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第一章 16

 満月の晩。中秋の名月が、夜空を黄色く埋めていた。

 星空の瞬きなどいらぬと暗に押しのけて。

 風流なおぼろ雲のみが、我を飾るに相応しいと、満月へはんなり橋渡し。


「暗夜のしきたり堕ち憑いて…………天魔の愚行を慰めよう…………」


 月光の下、術が艶やかな薄い唇から紡がれる。


「天津荒魂の変遷は…………御馬の神輿となりにけり…………」


 どこの書物とも、文献とも結びつかない詠唱が。

 詩となり、魔力となって、すぅ、と夜闇に溶けて逝く。

 ひどくか細い声だった。とても儚い音だった。

 その他の全てを聞き逃す。あまりに流麗な空鳴りだった。

 知ってはいけない響き。この世の理を外す、摩訶不思議な残響。

 きっと、人では耐えられぬ凶つ音色。きっと、魔では堪えられぬ過つ音階。

 それに侵された人物は、背後からだった。

 

「精が出るな、清明君。」


 人知の気配を捨て去った、黒くも薄い影法師は、歌手の名を労うた。

 

「…………こんな夜更けに何の用だ。道満」


 キッと睨んだその顔は、月明かりが映える端麗さ。

 その光景は、満月も、夜闇も、吹き抜ける時期尚早な秋風ですら、引き立て役には生ぬるい。


「クックック…………逢瀬に決まっているだろう」


「…………逢瀬…………君に『衆』の気があったとは、いっそ、そのまま逝くといい。」


「俺が逝ったら哀しむ癖に。口だけは達者だなぁ」


「どっちがだい。君こそ今ので死にかけじゃないか。その証拠に、ほら、影が薄い」


「じゃあ、死ぬかもな」


「……………………」


「クックック。何泣きそうになってんの?」


「…………ふぅ。泣く理由が見当たらない。清々する。早く帰りたまえよ。君が寄ると月が翳る」


「どうやら、虫の居所が悪いらしい…………何か吐きたいことはあるか」


「二言はない」


「クックック…………じゃあまぁ帰ろうかねぇ、またな。清明君」


 風が吹き、端麗な顔に収められた黒い瞳を、前髪が一瞬隠すと、


「…………行ったか、何度言えばわかるのか、夜に来るな馬鹿者が…………」


 その口元には、浮かぶ日にちを間違えた、薄く小さな三日月が。

 これから、三度、月が満ちては欠ける間に。

 黒い影法師は、首を刎ねられ、呪いが残ることとなる。

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