第5話「仲間が出来ちゃいました…。1」
今は朝の8時頃。長旅の疲れでまだ眠い中、僕は今日で帰ると言うタングの見送りのために関門に来ている。
「村から良い働きであった。…。」
僕はここまで一緒に来てくれたタングを労おうと言葉と共に握手を求めた。
(タングとの関わり合いで感じた)おそらくはタングの僕のイメージは孤島で寡黙な勇者。
最後の最後でそれを壊さないためにも、タングが握手を受けてくれるかどうか…。という不安もり恐る恐る右手を差し出した。
3日程も一緒に過ごしたのだから、普通なら快く握手を求めてくれる物だろう。だが、タングからは「勇者様凄すぎ!!」的な雰囲気が出ており僕とは距離があったのだ。
「ありがとうございます!!」
僕の不安は杞憂だと言うふうにタングは何の躊躇もなく両手で僕の手を覆う様に手を握ってくれた。
目からは感激っぽい涙も流してくれており、僕から握手を求めた意味があるというものだ。
「これからも頑張って下さい。世界を救って下さい、お願いします!」
握手を終えるとタングは直ぐにそそくさと馬車を出発させてしまった。
もしかするとタングが村の人達へのおみあげにと買っていた物の中に生物があったのかもしれない。
「あぁ、この俺に任せておけ!!」
そそくさ出て行った割には何回もこちらを振り返ってくれているタングに僕は中二病ポーズと共に大きな声で餞別の挨拶である。僕が大声を出す事などレアなのだ。
「ありがとうございました〜!」
そしてタングは最後に10秒ほどこちらを振り返り、体全体で手を振てくれた。
10秒ものよそ見運転。が、謎に今回もちゃんと真っ直ぐ進んで行った。
「てか、任せろって何を任せるんだよ…数秒前の約剣さん?」
タングの姿が完全に見えなくなったからの自分への文句を1言。
正直…いやかなり、平和なこの世界で自分は何をするために来たのかを悩んでいる最中なのである。
「はぁ〜…。まぁひとまずはギルドに行くか!」
今の僕の生活費は少ない。1週間は絶対にもたない。
世界りよも、とりあえずは自分の金銭のために。さらにギルドに行かなきゃ暇。
なにより、一応の勇者がダラダラしてるのも…。という事でギルドにひとまず行く事にした。
「パーティー加入希望者も居るかもしれないし♪」
この世界での魔法使いへの反応から見て、そんな甘ったれた考えもあったのだ。
「…着いてしまった。」
考えてみるとクエストというのは言わば仕事。聞く所によると、仕事は学校よりも地獄なんだか…。
そんな訳で、ギルドに行かないための自分への言い訳を考えていたが、思いつかずに着いてしまった事に憂鬱。
ガチャ
だが、着いてしまった物は着いてしまった。
僕は初出勤の(クエストを受ける)覚悟でギルドのドアを開けた。
「かなり探してました。貴方が冒険者募集を出している約剣さんですよね?」
声をかけてきたその声は、同時に僕の手を握る距離に突っ込んで来た。
女性だ!!というテンパり、陰キャのタペストリーへの軽薄な侵入。
僕は急な事から、まず一歩下がり女性との距離を取ってから彼女を見る。
自分が一瞬てを握られたのはザ・アニメのヒロインその物の少女だった。
美しいと言うよりは可愛い。
異世界特有の派手さのない黒寄りの茶。色気分かるが可愛いが強い、首ほどまでのポニーテール。
大きいがツンの部分を持ち合わせる様な、気の強さを感じる様なキリッとした目。
水色が目を引くが白が基調と主張するくせに汚れが全く目立たない謎の服。
身長は160センチ程という守ってあげたくなるサイズ感。
陰キャの僕にはその少女の行動全てがパニック不可避の固まりと言う様な少女だ。
「受付係の人が変な格好をしてい少し変な事を言う人だから、すぐに分かるって言われまして…。」
少女は僕に申し訳ありませんと、だが人前でききづらい事でもモジモジはしないよと言う様な、しっかりとした感じである。
「…ハハ。」
