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第一章 7

 安倍英菰はニシと悠馬の幼馴染である。

 小学校低学年の頃、逆神神社の公園で三人が出会ってから、もうかれこれ十年近い付き合いにもなり、中学からはクラスも延々同じなのも相まって、もはや腐れ縁といっても過言ではない。

 

 校則が緩い事を示す、染め上げた赤い髪は日によって結い方を変える。

 これは、彼女がおしゃれに敏感である事の証明であり、また、仲の良い者からは、意中の人物の好みを探っているとの推測も上がっている。青春に現を抜かすありふれた者。

 その可愛らしい小顔には勝気なつり目が収められ、口を開けば八重歯がちらりと見受けられる。右耳にもピアスを開けた陽気な雰囲気を持つ()少女。


「いや、アイツに『美』はいいすぎだろ。良くて『()』…………それ以上でも以下でもないと思うんだけどなぁ」


 放課後の教室前。赤い髪の少女が二階の廊下の窓際におっ掛かり、友人と談笑しているようすを見て、ニシは苦言を呈した。

 ニシは今、遠く廊下の物陰から英菰をストーキング、もとい、観察を行っている。

 理由はもちろん、世津からの依頼のためだ。しかし、代償は大きい。

 なにせ、その姿を通りすがった者達からは「またやってるよ」やら、「今日は一人なんだね」とか、「奇行で顔が台無し…………」等、罵倒が吐き捨てられていたからだ。

 挙句の果てには、「バルサンまかなきゃぁ」という悠馬の噂を決定付ける発言に目頭が熱くなるが、仕方ない。ここは涙を拭って視界を確保する。

 

「でも…………やっぱ気乗りしないわ、友達追い回す真似は…………」


 やはり、世津の依頼であろうと、長年連れ添った親友を物陰からじっと追い回すのは気が引ける。

 百歩譲って遊びとしてならまだしも、アランカヌイという化け物関連での行動だ。冗談では済まない。その線引きはニシにもあるのだ。

 だいいち、英菰はこれまでの付き合いでもそんなそぶりはとんと見せなかったし、違和感に思うところも無かった。いや、もちろん機嫌が悪い時や、暗く落ち込むことも見受けたことが有るが、そんなものは誰にでもある普通の事。

 言ってしまえば、世津を狙うような悪いやつには思えないし、思いたくない。ニシはそのせいで居心地が悪い気持ちでいっぱいだった。

 いっそのこと、悠馬も巻き込んでしまおうか…………、そう魔が差しかけた時だ。


「ニシ君、また会いましたね」


 罵倒とは毛色の違う好奇な声を聞き、誰だ?と背後を見やる。

 そこに居たのは、黒髪で眼鏡を掛けた青年。少年ではなく、青年と感じたのは、おそらくはニシより年上だろう顔つきをしていたからだ。

 

「おまえは、生徒指導室の戦友」


「ご無沙汰しております。同志よぶぅ!?」


 間髪入れず、生徒指導室での敵前逃亡の処罰を鳩尾に喰らわせたニシは、なんのようだと睨んだ。


「う、ぐぅ…………なぜも何も、コレクションを潤わせるため、この高感度カメラ内臓スマホで英菰氏を画枠に収めようと参った次第ですよ」


「…………こりねーな、それも英菰をとか、見る目ないぞ」


「おや、ご存知ない?」


「何が?」


「英菰氏はファンクラブがございまして、高値で取引されているんですよ」


「…………まじ?違法じゃない?それ」


「本当です。バレなきゃ(ぎりぎり)合法です。」


「世間ではそれを違法という。てか、ユウマの話本当だったのかよ…………」


「ちなみに、アナタのファンクラブもありますよ…………あ、いや、ありましたよ。いや、ある?ん?無い…………いや、んん?」


 まじ?と浮足立ったのも束の間。なにやら含みがあることが気になり詰め寄ると、


「ええ、去年もそうだったのですが、アナタの奇行が原因でわずか二週間の儚い命と〆られるそうです。ですが、噂によると実は秘密裏に存続しているとか、していないとか…………いやまぁ、表立っていない時点で、こっちは商売あがったりですよ」


