ラケット越しの距離感
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清風学園の校舎裏、風に揺れる木々のざわめきが心地よい午後。
「直人、ちょっと付き合ってよ!」
元気いっぱいの鈴木桜が、相澤直人の袖を引っ張る。放課後の一コマ、何やら面白いことを見つけたらしい。
「…また、何か企んでるんじゃないよね?」
直人は少し警戒しながらも、結局断れない性格が災いして、彼女に引きずられていく。
「大丈夫大丈夫!ほら、早く!」
教室を出た二人は、体育館の裏手に向かう。桜はなぜかニヤニヤしていて、直人の疑念はますます深まるばかり。
「着いた!ここだよ。」
桜が指差した先には、卓球部の部室があった。
「部活の準備?」
「ううん、今日はね、直人にも見てほしいものがあるんだ!」
部室に入ると、そこには彼女のラケットと練習用の卓球台が置かれていた。
「私の新しい技、見てて!」
桜はラケットを手に取り、ピシッと構える。その真剣な眼差しに、直人も思わず姿勢を正す。
「いくよー!」
彼女が放ったボールは、卓球台を軽やかに弾み、鋭いスピンを描いて戻ってくる。
「おお、すごい…!」
「でしょ?この間の試合で見て、どうしてもやりたくて!」
桜の瞳はキラキラと輝いていて、直人は思わず見惚れてしまった。
「……直人?」
「え、あ、うん!すごいよ、さくら!」
慌てて取り繕う彼に、桜は無邪気に笑う。
「ねえ、直人もやってみてよ!」
「え、俺? いや、卓球なんて全然だし…」
「大丈夫だって!ほら、ラケット持って!」
強引にラケットを持たされ、桜に手取り足取りでフォームを教えられる直人。二人の距離はぐっと近く、桜の息遣いまで感じられる。
(ち、近い…!)
直人の顔が赤く染まるが、桜はそんなことお構いなしに笑顔でレッスンを続ける。
「こうやって、腕をスッと伸ばして…あっ!」
バランスを崩した桜が、直人に倒れ込む。
「うわっ!」
二人は卓球台の上に倒れ込む形になり、直人の顔のすぐ近くに桜の顔がある。
「……ごめん、痛くなかった?」
「う、うん、大丈夫…」
一瞬の沈黙、二人の間に流れる妙な空気。
「ふふ、直人ってほんとに顔赤いね。」
「べ、別にそんなこと…!」
顔を真っ赤にして起き上がる直人に、桜はクスクスと笑いながら手を差し伸べる。
だが、その様子を体育館の影から見ている二つの目があった。
「ふぅん、楽しそうだね。」
神谷優馬が、壁にもたれながら冷ややかに呟く。彼の視線は、直人とさくらの間に揺れる何かを見逃さなかった。
「さて、俺も動き出さないとな。」
優馬は静かにその場を離れ、放課後の学園にまた新たなシグナルが走るのだった。
──交わる想い、見えないラインを越えるのは誰だろう?
がんばります