第4話 「魔法使い。」
中世ヨーロッパ城の城壁に街一帯がぐるっと囲まれている様な。スモールシティはそんな若干古い様だが丈夫そうで高さのあるレンガの壁に囲まれている街だった。
いやいや、進撃の○人かよ!と、やり過ぎな過剰防衛だと一目見た時は思ったが、タングいわくモンスターから街を守るための防壁はこの国の街ではデフォルトとのことだった。
そしてホールケーキくらいに見えた防壁が目の前でデカっ!となって、関門に着いてもう入るだけだ!って時だった。
馬車は門番に呼び止められ、止められてしまった。
「はぁ~、まだなのか?」
止められてから10分ほど経ち、長旅の疲れからか我慢も切れてしまった事で僕は荷台を降り、タングと門番が話し合っている場所へ行った。
「は、勇者様、勇者様だと!?」
さっきから聞こえてきてたが、大きな声を出していた門番はかなり強気でタングに対して舐めている態度。
門番はタングに比べると少し小さくヒョロっとしているが、金属製の槍を地面に突き刺し甲冑を装備して堂々と仁王立ちしていた。
「何度も言っているだろ!絵本の中の勇者が居る? そんなわけがないだろ。だからお前を入れる訳にはいかないのだ。いい加減にどっか行け!」
「な、何でですか!?」
タングは自分の話を理解してくれない事がただ理解できない様だが、周りからするととぼけているように感じてしまう喋り方をしていた。
「コイツ…そろそろ分かれ。」
タングはそんなに強気な性格ではなく、今は斧も持っていない。さらに(何も知らない人からすると)とぼけの入ったような話し方はかなりムカつくのだろう。
門番は10分間も諦めないタングにイラついている様。さらにはそんな大男に装備や性格からかマウントを取れている事実。
そんな所からか門番の足は貧乏ゆすりをして、地面に突き刺してあった槍に手をかけていた。
「俺が、勇者約剣だが何か?」
この流れではタングはもうすぐ槍で刺される。
僕は流石にヤバイなと感じ、タングと門番との間に中二病ポーズと共に乱入した。
「お前か、この大男をファンシー野郎に改造した悪党は!」
門番は勇者と名乗った僕に槍を突き出してきた。
「いや、俺は勇者なので…。」
僕はもっとヤバイと感じ、その場から2、3歩後に下る。首元には冷汗を感じていた。
「しょうがない…。魔王に催眠にかけられた大男1人と、青年が死亡。」
本当にヤバイと焦りで思わず僕は両手を上げたにも関わらず門番はそう叫ぶと槍をスッ。
威嚇のつもりだったのか、その槍は僕の右腹を30センチ程避けた。
避けたが、僕は完全なるパニック状態。
何を言ってんだ?から始まり、マジか。死ぬ。
「炎よ、俺に力を、ファイヤーボール!!」
ボワッ
生存本能からか何なのかは分からないが、僕は僕で狼を倒したファイヤーボールを撃ってしまった。
「…何?」
狙い定まらず。威嚇でも何でもなかったが僕の魔法は門番の左頬を外れて城壁に当たり、ポワっと消える。
「お前は…」
僕が魔法を撃った事を見た門番は驚いた顔をしたかと思うと、すっごい形相で僕を見てくる。
門番ほ顔は恐怖心が勝っている様な感じである。
「(小さな声で)あっ、終わったぁ…。」
ここから殺し合いだろうか?一発目を外したことで僕は絶望した。
さっきの威嚇のスピードで槍を出されたら避けられるわけがない。
逃げるか?いっそ土下座でもしてみようか?
「いや、貴方様は…本当に申し訳ありませんでしたぁ〜!!!」
僕が土下座をする気満々だったが、門番は顔を青くしながら槍を地面に置くと僕に向かって立派な土下座を見せた。
「何が…?」
「勇者様かはともかく、魔法をお使いできる魔法使い様と知らず、とんだご無礼をー!」
僕が目の前の状況を理解できず固まっていた所で門番はさらに頭を地面に擦り付け始めた。
これ以上はハゲちゃうんじゃない?状況が分からず僕は別の事を考え始めた時だった。
「流石、勇者様!!さて、門番。私達は街に入りますので。」
タングはいつも通り一言目で僕を褒めると、次に馬車に戻り馬を動かし門を通過しようとした。
「はい、お入りください。約剣様にタング様ー。」
門番はまだ頭を地面に擦り付けながら門の通過を容認。
まだ何が起きているのか分からない僕もタングに促され馬車に跳び乗り、門を通過し、スモールシティに入ったのだった。
「…本当、whatだよ。」
「流石は勇者様でした。敵を倒さず、あんなにスッキリとする解決策を出すだなんて。」
やっぱり何も分からない。
が、さっきの状況からして…魔法?
「スモールシティに入れましたし、目的の勇者様のお仲間集めです。ギルドに行きましょうか。」
ギルド!?
