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第一章 18

 授業中ニシはクラスの窓から外を見た。

 覗ける景色は、ざぁざぁと水滴が鳴り響いている。一時間前から曇天は雨模様へと変わっていたのだ。

 それも、稲光を引きつれた最悪なもの。この二週間降らなかった分をまとめて降らせようとする、ひどいどしゃ降りの雨だ。

 そして、教室の黒板の上、天上にほど近いところへ掛けられている、丸時計を見た。時刻はもうすぐ、昼の十二時。つまり、お昼休み手前である。

 

 ニシの居る二年三組の教室内も、既に浮足立ちはじめている。

 人によっては、もう教科書とノートを閉じている者も居る。その他にも、授業に実が入っていない生徒をちらほらと見受けられる。

 見方によっては、学級崩壊一歩手前程度の緩さ。だらけきった空気感。

 もちろん、クラス全員がそうではない。実際にはそういう者達は半分未満。

 過半数の生徒はきちんと姿勢を正し、瞳を開き、いや、正確には見開き、とある一点を凝視していた。

 ありえないものを見たといったこわばった表情で、


「…………ニシ。お前今日はどうしたんだ」


 現国の担当。小山ゆかりも、大多数の生徒同様、あり得ない物を見る顔でこの時間、何度もそちらを見やっていた――――問題児、西臣明道を。


「え、な、何がっすか先生」


 あっけらかんと、返すニシ。ゆかりに問われ、ニシは周囲を見渡す。するとようやく自身が、注目の的だと気付く。

 どうして皆が、ツチノコでも見たような顔をしているのかなぞつゆとも知らず、ニシはゆかりが綴る板書を、机の上のノートにきちんと取っていたのだ。

 もしや、彼女もそうなのだろうか。そう思い、ニシは後方、世津の居る最後尾窓際の席へと、肩越しに一瞬だけ見やった。

 

「…………」


 その一瞬の間に分かった事はいつも通りであるという事。

 世津から逆神様のことを聞いて。ようやく彼女が逆神神社で憤っていたのかを漠然と理解できた。

 あの優しいまなざしの男――――身内の名前を使われ、悪行をされたのではそれは心中穏やかとはいかないだろう、と。

 実際ニシも当事者であったならばいい気はしなかったであろう。と合点がいったのだ。

 ニシは残念にも、この昼休み直前の時刻になるまで、その件を聞くタイミングを逃し続けていた。

 まるで神様の悪戯かのように、逆神様について聞きそびれ、ともすれば聞きあぐねていたのである。

 

――――…………ま、もうすぐ昼休みだし、そん時に聞くか………… 


 ニシは軽く首を傾げ、あごに手を添え、考えるそぶりをしながら、昼休み中の話の組み立てを考える。

 しかしながら、ニシがどう思っているかなど、二年三組のクラス連中は知る由も無い。そして、そのニシの考える人のそぶりが、更に彼らの困惑を加速させていたのだ。

 なにせ、普段であればニシのことは悠馬に聞けば全て丸わかり。だが、今日は残念ながらニシの親友たる悠馬は欠席なのだから。

 ゆえに皆、あの、ニシが授業中に起きているにとどまらず、ノートを取り、挙句の果てには、思案を巡らせるなんて!?…………と、顔をこわばらせていた訳である。

 

 当然であった。

 普段であれば、昼休みが始まるまでニシはすやすやタイムのはずで、その間は起きないのだ。

 以前などは、地震が有り、訓練でない本当の避難が始まったことが有ったのだが、ニシは起きず、しかもその事に誰も気付かなかったせいで、点呼を取ってから慌てて先生方が教室まで戻り、ニシを連れ出してきた。

 ちなみにいうと、それがニシの二回目の反省文の時である。

 

 そんな前科があるのだ。起きているとはいえ。どうせ悪だくみに決まっている…………。そう思ったのが、ニシの隣の席の生徒――――小鳥遊通利(たかなしとおり)

