!
右手に持った剣を杖にして身体を支える。
俺はあいつに一撃も喰らわせていない。
このままじゃせっかくの剣が意味ない・・・。
全身に力を入れ剣を構える。
左腕は・・・食べられた。
血が・・・血が流れすぎてる。
もうそんなには動けない。
最後だ最期の一撃・・・確実にくらわしてやる!
最期の一撃!
剣が肉にめり込む感触。
もう一撃・・・完全に俺の前から景色が消えた。
気がつくといつもの白い空間にいた。
今まで何度も死んでここに来たけど・・・最悪だ。
今までで1番最悪の気分だ。
腕は再生してる。
体力も回復した・・・それでも起き上がる気力がない。
「なんじゃまた帰ってきたのか不甲斐ないのぉ」
「うるさい・・・今俺に話しかけんじゃねえよ最悪の気分だ」
「武志・・・私がいても最悪?」
女性の声・・・!!
「ティナ!」
目の前にはティナがいる。
「なんで?」
「転生するから」
「はあ?」
「私も転生者になったのよ。もう行かなきゃいけないから・・・転生先で会えると良いね。それじゃまたね」