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第一章 27

 四月下旬のとある火曜日。長野県久留米市立高等学校のお昼休み。

 赤林普応が引き起こした一連の騒動が過去となった今日、北東悠馬は、おおよそ一週間以上に及ぶ久方ぶりの登校を経て、校舎屋上前の踊り場に居る、ソワソワと落ち着きがない小山ゆかりの下を訪れていた。


 ゆかりは悠馬に出会った途端、「北東様…………」そう言ってから、もう一分以上沈黙していた。その表情はどんな顔をすればいいのか分からないのだろう。下を向き、前髪で目元を隠し続けている。

 そんな担任教師に向けて、被害者であるはずの悠馬はしかし、明るい調子で尋ねた。


「先生、土御門辞めたんですってね」


 問われ、ゆかりは「はい」と、顔を上げた。その顔は涙を流す一歩手前だった。

 小山ゆかりは赤林普応の事件の後、速やかに退職届を提出し、そのまま教師の道を進むことにしたらしい。もちろん葛藤の最中であることは明白だ。なにせ、理由はどうあれ教え子を刺し殺しているのだから。


「…………こんな自分が教師。とは、思いましたが…………でも」


 今回の土御門の一件で、ゆかりは己の真意に気付いたのだ。

 これからも金に目がくらみ、土御門に在籍し続けても、誰かの人生を奪うようなことが続くだろう。だが、ゆかりにはそんな事は出来ないと、そんな気概は無いと知った。

 その時、浮かんだのは妹と恩師の顔、そして、妹を助けてくれた西臣明道の苦痛の表情。この少年に報いる事もしない己は何なのだ。と、ゆかりは悩んだ末に、


「笑って下さい。私は、誰かを傷つける者より、誰かを導ける人に成りたいと思いました」


 ゆえにゆかりは、土御門を辞めた。今後は己の罪を背負い、今度こそ真摯に生徒に向き合おうと教師の道を歩く覚悟を決めたのだ。

 そして、その姿を見て、悠馬は朗らかな瞳を嬉しそうに綻ばせる。


「笑いませんよ。適職だと思います」


「…………お世辞は」


「本音ですよ。俺達二年三組は皆先生の事好きですしね。それって、教師に向いてるって事でしょう。あと、誰しも生きている以上大なり小なり、悪い事はやってきています。俺だってね」


「ほ、北東様もですか…………?」


 十二神将として、数々の人物を助けているはずの目の前の少年の悪人としての側面が想像つかず、ゆかりは驚いた様子を見せるが、対して悠馬は「ええ。俺子供の頃、最低な奴でしたから。」苦い顔でそう言った。そして、


「問題は許されるか否か。俺は最低な子供時代を、()()()に許してもらった。そこ行くと先生の事を、俺は恨んでもいないし許しています。だから、問題はないでしょう。」


 ゆかりの視界がかすんだ。涙腺が決壊した。心が軽くなった。無意識に「ありがとう」と零していた。嗚咽が隠せない。眼鏡を落としながら手で涙を拭い続けている。

 その様子に、大の大人が本気で泣いている姿に悠馬は戸惑いながらも、「お礼があります」と切り出した。

 しかし、ゆかりは理解が追い付かず、なんのことだ。と、かすれた声で「え」と気聞き返す。


「先生が困っていたのは、金でしょう。だから、その件だけでも、妹さんを助けられなかった謝罪と、ニシを看病してくれたお礼です。妹さんの医療費、先生の奨学金。並びに各金融業者からのローンは俺が全て、お支払いしておきました」


「そ、そんな…………八桁近く在ったと思うのですが…………」


「俺を誰だと思ってるんですか。一応、十二神将ですよ。人生二回分は悠々自適に暮らせる分は有ります。まぁ、逆に言うと、これくらいしかお返しの仕方が見つからなかったのは、反省ですけどね…………」


 「学生が持つには過ぎた額です」悠馬はそう言って、踵を返す。ゆかりはその背中に向けて、「どちらに」と引き留めるが、


「いやぁ、これからニシ達の所へも行かなきゃ行けないんです。あと、前から言ってるでしょう。敬語はやめてください。()()


 悠馬は背後から未だ掛かる声に、軽く手を振って、屋上前の踊り場を後にした。そして、そのままに歩みを階段を一回の保健室近くまで進めと、今、人の居ない学校校舎裏へと足を踏み入れた。