 彼は、こいつがノートとるなんて。ないない。と半笑いで、ニシのノートを盗み見ると、瞬間、目が潰れたように両目を抑えた。


「目げぁ~~目ガぁ~~」


「ど、どうした、通利。明道の奇行がよほど堪えたか!?」 


 まったくもって失礼極まりない。それでも教師かとニシが仏頂面をした。


「…………先生ーニシのやつノートとってる…………天変地異の前触れだ」


 こちらもまっこと無礼千万である。と、ニシは通利を睨んだ。

 その時、そんな通利を見かね、いち早く彼へと駆け寄ったのが、側垣智成(そばがきともなり)である。


「小鳥遊、せ、先生!小鳥遊があ!!」


 でも、クラスの皆は誰もその事を褒めたり、称えたりはしない。むしろ、ああ、その手があったか。と苦い顔をしているものまで居る始末。

 クラスの皆は、駆け寄った生徒の魂胆――――一秒でもはやく授業を抜けだそうと画策したことに思い当っていたからだ。


「小鳥遊!しっかりしろ、先生、僕、小鳥遊を保健室へ連れて行きます!」


「やむおえん。行け」


「しゃぁ!おい、行くぞ小鳥遊。弁当はどこだ」


「はっ。ここに」


 いつのまにやら、小鳥遊は跪き、差し出した手の平には弁当箱が二つ置いてある。

 その用意周到さに、ゆかりは言う。


「ん?通利。お前仮病か?」


「メガーめがー」


「先生!小鳥遊は持病の虚言癖で一刻を争うんです!」


「ん。そうか、やむおえん。行け」


「ありがとうございます。先生…………さ、立てるか、小鳥遊」


「御意」

 

 馬鹿が二人、途中退席をする。二人は、悠然と教室を抜け、保健室へと足音が遠ざかっていったのだ。

 もちろん普段であればゆかりはこんな事はしない。許すわけがないのだが…………。

 ニシは、その一連のやり取りで、ゆかりの情緒が不安定であると確信した。

 瞬間、午前の授業を終えるチャイムが鳴る。ゆかりはまたそそくさと授業を終わらせると、教室を出て行った。

 皆が、机の横に吊り下げたカバンから、弁当を取り出し始める中、


「先生っ」


 英菰だけは弾けるようにゆかりを追い、すかさず世津とニシもそれに続いて廊下へと出た。

 教室のドアを勢いよく開け放つと、その開閉音が廊下に響き渡る。

 三人は、廊下で背中合わせなような格好で、廊下の両端を見る。

 昼休みだというのに廊下に居る生徒は数えるほどしかいない。

 

 その見晴らしのいい廊下を左右隅々まで見渡し、英菰が階段へと顔を向けた時だった。ピクッとその動きを止めた。居た。見つけたのだ。

 小山ゆかりは、すぐそばの方の階段を降りている真っ最中。その乱雑に結ばれた髪がだけが、ひょっこりと上下して、揺れていた。

 英菰はすぐに動こうとした。が、しかし、彼女の腕をニシが掴んで引き留める。

 