「あ、っそ…………それ、金になるの?」


「すくなくとも、新型のスマホを現金一括で買える程度には…………」


「実はさぁ、英菰の中学の頃の写真とかあるんだけど…………」


「いい値で買いましょう」


 ニシがスマホを取り出し、画像フォルダを吟味し始める。そして、見つけた。中学の頃の修学旅行で栃木県へと行った時のもの。悠馬とニシを加えた三人で撮った記念写真だ。

 ニシはそれを慣れた手つきで英菰のみトリミングし、スマホに表示させた。その瞬間、英菰の画像が表示されたスマホに影が差した。ニシはその影の輪郭には覚えがある。

 あ、やっべぇ…………と、逃げる隙も無く、


「おい、ニ~シ。お前なにやっとんじゃ?」


「はぇ?」


 振り返ると英菰が鬼の形相で頭を振りかぶっていた。次の瞬間、頭突きを喰らって後転するニシ。その度に、背中へ激痛が走り痙攣するはめとなった。


「っとに、あんたはさぁ…………もう少し落ち着き持てないの?だからモテないんだよ」


「…………てるもん」


「あ?」


「モテるもん俺だって!!」


「モテる訳ないだろ、いたる所に現れては下着情報かっさらっていくゴキブリが!バルサン焚いたろか!?」


「そんなことねぇ!!!現に俺は、俺のファンクラブの詳細を聞いたんだ!!!!つまり、憎からず思ってる事の証明っ。これで、遂に俺も彼女が――――」


「――――出来るわけねぇだろボケェ!!!忠告してやる、あんたは女運くっそ悪いから。絶対やめとけ。最低でも私達にそいつを紹介してからだ」


「な、ん、で、お前らにわざわざ報告しなきゃいけねーんだよっ、てめーらは俺のママか?パパなのか??」


「あんたに恋愛はまだ早い!!!不純異性交遊は二十歳を過ぎてから!!!」


 そう言い切った英菰の瞳は、とんとみられることは無い程にまっすぐで、キラキラと煌めいていた。

 つまり、善意百パーセントで言っている事がありありと分かり、本気で引いた。体ものけ反るというもの。


「な、なんて澄んだ瞳で、傲慢なこと言いやがる…………バケモンめ…………」


「それが無理なら一生独身でいろスケベがっ!」


「うわぁあああん…………ぅう…………」


「キモォ、いい歳こいてべそかくなよぉみっともないなぁ…………」


「ヒック、ヒック…………くそぉ…………言いたいこと言いやがって…………つーか、俺だけじゃなくて!こいつも同罪だろうが!?」


 ニシが指さしたところにはもう既に誰もいなかった。またしても逃げられたのだ。


「はぁ誰?」


「最悪だ…………」


「それはこっちのセリフ。で、さっきから物陰からコソコソと。いったい何の用?」


 バレていたらしい。ニシは観念して、英菰を付けていたとばらした。もちろん、画像を集めて高額で売るためと言い訳し、決して世津の話は出さなかった。

 しかし、その話を聞いた英菰が今度は、虫を見る目でドン引いた。


「…………あんたとの縁もここまでかな」


「いや、ちょちょ!!待って!捨てないで今まで仲良くやって来たじゃないかぁ!」


 どさくさにまぎれ、英菰の右足へしがみ付き、別れ話を切り出された男のように声を荒げた。

 この騒ぎ、またあいつか…………。そんな衆目にさらされたニシと英菰だったのだが、普段であれば閉廷する側の英菰は当事者になる度胸は無かったらしく、慌てて足を大振りに払い、己の足の感触を堪能する悪漢を引きはがそうと躍起になった。


「阿呆!変なこと言うな!バカニシ!こら、引っ付くな変態がぁ」


 英菰がついに我慢ならないとばかりに振りかぶった拳を見て、ニシは叫ぶ。


「いいのか!そんなことばかりやってると、ユウマに嫌われるぞ!」

 