  降り続いた土砂降りもやみ、今日は清々しい青空が濡れた草木を照らし、今だ乾かぬ水たまりが反射させる陽光に、悠馬は少し瞳を細め、ここへと呼び出した相手を見やった。


「お、来たぞ。英雄」


「遅いよ。ほら、せっちゃんもなんか言ってやれ」


 そこには既に、ニシと英菰が腕を組んで立っており、待ちくたびれてます。とばかりに眉をひそめていた。


「いやいや、私は今回助けてもらった身だし、なにも思うところはないじゃんね」


 世津は英雄の誘導に対して苦笑を浮かべ、手を横に振って意見はないと示す。

 ニシと英菰という久々の日常をその瞳に映し、悠馬は笑うと、今回の事の発端についてまず、「皆、すまなかったな」と頭を下げた。


「この騒動がここまで大きくなったのは、俺の思惑が半分を占めてる」


「…………だからその事を説明してもらうために、英菰にお前を呼んでもらったんだ。別に取って食いやしねーからゆっくり話してくれ」


「馬鹿かニシ!そんな悠長に話してたら昼休み終わっちゃうでしょ。ユウマ簡潔に話して。ちゃんと考えてきたんでしょ」

 

 悠馬は英菰に言われ、「ああ。」とニシへと顔を向け口を開く。

 

「ニシが、逆神神社でアランカヌイに襲われたと知った時、俺はもう、ハンターの事を隠し通すのは無理だと気付いた」


 そう、ニシがアランカヌイに襲われた時点で、悠馬は今回の話の筋書きを既に立てていた。と、語る。

 その昔、アランカヌイに襲われた時には頭への傷の後遺症として少しの健忘症が残っていたため、隠し通すことも出来た。

 しかし、今回の事は正気の上でのこと。かつ、それを何者かが助けたという事実も、病院へ問い合わせ知っていたのだ。


「だから、ニシにはどれだけこの世界が恐ろしいかを身をもってしてもらおうと思った。」


 ニシはその思惑を知り、趣味が悪い。と、親友へ悪態をつく。でも、同じくらい効果的だとも思ってしまった。

  ニシは超が付くお人好しである。

 ということは、今後、ニシの人生には否が応でもその記憶に元ずく行動が予測されるようになる。と、悠馬は思ったのだろう事は想像に難くない。

 そうであるならば、先んじて手を打つ。

 これから必ず足を踏み入れるであろう、血生臭いアランカヌイの世界へのチュートリアルとして、この筋書きは用意されていたのだ。


「…………まあ、俺なら勝手に首突っ込むかもしれないからねぇ」


「分かってるじゃないか。知らないだろうが、幸い…………いや、不幸にも、逆神神社でニシが助けた少女は、小山ゆかり先生の妹だった。」


 妹。そんな話は初耳だったんだが。と、ニシが世津へ顔を向けると、


「あ~苗字一緒だったけど、珍しくも無いから…………ぁあ人質ってそういう事」


 世津はバツが悪そうに笑っていた。

 抜けてるんじゃないのか「おい」と、ニシが世津の間だ治りきっていない肩を軽く小突く。そして、世津が痛みに肩を跳ねあがらせた。

 二人のじゃれ合いを見て、仲が深まった事が嬉しい。と、悠馬は微笑んで話を続ける。


「赤林普応のことは、個人的に土御門へと相談しその人となりを調べてもらった。やつなら、その少女を担保として、土御門の伝言役たる小山ゆかりを脅し、俺に消しかけるくらいはするだろうと思った。彼女は野心家で、手段を択ばず卑劣だ。一方俺は…………自分で言うのもなんだけど、甘ちゃんだと知れ渡ってたからな。最悪、奴をそうさせるよう唆す手筈まで考えてくらいだ。」


 悠馬の言葉に不服だと手を挙げたのは、英菰。彼女は、「あの首なし死体は?」と、そう言って、怪訝を顔に浮かべた。


「それもこの後話す。そして、なぜ死を組み込んだかと言われれば、都合がいいと思ったからだ」


 悠馬の視線がまた、ニシへと注がれた。優しいまなざしだ。


「俺が死ぬ――――()()()()()()。ということの恐ろしさを体感してもらうのには」


 ニシに衝撃が走る。

 悠馬と英菰はしきりにニシ自身の事を日常と言っていた。つまりそれを今回、悠馬は己を使い実演してみせたのだ。

 アランカヌイという血生臭い世界に足を踏み入れたが最後、大事な友達を失うかもしれない絶望を。


「…………ああ、よぉく分かったよ」


 と、ニシは肩をすくめて、

 

