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虚構的現実少女と内省的定型大学生



 現実的虚構は現実たり得ない。



 金髪ツンデレ転校生、

 不思議おっとりお姉さん、

 オタクに優しいギャル、

 超天才清楚系病弱美少女……


 全部、()


 もっと言ってしまえば、


 屈折した過去を隠しながらも少しずつ主人公に心を開き、彼との暖かな日常の中で遠回りで不器用な関係を進めるヒロインや、


 普段は一切話さない高嶺の花なのに、ふとした事から二人だけの秘密の関係が始まって、特別扱いしてこない主人公への信頼が次第に別の感情に変わるのを自覚しつつ、一定の距離を保ってくる彼に精一杯アピールするヒロインも、


 現実には存在しない、絶対。



 中学、高校、大学とこれまでの人生を振り返って、貴方は斯くの如き少女に出会ったことはあるか?


 少なくとも俺の知る女子は、インスタで仲良し合戦を繰り広げ、口を開けばさしすせそ……

 少々言い過ぎな気もするが、あくまで俺にとって理解し難いコミュニケーションという趣旨である。


 ならそれはお前が卑屈なだけで、もっと仲良くなれば違ってくるだろうって?


 確かにそれは正しい、訂正しよう。

 可愛くて優しいヒロインは「存在しない」のではない。


 結局付き合い方を間違えているのは俺の方で、現実の女子だって同じ人間で、今を生きる彼女達はそのままでヒロインに成れる。現実世界の女性に正しく向き合えよ、と。


 ここで結論の再提起を。


 やはり現実的虚構は現実たり得ない。

 現実的虚構は虚構だから面白いのだ。


 それらが現実に持ち込まれた瞬間、俺は俺の「間違い」と向き合わなければならない。

 好奇心旺盛な長髪のあの子は俺に興味なんて1ミリも示さないに決まってる、ガウ。


 虚構であるから、自己の「間違い」に目を瞑れる。暗黙の了解の下、己の正しさを肯定してくれる物語を鑑賞するのみである。


 虚実皮膜は作品の魅力を極限まで高める臨界点となる一方で、虚構の現実への流入を防ぐ壁でもある訳だ。


 さて、この理論を適用して先程の問いをもう一度。







 「虚構的現実はあるのだろうか」







 あってたまるかクソ野郎!!!!!



***



 その筈だった。




「こんにちは、相席、いい?」




 トレーを持った女子は明らか俺に尋ねている。

 

 はっきりと透き通った声、

 染めてはいないが、ふわりとしたミディアムボブ、

 耳には白い貝殻を模ったイヤリング、

 真っ直ぐに俺を見つめるまんまるな瞳。


 こういう奴を世間一般的に美少女というのだろう。


 朗らかな愛嬌を感じさせながらも、どこか大人びた雰囲気を纏っている。人の容姿を批評するのは本来趣味じゃないのだが、その俺の目から見ても超可愛い。美少女だ。



 そんな彼女が期待の眼差しを込めて「一緒にご飯食べよ」だと??何の気なしに旧知の友を誘うかの如く??実質「貴方に興味があります」ってコト!?



 とはいえ、初対面は好青年キープが鉄則。ここで短絡的に恋愛感情と結びつけるのは、それこそ趣味でない。



「えらく急だな……でも丁度ぼっち飯で会話相手が欲しかった所、どうぞ大歓迎ってな」


 苦笑し肩をすくめてフランクに答える。



「お、いいね、それじゃ失礼しますっと……そうだ私の名前、服塩ソラ。衣服の服に、ソルトの塩。よろしく」



 ふむ、「ただの人間には興味ありません」とか言い出すかと思ったが、意外とノリは普通だな。無難に此方も軽く自己紹介。コツは親しみやすさを意識する事。


「清辻クマだ、こちらこそよろしく」




 こうして服塩ソラとの昼食が始まった。




「ふぅん、それで自習してたんだ……クマくんって結構マジメ系だったりする?」


「いや別に、何となく気まぐれで来ただけで……結局午前はスマホいじって終わったしな」


「あははっ、それなら家でぐーたらしてるのと変わらないじゃんね」


「うっ……全くもってその通りなんだよなぁ……」



 大学生テンプレ会話デッキ008【不真面目】と003【全面同意】を駆使して話題を流す。我ながら完璧。


 服塩は話してみるとザ・普通の女子大生といった具合で、俺の平凡なエピソードでも会話が続いているあたり、コミュ力高いなぁと感嘆。


 そりゃまぁ現実の女子はこんなもんか。

 別に何か特別な期待を抱いていたわけではない。むしろ淡白なぼっち飯が幾分楽しい時間になったという点で、俺は運が良いと考えるべきだ。



 対面に座る彼女はロースカツを飲み込み、カラカラと笑う。やはり可愛い……


 この状況を同期が見たらどうなるだろうか?常日頃から彼女ほちいほちいと喚いている彼らのことだ、確実にあらぬ誤解をするに違いない。


 そう考えると、見ず知らずの俺と現在進行形で飯を食っている彼女は中々肝が座っていると言える。女子の方がこの手の外聞を気にすると思っていたが……



「クマくんー?ねぇ聞いてる?」


「……!あぁ、すまん、白米の味を噛み締めてた」


清辻クマ、一生の不覚……

女子との食事中にトリップしてしまった。



「えーーなにそれ、変なのっ」


「ふっ…まぁ俺、白米おかずに白米いける口なんで」


「それ三角食べ出来てないだけじゃ?」


「……ノーコメントでお願いします」


「いや図星なのかよ」



 はい図星でございますが何か?おかずはおかずだけで食ったほうが美味いに決まってる。丼やカレーの時だけ飯とおかずを合わせればいい。

 あと我らが家系ラーメン『なつめ』も。白米+豆板醤+海苔+漬物+スープで掻き込む背徳感、あれは止まらん。



「それでさっきは何を言おうと?」



「んー、いや?何となくクマくんは根が真面目さんな気がするなぁって」



「え、いやマジでそんな事ないぞ?英語とか超苦手だし」


「英語は私も苦手」


「昼飯後の授業よく寝ちゃうし」


「分かるっ!ほぼ気絶だよねアレ」


「ともかく、服塩が思ってるほど真面目じゃないし、超フツーの一般平均大学生なんで俺」



「へぇ……フツーの大学生は私と話したらすぐインスタ聞いてくるけどね」


「ぎくっ!」


「わざわざ『いわし梅しそフライ』なんて選ばないし」


「どきっ!」


「それに夏休み図書館に自習なんて気まぐれでも来ない」


「ぐはっ!」



「……一体どこが"フツー"なんでしょう?」



 し…!!!しし……しまった………!!!

(正体がバレたグレートサイヤマンのポーズ)


 こうなったら会話デッキ009【開き直り】しかあるまい。したり顔の彼女にニヘラと苦笑いを作り一言。





「俺、大学生向いてないからさ」





「…………っ!………なんでそんな…」


 一瞬にして彼女の顔が曇る。ミスったかコレ…自虐度が高すぎたかもしれん。


「いやまぁ向いてないのはホントだし」


「そんなこと言ったら……」


「言ったら?」











「私も、この世界に向いてないよ?」


大学生テンプレ会話デッキ001【初手お疲れ様】

使用例「よぉ、お疲れっす」

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