第6話「ゴブリン退治」
「…これで受付は終了です。初クエストのゴブリン退治、頑張って来てくださいね。」
終わったぁ。
日本に居た時の、異世界言われてみたかったセリフランキングにあったギルド受け付けのお姉さんのこの言葉を聞いて僕は素直に絶望を感じた。
(ちなみに、今はシャーロットがパーティーに入ってしまったよりもクエストを受けるという絶望である。)
こうなった経緯を話すために少し戻ろう。
シャーロットがパーティーに入ってしまい、記憶が飛び、少ししたらクエストを受ける流れだった。
僕は始めだし薬草採取かと思ったが、シャーロットのチョイスはゴブリン退治。
E級クエストではあるが、戦闘系。
ヤバイと思いシャーロットのクエスト用紙提出を止めようとした。
後、一歩。後一歩だったのだ。
シャーロットの右手を掴んでクエスト用紙の提出を止めれたと思った。
思ったが、シャーロットの利き手はまさかの左。
僕が右手を掴んだ時にはシャーロットは左手で受け付けにクエスト用紙を出し終わっていた。シャーロットは半身で左右から引っ張られている様な体勢になりながらものクエスト用紙提出だったのだ。
「では、さぁ行きましょう!!」
「…。」
そしての今である。
笑顔ルンルン、そんなシャーロットとは対照的に僕はただただ立ち尽くしている。
「さぁさぁ、行きましょう。」
「…。」
シャーロットは動かない僕にまだ気分ランランな感じだ。
僕はランランでもルンルンでもなく、動きたくない。
「…しょうがないですね。」
動かない僕に見かねたのか、シャーロットは再び僕の腕を掴んだ。
引っ張って行こうという感じなのだろう。
だが、なおも僕は抵抗させていただく。
「あの〜…流石に歩いてください。」
「…!?」
パワーがあるといっても、シャーロットは年相応(多分15、16歳ほど)の女の子。流石に疲れてしまったのだろう。
シャーロットは僕の顔に下から覗き込んでウルウルしたような可愛らしい顔を見せ、歩いて!と、訴えてくる。
「は、はい!すいませんでした。」
僕は僕で年相応の男子高校生…それどころか女子への免疫はカースト下位の男子中学生。
シャーロットを日本で例えるなら、ヨーロッパやロシア系の外国人顔に近く顔は整っており、普通にトップアイドルの様なレベルだ。
そんな娘にウルウルの顔を見せられては僕は無視なんかできなかった。
「人を動かすのは得意なんですよ。…!?さ、サポート職としてだからですしてね!」
自慢げに自分の顔についての自慢…だと思ったら、シャーロットは謎にハッとしてグダグダにサポート職としての能力と言い張っている。
まぁ僕は、男性にしか効かなそうな特殊能力ですね…いや、シャーロットの顔だと人によっては女性にも効くのか?正直どうでも良かった。
だが別に、シャーロットがサポート職を強調した事で僕はある事に気が付いた。
サポート職→荷物持ち→荷物…あれ?シャーロット、リュック背負ってねぇ!と。
荷物持ちと言えば野宿用のテントであったり大きな物を持つため、必然的に大きなリュックを持っているイメージだった。
何かコイツは色々とオカシしい…。
だがシャーロットは腰にポーチがあったため、それが何でも入るマジックアイテム的な物なのだろうと、可愛い顔に負けた釈さから特に言い出しはしなかった。
「しっ!!静かに約剣さん。」
スモールシティからは20分ぐらいの森に入りさらに10分程歩いて行くと、僕はシャーロットに歩くのを止められた。
シャーロットを見ると腰を低くし、叢の草と同じくらいの高さで歩いている。
僕はうるさかったわけではないが、気に留めつつ腰をおとした。
「あれがゴブリンです。」
シャーロットの指さす先に居たのはアニメ(でのイメージ)通りのゴブリンだった。
身長は100以下ほどで耳が長く先端が尖っていて体は緑色。唯一と言って手に棍棒、剣、盾、弓矢…武器を持っていないのが気にはなったが、それ以外はイメージ通りである。
「さて、どうする?」
ゴブリンは仲間と何か話したり、木の枝を持ったり落としたり、急にジャンプしたり、意思のある様なないような。
僕はそんなゴブリンの様子を一通り観察して、シャーロットに聞きにいった。
見た目とは違い武器がなく意思はなさそうで…アニメとは違っているゴブリンの行動にどう戦うのが良いのかが全く分からなかったのだ。
「さて、どうする?じゃありませんよ。普通に何か魔法撃って下さい。精一杯、応援しています!!」
シャーロットから僕の期待していた答えは返ってこず。無茶振りだけが返ってきた。
静かだが僕を元気づける様なテンションの高い声を話すと、シャーロットは僕からササッと2、3歩後に下った。
荷物持ちだから期待はしてなかったけど、全部僕に丸投げかよ!?
だが、こうしていても話は進まない。
「炎よ、俺に力を貸したまえ、ファイヤーボール!!」
ボワッ
僕は叢から出てゴブリンの前に立つと、右手を突き出し詠唱を終え、魔法を放った。
「ギャー」
ズシャ
僕を発見し集まっていたゴブリン3匹、全てに当たった。
すると、ゴブリンの叫び声が聞こえた。
と思うとその瞬間、ゴブリンの体は灰になって地面に落ちた。
「…あれ?」
ゴブリンが思った以上に弱すぎた?はたまた、今回のファイヤーボールが以前より大きく黄色っぽく見えたのは気のせいではなかった?