「お前らがどれだけ俺を過保護に守ってきてくれたのかがな」

 

「結構、それで、俺が死んだ後の事は――――」


 悠馬の背後の空間が揺らいだ。次の瞬間、その姿が足元から霧が晴れるように現れた。


「――――うちの番てわけやなぁ…………」


 黄色い瞳。濡れ烏の黒髪。着物姿のアランカヌイが悠馬の背後へと立っていた。


「おまえぇ…………性悪狐っユウマ!正直私はコイツの事が一番気掛かりなんだけど?」 


「ふふ…………あんまし目くじら立てると…………お肌に皺ができてまうよぉ?」


「あぁん??」


「白。ちょっと控えて」


 悠馬に呼び止められると、白皙はすぅっとその悪戯心を引っ込め、くすりくすりと口元を隠し上品にそっぽを向いた。

 しかし、その切れ長の瞳は流麗にも流し目となり、悠馬の背後からニシと世津、そして英菰を見ている。


「彼女はね、三年前の『殺生大割石』の日から俺に力を貸してくれてる」


「玉藻の前でしょう――――」


 英菰の言葉尻をかぶせる形で、それは否定すると絶世の美女は口を開いた。


「――――ちゃうちゃう…………今はもう、うちの名前は『白皙(はくせき)』いいます。意味は白。清廉潔白っちゅうことやんなぁ」


「お腹真っ黒の間違いでしょ…………」


「ふふふ…………ほんまにうち優しいんよ?だって…………首なし死体の写真を提案したんはうちなんやから。そんくらいなら、偽装工作の判断の余地もあるしぃ、心折れるまではいかんやろなぁ…………思て…………」


「はっ?十分悪趣味っ!!それ以外に感想なんて出ないけどっ」


「でも、悠馬はんは最初、その首なし死体本体を英菰はんたちに見せようって言うたんよ、その方がりありてぃが出る~言うて」


「はっ?」


 全員の、お前まじか。というドン引きの視線を受け、悠馬は口笛を吹き、そっぽを向いた。

 もちろんそんなことで許されるわけはなく、英菰とニシからは「歯を食いしばれ」と割と本気目の鉄拳制裁を受けることとなった。

 殴られた箇所を抑え、身もだえする悠馬を満足げに見てから、白皙も念押しとばかりに窘める。


「ほ~れ見ぃ。悠馬はん。それはやりすぎやぁ言うたやろ?うちかて、そんなん見た暁には…………()に戻ってまうやもしれんよ…………」


 その時の、白皙の雰囲気は最悪だった。邪悪。悪徳。邪知。それらだけでは言い表せない程の悪感情が辺りを支配したのだから。

 英菰はその怖気の元を改めて見て、感じて、やはりこいつは信用してはならない化物だと、理解した。信じたくはないが、やはりこいつは力を削がれてないのだなと唸りながら聞いた。