「おい、英菰。小山追いかけて、どうするつもりだよ」


「…………ニシ、昨日は確かに、あんたの言い分に倣った。でもね、今日見た先生の言動は間違いなく何か知ってる!やっぱり、聞きに行こ――――」


 その時、英菰の言葉より先に、ニシの鼓膜を打ったものがあった。


「――――やぁニシ君。学校閉鎖以来ですね」 


 背後からの声に、ニシは振り返りまじまじと見た。

 もう長い事着込んでいると分かる、とこどろころほつれがある。学校指定のブレザー。

 ニシより年上だろう顔つき。挨拶にかかげた手には、高感度機能カメラ内蔵スマホを持っており、


「お前、戦友?」


「はい、同志よ。実はお話が合って参りました。」


 なぜかいやに丁寧な口調。少し戸惑うも、今はそれより小山のほうだ。と、踵を返そうとした時、


「あれ…………そっちの人は?」


 視界の端に何か映った。

 戦友の背後には誰かいた。いや、知っている人物だ。

 女生徒であった。

 サラリとした黒髪を首元で切りそろえている。薄口ながらきちんと化粧もしているのが見受けられ、傷一つ無い綺麗な制服は、新入生を彷彿とさせた。

 たしか彼女は朝、校庭で見た人物。もっとさかのぼれば、世津が凍らせた人物。


「ええ、こちらの彼女が、赤い髪の少女。まあ十中八九、英菰殿に御用があるそうでして」


「ん?わ、私?」


 英菰のともあどいをよそに、女生徒はおずおずと、下を向き、何やら恥ずかしそうに戦友と並び立った。そして、英菰に真っ直ぐ視線を向けて、


「は、はい…………実は私――――」


 女生徒の続きを戦友が代弁した。


「――――なんでも、()()()()()()()()()()|と…………」


 その瞬間だった。きっと直感がそうさせたのだ。

 ニシは己の反射神経を今後一生自慢にしようと思える動きで、英菰の前に躍り出て、女生徒と対面する形で英菰と女生徒の間に割って入った。

 

「…………っ…………」


 感じたことのない衝撃。それはでも、街中で向こう側から歩いてくる人にぶつかったくらいの一瞬のもの。ハッと現実に意識を戻させる冷や水のよう。

 知らない感触。それはまさに、注射針を刺されたものに似ていた。刃が体に入って来る、ず、ずうううっ。と、肉が内側に引っ張られる、しっかりとした異物感。

 ニシの下腹部に、ナイフが突き刺さっていたのは、英菰の腹を狙ってナイフを突き刺したからない他ならない。


「…………勘がいい男を侍らせてますね、これだから宗家のお嬢様は…………」


 女生徒の囁きを聞ける余裕があった者は誰もいなかった。

 いったい何が起こった?。そんな呆けた顔で戦友は突然の事に、最初ボーっと眺めているしかできなかった。なんなら、現実感がなさ過ぎて、刃が引っ込むナイフの玩具だとさえ思った。

 でも、違う。違うのだ。本物のナイフが女生徒の右手にはしっかりと握られていて、西臣明道は硬直したまま、その下腹部を、ワイシャツを、学校指定のブレザーを、赤く湿らせていく。


「ニ、シ君!?」


 戦友が、ニシへ駆け寄り、前かがみに倒れそうになったその体を支えた。

 戦友が施すニシに対する対処に関しても、女生徒は何も答えない。その眼は冷たくも、未だナイフを持った右腕をニシの下腹部へ突き刺し、隠したままに、英菰のみを見据えている。


「ニシ、固まってどしたの」


 英菰の位置からでは、ニシに何が起きたのかは分からない。ただ、急に前かがみになって、硬直したようにしか見えない。

 一方、女生徒はナイフを刺した時の軌道のままに、ニシから一息に引き抜くと、ナイフを持った右腕をぎりぎりまでニシの胴体へ隠しながら、ニシの右隣から抜け、英菰目掛けて今度こそナイフを伸ばす――――


「――――英菰ちゃん!」


 不意に感じた後方への重力。逆らえず、そちらにのけ反った事で、英菰は間一髪ナイフから逃れた。世津が英菰のブレザーの襟首を掴み、後方へと引いたのだ。

 世津は、そのまま、英菰と入れ替わるように、前へ躍り出て、一旦距離をとるため女生徒を蹴り飛ばす。


「っ…………ちぃ…………アランカヌイの分際で余計な真似を…………」


 受け身もほどほどに、三歩退いた女生徒は、ステップを踏む身軽さで、体勢をすぐ立て直した。

 そして、改めて、ニシと英菰、そして世津に対し、細く開いた瞳で睨みを利かせてきたのだ。

 世津は渋面を浮かべた。そして直ぐ彼女の右手の凶器を見た。


「まさか…………被害者まで疑わないじゃんね」


 そこには刃渡り八センチも無いナイフ。根元まで真っ赤に塗れており、その血液に反射する、世津自身の顔は、お前だったのかと恨めしく歪んでいた。

 