ゴブリンが瞬殺過ぎた事に僕は疑問を抱いた。
「シャーロット、ゴブリンはそんなに弱き者…」
「本当に魔法が使えた…!!」
僕はシャーロットに話しかけたが、シャーロット心ここにあらず。
そんな感じに1人、笑顔で僕の事を見て飛び跳ねる一歩手前の様なポーズを取っていた。
「って、何やってんの?」
次の瞬間、シャーロットは瞬時に真顔になるなり、僕に駆け寄り僕の目をピンポイントに見つめてきた。
「へぇ!?」
急な真顔で睨む!くらいの空気を感を出すシャーロットに無意識に僕は目を逸らしてしまった。
生存本能とでも言うのだろうか、そんな感じに僕は横を向いたのだ。
「顔をそらさないでください。ゴブリン討伐の証に耳を持ってかないといけないんですから、燃やしすぎると…はい、もう一体倒してください。」
威圧的な目を逸らしてくれたかと思うと、シャーロットは僕が倒したゴブリンの原型が完全に残っていない事を確認してまたもやの無茶振り。
自分は何もやっていないのに、人には文句をつける。ワガママなお嬢様、どちらかと言うと典型的な不良の様な奴である。
「いや、でも、ここまで呆れられる程か…?」
僕は文句に値するくらいなのか?常識外の攻撃だったのか?
僕は自分でも一回はちゃんと確認しようとゴブリンの死体を見直した。
「確かにだ。う〜ん、殴り合いでもするしか…。」
ゴブリンの死体?どこ?地面が少し黒いから…コレが灰で…。
そんな感じにゴブリンがさっきまでいた所はなっていた。
その灰も風が吹くと少しづつ減っている。
「ギャー、逃げて〜!」
異世界に来て護身術を使う機会が!?そんな時だった。
後ろから甲高い、大きな声が聞こえた。
「?」
振り返るとその声を出したシャーロットが一生懸命走っている姿。シャーロットを拳を振り上げながら追いかける20匹程のゴブリンの姿。
その2つが目に映った。
「この世界のゴブリン、殴るんだ…。」
「エ、約剣! 速く逃げろ〜!」
僕もぼーっとはしていられない。していられたはずが、シャーロットがこちらに走って来た事で僕も一緒になって走り始めた。
「ハー、ハー。」
僕は全力疾走なんて100メートルが限界、余裕を持てるのは50メートル程である。
ゴブリンとは言え、20匹にリンチにあえば死ぬ。けっこう真面目に僕は初クエストで死を覚悟した。
バタバタドタドタ
死の覚悟を決めた。のだが、大きな鈍い音が後ろから聞こえた。
「ははは、全力疾走。うりゃー!」
さらにはシャーロットは笑い声を出す余裕が出ていていつの間にか僕の真隣を走っている。
「?」
僕はまた何だ?と後を振り返る。
あれ…ゴブリンおっそ。
後には、横から見たわけでもないのにゴブリンの速度がうかがえた。
「本当に雑魚なんですね、ゴブリン。数は多すぎますけど…。まぁ、スモールシティに戻りましょう!」
シャーロットは笑う余裕とかではなく、普通に笑って隣を走っている。
「スモールシティに帰れるのか…あれ?シャーロット、ゴブリンの耳は?」
「あぁ、ゴブリンの耳ですか?私が5、6匹分なら取っているので。さぁ、帰りましょう!」
まだこの状況に呆気にとられている僕に、シャーロットはポケットから直接ゴブリンの物らしい耳を取り出した。
落とさないでくださいよ?そう言うシャーロットが渡してくれた耳は緑色で尖っていて、血がダラダラ…。
「う…おうぇ。」
よくポケットに入れたな。そんな感心よりも僕では気持ち悪さが勝ってしまったくらいにはグロい物だった。
ゴブリンはその後簡単に撒け、スモールシティのギルドにも着いた。
「シャーロット…戦えたんだな!」
受け付けに提出するから。と言うシャーロットに耳を返すと同時に僕はそうきいた。
シャーロットが戦えた事に感心、荷物持ちとは何ぞや?という疑問からだ。
「ですから、ゴブリンは最弱の魔物。雑魚なのです。」
シャーロットはドライに、淡々とキョトンとした顔で。
テンションの高い僕を突き落とすかの言葉を残すと、お金を貰うことにルンルンに受け付けへ行こうとする。
アニメでは弱くても結構害悪なモンスターだったはずだなんだけど。割りと知性もあって…。
「ゴブリン退治なんて本当に初級の人しかしませんよ。数が多くて面倒くさくて逃げましたが、ゴブリンのパンチは13、14歳の女の子の威力くらいしかないですし痛くないですよ。ゴブリン程度に汚れて帰ると笑われるので逃げて来ましたが…さぁお金を貰いに行きましょう!!」
シャーロットの高テンションと反対に低テンションになった僕を疑問に思ったのか、シャーロットは立ち止まり良かれと追加でそう説明。
僕にとっては追い打ちをかけてきたわけである。
「ゴブリンはまじの雑魚…。」
シャーロットに引っ張られ受け付けに向かいながら僕は絶望。
異世界の常識が崩れて、つまりシャーロットは基本戦えなくて…。
じゃあ、戦えない顔だけ可愛いこいつと一年間同じと言う事。
僕はいつ日本に帰れるんだ?