「封印されたって言うのは嘘だったの?」


「せやなぁ…………まま、簡単に言うと、悠馬はんに絆されたんよ。で、主従の契約を結んだ」


「じゃあ、あんたは今悠馬の下僕って事」


 英菰の発言を聞き、悠馬と白皙に加えニシまでもが顔を見合わせ苦笑した。


「おい、ニシあんたその顔なんか知ってんな?」


「ま、俺はその白皙さんに力貸してもらったからな。なから聞いたよ。『逆』なんだとさ」


 いまいち要領を得ない。と、英菰が世津を見やると、彼女は目を見開いて絶句していた。きっと察したのだろう。


「そ、そんな危ない事をしたの。悠馬君」


「うちがご主人様でぇ…………悠馬はんがうちの式神や…………」


 白皙の言葉を聞き、英菰も肩を跳ねあがらせる勢いで、「うそでしょ…………」と顔を歪めた。


「…………こんな禍々しいのと?調伏するならまだしも、自ら降ったっていうの!?」


 悠馬はバツが悪そうに、苦笑し、「いろいろあった」とだけ零した。でも、その態度に後悔の感情は一切見られない。むしろ、


「…………俺は彼女を信用も信頼もしている。現に助けてくれただろう?」


 そう、臆する事も無く言い放った。

 たしかに、爆弾の件や、英菰自身体を治してもらった結果がるため、そこで何も言えなくなる。


「ぅんまぁ………たしかに」


「せやから言うたやろ…………清廉潔白やて…………うちは優しいご主人様や…………」


「…………それで、首なし死体を偽装したわけね、白皙の術で」


「うん?…………ぅ~ん…………まま、そういうことやねぇ」


「何その含み。いや、というかよ!もっと早く私と世津の事助けだせたんじゃないの!?」


「俺は式神だ。白皙の力が無いと登場できなかった。という意味合いよりも」


 悠馬はニシを見る。全幅の信頼を投げる。


「ニシ。お前なら、絶対どうにかする。そう信じてたから、白皙にはギリギリまで待つよう言ってあった。」


「いやいや…………流石に過大評価が過ぎるって…………てか、白皙さんさ、やっぱあの屋上の時、余力あったんじゃ?」


「ふふふ…………さぁて…………どうやろなぁ…………とんと覚えてないなァ…………」


 ニシは呆れを通り越して寒気がした。

 もしも、自身が誤った判断を取っていたらどうするつもりだったのか…………と、しかし、すぐにいや、と思い直す。 

 きっと悠馬と英菰の居る世界はそういう事が日常茶飯事なのだ。そして、今回の事を通じて、それにしり込みするようなら、首を突っ込む死角はない。そう悠馬は降すつもりだったのだと察した。

 ただそれはそれとして、いったい俺は、お前の何なのだ。と、ニシは大きくため息を吐いた。

 直後、悠馬の本心とは別の理由で白皙はゾクリとする事を言い放った。


「だって…………その方がおもろいやろぉ?」


 冷気が辺りを支配した。

 悪びれるそぶりも無く、にやりと口角を歪ませ、白皙は「ちょっとくらいええやん」と、まるで砂糖を一つまみとるかのような仕草をで言う。


「人間さんの苦痛に染まる顔…………今回はじ~っくり堪能出来てうちは満足や…………」


 その悪女に対し、ニシと英菰、そして世津は、決して油断してはならない化物なのだと再認識し、かつ、悠馬にもちゃんと手綱を握っていろ。ときつくお灸をすえる。


「あぁら…………うちの式神いじめんといてやぁ~」


 言って、白皙は悠馬の背後に憑りついた。まるで、マフラーかのように腕を首に回し、悠馬の耳音で甘い吐息を吹きかける。

 見ようによっては恋人にも見えてしまい、


「おぉい!お前、ユウマから離れろ!!泥棒猫が!」


 今日一番英菰は吠えた。指をさし、かみついたのだ。


「いややぁ…………てかうち、お狐様やし…………」


 白皙がその腕の力を強め、悠馬の顔へさらに近づいた、息が出来ずに苦しいゆえか、はたまた顔が近づいたせいか、悠馬の顔は赤く紅潮していく。

 そうして、もう口と口が触れ合いそうな距離まで来て、


「いいや、離れてもらう!!!」


 そう言い放ったのは、赤面に言葉を失いかけていた英菰ではなく、ニシ。


「ユウマに先に彼女が出来てたまるか!!」


「「「えぇ…………」」」


 呆れる幼馴染二人と世津を尻目に、誰よりも、何よりも声を大にして、ニシは言ってのけた。


「…………男の嫉妬は見苦しいでぇ…………ふふ」 


「いや!」


 と、ニシは皆を見渡し正直な所一番言いたかったことを口にした。


「普通こういう騒動の後ってさ!!俺にもなんかそういう!!女の子との甘酸っぱいこう、なんかあるはずじゃん!!??なんでないの!?ねぇおかしくない!?俺のヒロインは!!??」