「まったく、入院すらいとわなかったのに、これでは水の泡ですよ。まったく」


 女生徒は少し首をすくめ、上目使いのように世津を見ながら、右手に持ったナイフでふわりふわりと手遊びをする。そして、遊びが終わる頃には、今度は、ニシの方をちらりと見やる。

 それは、足枷を作ってやった。逃げる事は出来ないぞ。そう暗に告げていた。

 

 実際、世津と女生徒の中間に居るニシは、女生徒が口を動かす度、反比例してその体を丸め膝を着き、その場にうずくまっていくのだ。

 当然だ。今まで腹を刺される経験などしたことが無い。生まれて初めてのしなくてもいい経験に、ニシの体はショックで鈍る。命が下腹部からどんどんと流れ出ていくのを感じ続けるのは、ただの高校生にとって拷問だ。 


 状況は目まぐるしく動いていた、三者三様の動き。

 今、女生徒は右手に赤いナイフを持ったまま隙を伺っている。女生徒に刺されたニシは急にうずくまり、悶えている。世津はニシの傍により、女生徒を威嚇している。

 この中で英菰のみが理解が遅れていた。

 そして、最も事情を知らない戦友だけは、その両者の間を警戒も無く通り抜け、ニシへと駆け寄り心配に震えた。


「ニシ君!大変だ、すぐに、救急車をっ」


「ぁ…………ぐ…………」


 ニシのか細くも痛みにあえぐ音を聞き、戦友は未だ右手に持ったままのスマホをタップしようとした。が、出来なかった。なぜなら、彼は急に倒れたから。

 そして、すぐその顔は白目をむき、だらしなくよだれを垂らしながら、起き上がる。

 その姿、狂気の傀儡を、英菰は知っている。途端、今の状況に全て合点がいったと女生徒の方へ視線を差し込んだ。


「はい、ゾンビ一丁完成♡」


 英菰はその告白を聞いた。

 目の前の女性徒が今しがた、ニシを攻撃したのだと。女生徒が生み出したその傀儡が、その罪を告白したのだ。

 最悪な戦況に陥っている。世津はうずくまるニシの懐に入り、肩を担ぐと、逃げる算段を整える。せめて保健室へ運ぼうと動く。が、肝心の英菰は動かなかった。

 嫌な予感が世津を英菰へと振り返らせた。 


「おまえ、なんか助けなければ…………よくも」

 

 案の定、英菰は遅れてやって来た怒りに我を忘れかけていた。

 目を見開いて犬歯もむき出しにすると、今にもとびかからん勢いで、体内で魔力を錬り始めている。激情に促されるまま。むき出しの敵意と殺意の本流。それが、魔力となり、空間を揺らすのだ。


「駄目、英菰ちゃん今は逃げるよ!」


 世津は、今はまずいと状況の立て直しを告げた。

 対して英菰は、水を差された。と、敵を見る様な睨みを世津へと送る。

 英菰は、頭に上った血液が、これまで幾度となく渡り歩いてきた彼女の戦場の勘を鈍らせていた。その怒りが、「でもっ!」と、強く世津を否定させるのだ。

 狂気に片足をつっこんでしまった英菰。世津はだからこそ、無情ながらこう冷や水を浴びせた。


「手当てしないと、()()()ニシ君も!」


「っ!!!」


 ()()()

