1 少女
青年は気づくと見たことのない路地裏にいた。
不思議な空間だったが、見たことがないといっても現実にありうる範疇の不思議だ。
狭いとも広いともない路地裏に、まるいキノコのような形の屋根をした家がある。
これが、屋根はキノコのようなのに、柱は壁が長方形になるように組まれているのだからやはり不思議だ。
さらには背の高いビルに、まるで家を隠すように囲まれている。
「…ふう。」
青年は顔をこわばらせているものの、妙に落ち着きがある。
あたりを見渡し、まるい屋根の家に向かって歩き始める。
すれ違う猫に挨拶しながら家の前まで来ると、スッと初めからここを目指していたかのような、そんな感覚が流れ込んでくる。
なんとなく、まるいほおずきいろの屋根が愛らしく感じる。
ふと時計に目をやると7時過ぎを指していた。
心地のよい感覚に流されるままに、青年はすべてを忘れ木製の白い戸をコン、ココンと叩く。
少しして
「はーい。」
と元気のよい透き通った声がトントンと階段を降りる音とともに近づいてくる。
扉が開かれるとそこには14、5歳であろう少女が両頬を上げて、嬉しそうに立っている。その少女は白いヨレヨレのシャツをかぶって、下にはサイズがおかしいジーンズをひもで縛って履いていた。