 面白い程にビタリと停止する英菰。続いて顔まで真っ赤になって顔をしかめる。


「な、なんでここでユウマの名前が出るんだよっ」


 しめた。やはり、と一転攻勢をかけるニシ。


「いや、バレてない訳ないじゃん」


「…………いつから知ってたの」


「アレは確か、セミがうるさいほど鳴き、天まで届く入道雲が山をおおいつくさんとしていた小学生三年生の夏――――」


「――――ぁああああああ!!!!!!いいっわかった。もういい。言うな。やめて…………」


「ハハハハハ!!俺に逆らうとどうなるか分かったか!?」


「…………最低ヤロウめ…………ほ、ほかの奴に言ったりしてないだろうな?」


「親友の色恋邪魔するほど野暮じゃない。言ってないよ」


「ほっ…………」


「まぁクラスの奴には周知の事実だけど…………」


「んな!?うそだろ、いつから?」


「六月ころにはもうみんな…………」


「今は四月だぞニシ。未来の話か?」


「過去っすね」


「…………うちらの学校は三年間クラス替えないよね」


「そっすね」


「ってことは…………入学して二か月後には既にってこと!?」


「むしろ、気付かないユウマがおかしいんだよ。我々二年三組一同は安部英菰殿の恋路を応援しています」


「し、死にたい…………くっ殺せっ」


「えっちな奴でしか聞かないセリフだ…………」


「なんだと!?」


 顔を真っ赤に荒い息を吐く英菰に対し、「どうどう」となだめ、ニシは思う。

 動向を探るとは言われたものの、やっぱり自分には向いていない。まるで容疑者のように追い回すなんて友達のする事じゃないと。

 ニシは平謝りもほどほどに、話があるから場所を変えないかと提案する。


「なんか悩みでもあるわけ?」


 悠馬と同じく流石に鋭い。

 ニシはつとめて平静を装って問いかけたはずだったのだが、思いつめた心持が顔に出ていたのか、それとも見透かされたのか。

 英菰は呼吸を整えると、それなりに真剣な表情でニシを慮ってくれたのだ。その配慮に、思わず笑みがこぼれたのは不可抗力というものだろう。


「…………なんで笑ってるの?マジで大丈夫?」


「いや、なんでもない」


 いい友達を持った。その言葉は口に出さず、ニシは英菰を人手がいない校舎裏へと先導した。

 今いる場所は校舎の二階。校舎裏には長い廊下を抜け、階段を降り、生徒指導室側の廊下から裏へ回る必要がある。

 英菰とニシはそこに行きつくまで無言で歩みを進めた。だが、不思議と気まずさは無い。気恥ずかしい感覚だが、家族と同じ空間にいるようなリラックスした感じが終始二人の間に流れていた。

 一階の生徒指導室前の廊下に降りた二人は迷うことなくガラス張りの引き戸を開け、校舎裏へと足を踏み入れた。

 

 瞬間、春の外気が二人の髪を揺らす。夕方に差し掛かった日差しは弱弱しく、二人は少しの肌寒さに肩を上げ、首元を隠すように日の差し込まないさらに奥へと移った。

 しかし、先客がいた。


「ユウマ、と先生?」


 今日はバイトがあると先に帰ったはずの悠馬が小山ゆかりと共に、日陰に隠れ既に居たのだ。

 小山は英菰とニシを一瞥すると、

 

「…………私は今日は用事があってな、もう帰るが、お前たちも下校時間だろう早く帰れよ」


 まるで逃げるようにそそくさとこの場を後にした。


「…………え、何?何々?どゆこと?え、お前らもしかして…………ハッ!?」


 ニシは己の発言にすぐに後悔する。本当にそんなつもりではなかった。友達を傷つける行為は絶対にしないつもりでいたのに…………。

 ニシが冗談めかして言った言葉は、しかし、すぐ後ろに着いてきていた英菰にとっては冗談ではないものだったのだ。

 