 その言葉に、いやな映像が脳裏にフラッシュバックする。一瞬で頭から血の気が引いていく。

 悠馬の首なしの肢体は、あり得ない程に英菰には効果てきめんだったのだ。

 そして、そうはさせない。絶対に。

 英菰は、その場で大声を挙げた。血迷ったか?そう思った女生徒だったが、廊下には英菰の思惑通り、教室中の生徒が扉を開けこちらを見やる衆目の場を作り上げた。

 これならば、派手な真似は出来ない。英菰はその考えのままに、 


「誰か!!警察と救急車呼を…………」


「残念」


 女生徒が指をならす。

 だいたい各教室の人数過半数以上づつだろうか。生徒達が、意志無きゾンビのように、教室内へと正気の生徒達を押し戻す。


「この学校は既に私の支配下。おとなしく、女乃上世津を引き渡すといいですよ。さもないと…………」


 轟音が廊下の窓を揺らした。

 何事かと、その音を聞いた全ての者がそちらを見た。緑のドーム状の屋根からは、黒い煙がくすぶり、赤い炎を上げている。

 学校に隣接する、体育館が燃えている。

 状況に理解が追い付かなかったのか、パニックとなった教室の中からは、悲鳴が漏れる。

 黒い煙を立ち昇らせ、雨だというのに、火炎の勢いは増すばかり。また、音を立てて、屋根の一部が崩れ去った。それは文字通り焼け石に水といった感じだった。


「他にも仕掛けられた爆弾を、爆発しちゃいますよ?」


 女生徒のねっとりとした声音に対し、世津はじりじりと距離を離し始め、一方英菰は値踏みするように睨みつける。

 女生徒は見ているとゾッとするほどに、目が死んでいる。光を一切持たない死人の眼。それを薄く薄く引き伸ばし、冷酷に笑っている。

 狂気に憑りつかれて笑っている。笑っているように見える。が、実のところは分からなかった。

 世津も英菰も彼女の事を分かりたくなかった。脳が理解を拒否しているのだ。

 その相容れない姿は、何よりも、アランカヌイに見えるのだ。

 

「人質、爆破、一般人への暴挙…………卑劣が過ぎる…………こんなこと、上層部(土御門)だって、許すと…………」


「何を言って言るんですか。これは、土御門の指示ですよ。」


「な、うそでしょ。」


「事実です。今回、私は上から、『どんな手段を使っても』。そう命を下されましたから」


「流石に東だって、そこまでの事するはずがない。あんたは自分を正当化するために解釈を歪めてるんだっ。いったい、何のためにここまでして!」


「…………Bランクに下がってしまえば、月、五十万は減るんですよ?」


「お金のためだって言うの?ここまでのこと全部?そんなことのためにっ」


 「そんなこと?」そう言った女生徒は明らかに地雷を踏んだぞ。と、舌打ちをした。

 その体から激情によって作られた魔力が漏れ出す。それは、これまでどうやって隠ぺいしていたんだと息を飲むほどの、怖気を誘発させるもので、 


「買おうと思っていた宝石も、体を整えるための美容エステも、別荘に考えていたロッジも…………みんな買えなくなってしまいます。金が全て。金があれば何でも買える。でも、宗家のお嬢様には分からないですかね。私、普通の生活(貧乏金無し)、嫌いなんです」


「…………ふ、ざけないでよ!!人の命より高価だって言うの?世津が何をしたって言うの!」


「はぁ、我々が欲しているのは『彼』。女乃上世津はその足掛かり、尻尾に過ぎない」


 「は?」いったい誰の事を、そう思った矢先、


「英菰!!!!」


 切羽詰まった世津が英菰の手をひっぱった。つられて首もそちらへ回る。

 悲痛な面持ちだ。困り眉に眉間に皺を寄せている。世津の顔の隣にはいつのまにかおぶられた、ニシの顔がある。


「何してるの!?早く!!」


 ニシの顔は苦痛に満ちていた。額に脂汗を書き、ずっとうめいている。


「ちくしょ…………」


 英菰は、短くこぼすと、一目散に、保健室へと駆け出した。それが正しいのかなど分からないが、今は只、ニシの手当てをしなければ…………その思いだけだった。


「この校舎から出たらこの学校の生徒が半数亡くなるのでお忘れなく。ただ、かくれんぼなら許しますよ。だって結局は自ら、私の下へ降るでしょうからね。」


 女生徒はご丁寧につらつらと語った。

 英菰と世津の後ろ姿を舌なめずりをして、鼻歌まで奏でて、ゆっくりゆっくりと、獲物を追う。

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