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第一章 エンディング 28

 安倍英菰の恋話がとりあえず一段落着き、このまま校舎裏へ居たのでは、昼食を食べる時間が無くなると焦った四名は、教室へと戻り始めていた。

 

 「ねぇ、悠馬君、ちょっといいかな」


 唐突に世津から呼び止められた悠馬は、


「ん?ああ。英菰、ニシ、先に帰っててくれ」


 と、二人を先に行かせ、悠馬と世津は二人並んで、教室へと戻っていく。

 ある程度、前方を行くニシと英菰との距離が開いてから、世津はずっと疑問だったことを聞いた。


「どうして…………アタシたちの事を、助けてくれる気になったの」


 悠馬は十二神将。討伐依頼をわざわざ取り下げる義理はない。むしろ、立場を悪くしかねない行為であるのに。なぜすんなりと当時、英菰からの電話とはいえ、簡単に了承を出したのか。

 それがずっと、世津の中で引っかかっていた。


「まず、その話をする前に、改めて、君と信也さんを試した件で謝罪をしたい」


 悠馬は、きちんと世津のの顔を向いて、瞳を伏せて謝罪を口にした。

 その姿勢は本心のようで、視線を世津へと戻した際、悠馬の眉は申し訳なさそうに八の字を描いていた。

 だが、その謝罪は既に、先ほど事の顛末を聞かせてもらった時に頂いている。

 世津はその旨を伝えるが、


「いや、そうはいかないんだ。ちゃんと伝えておかないと俺の気が済まない。」


 バツが悪そうに、悠馬は頬をかき、


「もし、君が『()()()』だと知っていたら、こんな筋書きを作るわけもなかったから。慣れないものはするもんじゃないな…………本当にごめん」


「ど、どういうことかな?」


 どうやら、世津自身にまつわる何かが悠馬にはあるらしい。世津がそう察した時だった。

 唐突に、ニシは自身に纏わるとある昔話を始めた。


「…………ニシが、昔アランカヌイに襲われた件知ってる?」


「うん、ただ、詳しくは知らないけど」


「あれ、学校に誘い出したの俺なんだ」


「そうだったの?」


「当時はさ…………小学校低学年の頃か。ちょっと家庭の事情で俺色々参ってて…………荒れてたんだ。相手はそんなつもりなくても、噛みついて。で、ちょっと孤立する所まで行っちゃって…………でも、ニシだけはずっと俺に寄り添ってくれてた。なのに、ついにあの日、あいつを突き飛ばしてしまった」


 苦い記憶なのだろう。

 悠馬は己が右手を見つめ、緩く握ったのだ。

 おそらくは、突き飛ばした際の感触を思いだしながら。

 

「…………あいつは昔からいいやつでさ、皆の中心だった。実はずっとモテてるんだぜ?あいつは気付いてないけど…………」


「…………だろうね」


「俺は当時それが妬ましかった。俺はこんなにつらいのに、なんでお前はそんなにあっけらかんとしているんだって。ずっとまとわりついてくるのがうっとおしく思って。あの日、肝試しに学校へと誘いだした。あいつの間抜け面をこの目で拝んで、写真にでも収めてやろうって…………カメラまで持ち出してさ」


 悠馬の声はひどく、重たい。

 その瞳は、ニシを見た。


「そうしたら、学校へ着いて間もなく、校庭で俺はアランカヌイに出会った。馬鹿らしいよ?だって、間抜け面晒して一目散に逃げたのは、俺の方だった。ニシを置いて、俺は校舎へと駆けこんだ」


 その時、ニシが振り返り、にへらと笑った。

 何の話だと、整った容姿で訊ねるも、悠馬は何でもないと流す。

 「なんだよ水臭いなぁ」と、ニシがまた英菰と並んで歩き出したのを見てから、


「罰が当たったと思った。アランカヌイは俺を追って校舎まで来たんだ。もうだめだと。ニシも逃げたはず…………誰も助けてくれなんかしないと。瞬きも出来ないで怯えた…………でも、今はそれを感謝してる。だっておかげで、アイツの雄姿を俺は今でもこの目に焼き付けているんだから」


「だからなの?」


「そう。アイツは誰かのために、力無くとも真っ直ぐに人を思いやって動ける。その姿に俺は憧れた。格好いいと心にこびりついた。あいつが俺を光へと堕としてくれた。そして、あいつに救われた奴は、悪いやつになんかならない。俺がそう、証明するって決めた。あの日、そのアランカヌイに取り憑かれたその日から…………」


 悠馬は世津を真っ直ぐと見つめた。

 決意の灯った瞳だ。邪気の無い、曇りない瞳だ。


「…………俺は西臣明道(ハンター)に成ると決めた。だから、君を助けた。どんな理由があれ、君はあいつを助けてくれた。あいつからは、君を助けてほしいと言われた。ならば…………俺は絶対にその人を助ける」


 言葉を切って、悠馬は立ち止まって宣言する。


「なぜならば、俺こそがあいつの――――『聖徳の証明』であるからだ。」 


 世津は分かった。理解した。

 これが、十二神将にまで上り詰めた少年の原典なのだと。

 この強き意志が、人間の聖徳が最強の称号を得る高みにまで昇華したのだと。


「それで、今度は逆にね、今は俺の方がお礼を言いたい。助けてくれてありがとうって」


 なんのことだと、世津が首を傾げた時、悠馬は言ったのだ。この話は最初の謝罪に繋がるのだと。


「このあいだ、ニシから聞いたんだ。当時、俺を助ける気持ちにさせてくれたのは、信也さんの言葉。そして、その彼に光を見せたのは…………君なんだろう。女乃上世津さん。」


 胸が熱くなる。世津はもう何も言えなかった。


「これは、暖かな(おも)いが実を結んだことだ。情けは人のためならず。まさに君の信也さんに対する献身という名の愛がこの大団円へ導いた」


「…………そっか…………」


 女乃上世津の献身は逆神様に値するのか――――否。

 女乃上世津の献身は逆神様にはもったいない。

 全てにあまねく寄り添う大樹。願いの新芽から枝葉を増やしたそれは、セリオン粒子の本質。

 巡り巡って、西臣明道が助けた、北東悠馬という少年の願いの体現であった。


「ありがとう。君こそが、西臣明道の原点だった。助けられた事を、俺は生涯誇りに思う。」

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