可愛い顔からのしっかりし過ぎているようなギャップ…。
だが、僕はずっとダラダラはしていられない。
どう言う返事が良いのか考えるための、ひとまずはひとまずの苦笑いだ。
「え〜と…あってますよね?」
ここで少女の若干のモジモジ姿が出た。
出たが、不安と言うよりは合ってるでしょ!?そんな異圧感もある。
「…。いかにも、俺が約剣だ!」
言葉と共に、とりあえずは握手のため手を出した。
女性と手を繋げる!とかの理由ではない。
中二病としては、少し強気っぽい少女にビビらないよう。本音は、女子との会話は分からないので自分の王道の挨拶だ。
「やっぱり!!…私の名はシャーロットだぜ!え〜と、職業は荷物持ちだ!」
少女…シャーロットは厨二病挨拶に引くことなく、右手を広げるポーズまで取り僕の挨拶に乗っかってきた。
「お、おう。」
僕はシャーロットの反応に驚き、負けを感じたように思いながら無意識的に手を下げ、荷物持ちについて少し考えた。
記憶では(アニメの)荷物持ちは不遇的な物だったが、シャーロットはここで堂々と荷物持ちと話した。
まぁ大切なのはこの世界はどうなの?ということだ。
「う〜ん…。」
僕が冒険する上での最終目標は魔王討伐。戦闘のプロ達を引き連れて戦いに行きたい(楽をしたいし)。
量は戦闘で大切だが、募集人数は少数としてしまった。
つまり、人選1人1人がとても大切になってくると言う事である。
「どうしましたか?」
僕が猛烈に悩んでいた所にシャーロットは下から僕の顔を覗き込んできた。
可愛い…。
そしてその瞬間に全てが吹き飛んだ感じだ。
「そうだな…。」
「では!この冒険者メンバーカードに貴方と私の名前を書いて受付に出します。私がやりますしょう!」
まだけっこう悩む感じだな…。
僕がそんな感じにシャーロットの顔から目線を逸らした時だった。
この時間に痺れを切らしたのか、シャーロットはそう言うなり僕に何もきかずに受け付けへ直行して行った。
「はい、これでパーティーメンバーです。 よろしくお願いしますね!」
正直、入れるで良いけど、まだパーティーに入れるとは言ってないんよなぁ…。
突然の出来事からか、受け付けから戻って来た可愛い笑顔の女性に握手をされた事か。
僕は固まってフリーズしていたが、そんなこんなで初の冒険者仲間ができたのだった。
シャーロット加入が決まって1分程経った頃。
「まずは私がお腹ペコペコなのでご飯を食べましょう!!私はパーティーメンバー同士、助け合うべきだと思います!」
そろそろ握手の左手、離してください。手汗が…。
そんなどうでもよい事を考えていた僕の頭に爆弾が投下された。
「???」
「はい、お金出して!!」
女性に詰め寄られた事など無縁の僕は、状況の理解が追いつかないままポッケに入っていた財布を取り出してしまった。タングに少し貰っていたやつをである。
バシッ
シャーロットに財布を瞬時に手に取られると、僕は片方の手で引きずられてギルド内の食堂へ連れて行かれた。
ズリズリズリ…。
…シャーロットさん、パワーがあるね。デリカシーがある僕は言いはしないけどね。
なす術なく引きずられる僕は、状況が理解できず思考停止していた事で変な事を一生懸命考えていた。
「店長さん〜!とりあえず、ご飯下さい。」
パクパク、モグモグ…。
そんな効果音が出そうなくらい、手の残像が見えそうなくらいに。
食堂に着くと、シャーロットはとりあえず注文した料理を次々に食べていった。
僕はやはり状況が理解できずに思考停止していたため、注意などせずこんな事を考えていたのだ。
―20分後―
「お金がなくなったので、クエストボードからクエストを受けましょう!!」
シャーロットは満足したのか…いや、お会計で財布の中身が全てなくなってしまったからの発言だろう。
シャーロットは僕の手を掴み、受け付け横のクエストボードへ連れて行こうとしてきた。
そして、けっこう悪気がなさそうな本気の顔をしているのだ。