「ユウマ…………どいうこと?」 


 英菰の目は座っている。

 その手は寒さではない理由で真っ白。今にも悪徳に手が染まりそうな程に拳を固く握っている。

 命の危機を感じたのか、悠馬はとっさに口を開いた。


「あ、いや誤解だ!あの…………」


 悠馬はしどろもどろにニシを見やって、次に英菰へ察してくれよという雰囲気で苦笑いを送った。


「そ、そう!進路の事で話があってさ…………な?そんな怖い顔しないでよ…………は、ははは」


 相当焦ったのだろう、その声は思いのほか大きく、ニシですら驚いた程だ。

 必至で弁明を試みるも、英菰の表情は何か思いつめたように刻一刻と剣呑となっていく。

 これはまずい。ここに呼んだのはニシ自身であり、軽はずみな言動も自身である手前、なんとか仲を取り持とうと思い、まずは、悠馬にこの場を去れ。とアイコンタクトで促した。

 きっと居たところで今の英菰では聞く耳を持たないと思ったからだ。


――――え、でも、ニシ大丈夫か一人で…………。


――――いいよ、俺が発端だし、なんとか宥めてみる。お前は早くバイト行けって。


「あ、あぁそうだ、バイトの時間が…………明日ちゃんと説明するから、ほんと変なことにはなってない!誓って変なことにはなってないから!じゃ、じゃあ!!」


「ユウマっ!?」


 英菰の呼びかけを背に、ユウマはこの場を去っていった。

 残されたのは、やはり気まずい空間。なんだよ、結局こうなるんかい!?。そう心の中で絶叫する。

 しかし、なってしまったものは仕方ない。自業自得を何とか精算するため、脳みそをフル回転させる。こんなに頭を使ったのはいつ以来だろうか。そろそろ知恵熱が出そうだ。回転が最高潮に達し、よし、この話題で気分転換を計ろう。そう息を吸い込んだのだが、


「…………はぁ…………それで、ニシは私に何の用な訳?」


 そう切り出した英菰は、以外にも落ち着きを取り戻していた。

 いったいどういう風の吹き回しなのか、ニシには全く見当もつかない。

 しかし、だからといって先ほどの話題を掘り返すなど地雷原でタップダンスをするようなもの。ほとほと困り果てたニシの頭が遂にオーバーフローしかけた時、


「おい、なんの用も無いなら帰るけど?」


 やはり、普段の英菰だ。なんならいつもより声音が優しいくらい。

 右側に重心を預け、同じく右腰に手を置き、少し見下す様にニシを見上げている。

 どういう心境の変化か、本当に理解が追い付かないのだが、もう仕方ない。ここに来た理由を空振りで終わるわけにもいかないのだ。

 本題を単刀直入で聞くため、英菰に向き直り。有無を言わさぬ迫力で口を開いた。


「お前、俺に隠し事ないか?」


「な、何、急に改まって」


「あ…………アランカヌイって聞き覚えは?」


「アンタそれどこでっ」


 弾けるようにリラックスした姿勢を解き、英菰は唸ったのだ。苦虫を噛み潰した表情とはこういう顔を言うのだろう。

 英菰の動揺は、つまり、そちら側の知識があると暗に明示していた。


「その反応、知ってるんだ――――」


 どうしてそんな危ない事情を話してくれなかったのか。そんな哀しい気持ちがニシの顔を曇らせた時、


「――――待って待ってよ!?」


 英菰はニシに詰めより、肩を思いっきり掴んで揺らす。いつもの勝気な表情はなりを潜め、表情は暗い。


「質問に答えて!なんであんたがソレを知ってるの!?だって…………じゃあ私達はなんのために…………」


 英菰はついにはその顔を伏せる。ニシは彼女のつむじを真上から眺める事しかできない。

 英菰の両手は震えている。重大な秘密がバレたのだと言われなくともわかった。ただ、その言い方には少しのひっかりがある。


「なんのためって、どいうことだ」


「その前に答えて、何処で誰に聞いたの?私のことをどこまで知ってるの?」


 顔上げた英菰の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 英菰の涙なんて腐る程見てきている。でも、今彼女が浮かべている感情の涙は初めてで、ニシは言葉を詰まらせた。だから、行動で示す。