 呆れた思春期真っ盛り。

 悠馬は半笑いで、「ニシお前、そんなことを気にしてたのかよ…………」と小馬鹿にする。

 対して、ニシは「黙ってろ勝ち組」と猛反論の後、続けて、


「お前の意見は聞かん引っ込んでろ!!!な、英菰どう思う?」


 悠馬にとっては英菰もいる。それは逆も然り。つまり漫画とかでよくある関係図を持つ幼馴染に対し、こんな終わりはあんまりではないか。と、同意を求めたのだ。

 すると、


「せっちゃんがいるじゃん」


 そう言われ、ニシは、グルン。と世津へ視線を向けるも、


「あ、ごめんねニシ君。アタシ、ニシ君みたいな格好いい人タイプじゃないから、そもそも既に、信也君が居るし…………」


 脈無し、彼女無し、ラブコメ無し。ニシはその場に崩れ去った。


「もうぉ!!!!!ほら!こうなるじゃん!?なぁにこれ!?ひどいわ!?」


 遂に、ニシは涙を流し始めた。というか号泣だった。

 ひどく惨めに、顔をぐしゃぐしゃにして鼻水まで垂らしている。

 見かねた悠馬は膝を着き、ニシの肩に手を置いて首を振ったあと、英菰へと「どうする」と訊ねた。


「…………ふむ。ま、仕方ないここは私が一肌脱ごうじゃないの」


 英菰の口調が、声音が少し緊張を孕んだ。

 ニシ以外の面々はその雰囲気に、え。もしかして…………。と今後を見守る。

 しかし、その見守る輪から真っ先にはしごを外されたのは、悠馬だった。


「ユウマ、私、今回の事で再認識した。私は、あんたの事が好き」


「え…………E!!わっつ!?」


 しどろもどろに英単語を吐く悠馬と、その告白を聞き、ニシは「やっぱりユウマばっか!!!」とさらに勢いを増し、もはや涙の橋を作り出す。

 しかも直後、


「あら…………おもろいことになってきはったなぁ…………」


 と、白皙も一転。

 陣営を世津と英菰へと鞍替えすると、そちらへ寄って行って…………気付けば、男子対女子の構図が出来上がっていた。

 もちろん、こんな状況悠馬からしたら冗談ではない。せっかくニシと英菰と揃って日常へと帰れたと思えば、女難の相ときたのだ。

 一難去ってまた一難。悠馬はしどろもどろにうろたえながら、せめてもの時間稼ぎを口にする。

 

「ちょ…………え!?E?…………あの、友達として――――」


「――――おう、鈍感はやめろ。異性としてあんたが好きなの」


 唐突な告白。ラブコメの予感。悠馬に逃げ場はなかった

 ニシは絶望した。どうして追い打ちをかけるの?。と。

 悠馬は困惑した。え、空気読んでよ。と、そして、悪手と知りながらも、ニシへと助けを求めるが、


「あぁ~…………の…………ニシ?ヒッ」


 悠馬から飛び出たのは短い悲鳴。

 十二神将を怯え上がらせたのは、ニシのこの世のものとは思えない怨念逆巻く般若の形相だ。


「…………ユウマ…………お前帰り道…………背中に気を付けろよ…………」


「こ、怖いこと言うな!!!お、おい英菰!これのどこが一肌――――」


「――――明道。」


 「ん?」と普段とは違う正式な呼びかけに、ニシは、泣きはらし、赤く腫れぼったい顔で英菰を見上げた。


「私は、あんたも好き。異性として」


「…………はぃい?????」


 ニシは英菰を二度三度見した後、十回以上瞳を瞬かせ、そして、悠馬へと顔を向けた。


「…………俺を見るな。今思考回路はショート寸前だ」


 そうだよね。俺もだよ。と、ニシはまた英菰へと顔を向ける。


「…………あのー先ほどの言葉は、誤りですよね英菰?」


 しかし、ニシの言葉とは裏腹に、英菰の表情は真剣そのもの。

 なんなら頬も仄かに上気して、艶っぽい口を開くのだ。「事実よ」と。


「私、今回の件で自分の気持ちがはっきりした。あんたら二人が私は好きなの。だからここに宣言するわ。あんたら二人を私の彼氏に――――ハーレムを作る!」


「「…………不純異性交遊はだめだぞ」」ニシと悠馬の言葉が完璧に重なったのだが、英菰はそれを、黙れ。と一蹴した。


「もう決めたの。だっておかしいでしょ。二人を好きになっちゃダメって誰が決めたのよ。」


 「ユウマ、こいつ討伐した方がいいんじゃ」とはニシの言葉。「早まるな今依頼を発行する」とスマホを取り出したのは悠馬の言であった。


「いいか、私の意思は揺らがない。これからアンタら二人を私の虜にしてやるから。首を洗って待ってろ!!!!」


 不覚にも、その「「お、漢らしい…………」」宣言に、ニシも悠馬もきゅんとした。


「乙女じゃ!!」


「あ、はは…………ニシ君よかったね。ラブコメだよ」


 ここまで沈黙をつらぬいていた。もとい、口を挟み込む隙が見当たらなかった世津も、ニシへとお祝いを送る。


「うそじゃん。これは俺の望んだベクトルじゃない…………九十度違うよ、位相が違うよ。乙女げーじゃん???」


「…………ふふふ…………こら、おもろいことになったなぁ…………」

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