力の強いシャーロットに本当に危機感を覚え、僕は思わずシャーロットのほっぺを掴みシャーロットの進行を止めた。
「ムギュ。急にどうしゅましゅたか?辞めてくださゃいよ。」
流石にほっぺを掴むのは…。僕はハッとし手を離すと、シャーロットはしきりにただただ不思議そうな顔だけを浮かべている。
マジでヤバイ人とパーティーを組んでしまったのかもしれない…。
そう僕の全てが僕自身に信号を鳴らしているのが感じられてしまった。
「まず、パーティーは解散だ!!」
中二病?相手は女子だぁ?知らないね。
この状況で中二病をしていられる程僕もアホではない。
色々と目の前でやらかしのシャーロット。流石の僕でも顔と女性と言うステータスで挽回してあげようという気持ちはなかった。
さらに戦闘での挽回はあるかもしれないが、彼女は荷物持ちと言う事からもう何も見込めないのだ。
「え、何を言っているのですか?」
本当〜にただただまだこの状況でシャーロットは?だけを浮かべている。
しかも、どちらかと言うと僕の方が変な事をしているみたいな感じに僕を見つめてきていていた。
可愛い…。のかもしれない、何もこの人を知らない人は。
だが僕はなんとなくの本性を知ってしまったのだ。
悪いが本当に解散である。さぁ、受け付けにパーティー解散用紙を貰いに行くとしよう。
僕はシャーロットに背を向け、受け付けに歩き出そうと右足を前に出した。
「あのですね、パーティーは一度組んでしまったら特別な理由がない限り、一年間は解散できませんよ?」
「…はっ!?」
右足の次に左足が出ることはなかった、いやなくされてしまった。
それどころではない。首を振りながら目をつぶり手を上に上げるポーズ(言う所の?ポーズ、やれやれポーズの事。)を取るシャーロットに、女の子にマジトーンの「はっ!?」を浴びせてしまった。
「一年間コイツと同じパーティーって、どういう事…。」
僕はただただ、ただただ絶望を感じた。
強い味方との連携プレイ。人々の希望の星こと最強の勇者パーティー。転移始めから最強ムーブ。
異世界転移嫌だなぁ〜。と思いつつもせっかくならとイメージしていた全てが消え去って行った。
「さぁ魔法使いさん、お金がないのです。クエストに行きましょう!」
感情の抜けた僕は軽いのだろうか?
シャーロットはこれみよがしに僕を握り、どんどんクエストボードの方へ僕を引きずって行く。
「…っつ。何言ってやがる、一人で行け!!」
最後の抵抗。
この人には、この場面でこの高テンション感の女性にはついて行けない。
流石に空気を読めるように。僕はシャーロットの腕から脱出し、かなり強い口調で言い放った。
「え!?私、荷物持ちだと言いましたよね。荷物持ちは基本的に一人でクエストを受けられないんですけど…。」
僕の心情を全く知らなそうなシャーロットは「え!?貴方、少しオカシインじゃないですか?」そんなテンションで1人勝手にしんみりしている。
ハハハハハハ、ハハハハハハ、ハハハハハァ…。
何かに信念を持っていたりはしなかった。たが、これはルール、職業、ギルド、ついでに人。
信じたくないし、信じれない。
「……。」
次に続く言葉がまったく出てこない。
出すべきなのかも分からない。
「え…やだ、クエスト拒否りたい…。引きこもりたい…。」
硬くなった消しゴムの様に硬直した口、脳、体。
口だけが動いた。
「何を言っているんですか?もし私が1人でクエストを受けている所を報告されたら、パーティー全体でペナルティがあるらしいですよ。」
「しょうがないですね!」そんなテンションの中、なおもシャーロットは僕を引きずりクエストボードへ向かっていた。
そんなルール見てないし!!!
異世界転移、その1はギルドではなく文字の習得だったのだろうか?
感情がこの時抜けた僕は、なんだかんだでこの後クエストを受ける事になってしまった。
本当に記憶がないのだ。なんだかんだなのだ。