 ニシは英菰の震える両手を優しく離すと、己の背中の傷を見せた。

 背中越しに、英菰が息を飲む音が聞こえる。そして、「そんな…………」と苦渋と諦観が混じったような英菰の声を聞いて、ニシは背中をしまい、英菰に向き直った。


「…………昨日、逆神神社に行ったんだ。そしたら、逆神様って悪霊に襲われた」


「まさか、逃げなかったの!」


 英菰の剣幕に負けニシは下を向く。

 まるで説教を受けている子供のように顔を上げられなくなる。

 彼女の不安や心配の気持ちが痛い程伝わってきたからだ。だからニシは、逃げるわけには行かなかった。仕方なかったと許しを乞うた。


「襲われてる子供が居たんだよ…………それで」


「~~~~っ阿呆!!ほんとに馬鹿!!!普通逃げるでしょ!なんでそんなお人好しなんだよ!!死んだら元もこもないだろうが!」


 頭を下げたままのニシの視線の先――――地面へ、英菰の流す水滴が落ちた。

 見上げると、英菰は瞳を見開いたまま泣いていた。

 それは、友人を心配する暖かな涙であり、友人を無くしたかもしれない未来を想像しての焦燥感の涙でもあった。

 英菰の表情を目の当たりにし、今になって自身がどれだけ危険なことに首を突っ込んでいたかを否が応でも理解させられた。

 そして、それに対しニシはただ一言「ごめん」としか言えなかった。


「…………そういうことかよ…………」


 英菰は、頭をくしゃくしゃと掻いてから、合点が言ったような、ともすれば、辻褄が合ったかのような表情を浮かべた。

 いったいどういう意味なのか、「あの、英菰」というニシのおそるおそるの質問は、英菰の手で制された。


「待て、まだ質問に全部答えてもらってない。話はその後だ。どこまで知った?」


「アランカヌイって化物の存在と、英菰が安倍晴明の、土御門の人だって…………」


 ニシは一瞬の逡巡の後、言うか言うまいか迷った挙句、その人の名前を挙げた。


「…………世津から」 


()()、ね…………」


 その呼び捨てから、英菰は彼女と少なくとも昨日のうちに何かあった。と、何か感じ取ったのだろう。英菰は片眉をひそめたのだ。しかし、ひどく狼狽えると言っ感じはない。予想の範疇といった落ち着き方だった。

 そして、ニシにはそれ以上追求せず、あごに手を当てるとしばらくの熟考の末、小さく「うん」と何か結論にでもいたったのか口を開く。


「答え合わせだけど…………私は安倍晴明の血筋、土御門(安部)の宗家に生まれた。ちなみに、あんたと悠馬に出会ったのも、ニシがアランカヌイの被害に遭ったから」


「な、何で言ってくれなかったんだ」


「言う必要ある?当時はあんた、相当ショック受けてたくせに。それと、私も最初は気乗りしなかったんだよね、同い年のくせに自衛も出来ない男なんて…………そう思ってたから」


「…………いや、そうだな。危ないもんな…………俺が聞いたらきっと首突っ込もうとするだろうし、そういうことだろ?」


「はぁ…………ほんと、変なとこで聞き分けいいよねニシって…………アホで馬鹿のくせして」


「いや、バカバカ言い過ぎ――――」


「――――でも、だからずっと陰から見守ってた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…………そう思ったから。」


 なぜか、知らないが、その言葉がニシの頭を打ち付けた。

 雷が落ちた様な衝撃が脳内を駆け抜ける。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ニシは脳の奥に引き込まれるような感覚。立ったまま夢を見たように、目の前の景色と空想の景色が重なるような違和感に陥った。

 郷愁にも似たノイズに眩暈し、思わずふらつく。頭を軽く抑え、焦点を定めるのに躍起になった。


――――な、なんだっこれは…………? 


 今のセリフには、覚えがあった。誰かから昔言われたことが有る。

 しかし、誰だったか、何処で言われたかまるでわからない…………。

 

「ニシ、どうしたの?」


 英菰が心配そうにのぞき込んだ時にはもう、その感覚は消えていた。

 頭を振り、なんでもない。苦笑で返した。


「い、いや…………」


「?…………ん。ま、ならいいけどね。それで、何を聞きたいんだっけ?それとも話はこれで終わり?」


「実は世津が…………」


 ニシの言葉はそこまでだった。

 次の瞬間、校内から放たれた悲鳴が、二人の意識をまとめてかすめ取ったのだ。

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