これ以上考えるのも、あの状況を思い出すのもそんなに楽しくはない。
異世界やる事リスト、No.1のギルドと聞いて胸が高まったが、とりあえず心を落ち着かせると言う事で街を見てノンビリする事にした。
「ここが、スモールシティのギルドですね。」
街は大体がレンガ造りの中世風。道端には露店の店舗が多数。
そんな大通りの様な道を通って数分すると、またまたレンガで2階建て。人が多く入ったり出たりしている建物、ギルドに着いた。
「…ふ〜う。」
アニメでよく見たあのギルド。僕は自信を十分落ち着かせてからギルドへ足を踏み入れた。
ガチャ。
「先輩ー。アレ、ヤバイっすよね?」
「酒がうめぇ~!」
「当ギルドでは…。」
1言で言うと、ギルドの中はメチャクチャにワイワイうるさい空間だった。
マッチョの上半身裸男に腰に剣を指した女性。盾を背中に背負っている背の小さい人、多分ドワーフだろう。ジョッキを頭の上まで傾けてゲップをしている人。
色々でハチャメチャだ。
「アニメ通りでいけば魔法使いが居ても良いはずなんだけど…。」
本当に僕のアニメでのイメージ通りだった。
1つの点、魔法使いらしき姿がないこと以外は。
本当に居ないのか…僕は軽く肩を落とした。
「すみません、このお方の冒険者カードの発行をしてもらいたくて。」
落とした肩をタングに叩かれて気を取り直すと初ギルドでやる事を思い出し、次に僕はタングと一緒にギルド受付に向かった。
「はい、分かりました。まずはギルド登録ですね〜。」
タングが受付に声をかけると、バックヤードからイメージ通りのようなスーツの様な服を着た美人のお姉さんが出てきて紙とペンを受付台に置いた。
「このお方は魔法が使えるのです。」
お姉さんが出てくるなりタングは自慢げに、誇った感じで僕の事を話した。
誇られるのは嬉しいけど、男性に誇られても…。僕は営業スマイルと共にお姉さんに手を振った。
「え!?魔法が使えるのですか!?」
お姉さんはすっごい驚くと、突っ込んでくる勢いで上半身は受付台を乗り越え、僕の右手を掴んできた。
「…無論である。」
何でこうお姉さんが興奮気味かな分からない。が、悪い気はしない。どちらかと言うと嬉しい。
僕はもう少しチヤホヤされてみたいので、しっかり低い声で中二病ポーズと共に答えた。
「魔法が使えるのなら、冒険者カードはけっこうです。ギルド登録と、冒険者募集の紙をあちらで記入して頂いて、持ってきてください。」
チヤホヤというのかどうかは分からないけど、どう考えてもの特別扱い感。
僕はA4の紙を2枚とペンをお姉さんから受け取ると直ぐに指定された場所に向かった。
さぁ書こう!
僕は紙を机に置いて椅子に座り、ペンを持った。
「…あれ?」
さっさと書こうとした所で僕は気が付いた。
紙には日本語が見当たらないという事に。
スタッ。
「私が座るのですか?」
会話が日本語なら文字も日本語でいいじゃん…。だがまぁ次に進まない。
僕は立って椅子を少し遅れてここに来たばかりのタングに譲った。
つまり、記入を任せたわけだ。
「…??私が…読みますね?」
「あぁ。」
「記入する項目は3つです。まず、自分の職業。次に募集する人数。最後に冒険の最終目標です。」
何で自分が座らせられたのか分かったのか、タングはちゃんと文字を読んでくれた。
「最終目標は魔王の討伐。職業は勇者様。募集する人数はどういたします?」
タングは僕に最終目標は一切きかずに記入。
合ってはいるし悪気もなさそうだが…なんとも言えない気分である。
パーティーの人数について、前から僕は軽く考えていた。
「俺に多くの味方は要らん、2、3人でよい。俺のパワーの前では何人だろうと関係はないのだ。」
戦闘において大切なのは量。流石に知っている。
だが、陰キャコミュ症の僕には大人数をまとめられる能力はない。
さらに大人数だとキャラの濃いヤツにパーティーを乗っ取られるのでは…?
それらの理由からの少人数希望だった。
ちなみに、俺のパワーの前では何人でも関係ない。そんな事はないので、これは適当な理由付である。
そして(タングが)書き終わったので(タングが)書いた紙を僕は受付係のお姉さんに持って行った。
「名前は約剣さま。職業は勇者様…?」
お姉さんは紙を受け取ると、まず?を向けてきた。
首を傾けて、目を軽く細めて…。だが、門番とは違って優しい感じでの質問だ。
「まぁ、あはは…。」
「じー。 まぁ…少なくとも魔法が使えると言うのでしたら上級職になりますね。」
とやかく言われたくないないし、ヤバイ奴判定はサれたくないので苦笑いしながらの目そらし。
お姉さんは僕から説明がなかったので、記入した紙に修正を加えていた。
「では次に約剣様、ランク制の説明になります。モンスターにはE〜Sまでの階級があります。E級クエストが一番低難易度、S級クエストが高難易度です。冒険者ではEランクが下、Aランクが最上級です。S級モンスターやクエストにはAランク冒険者が最低でも7人が推奨です。魔法使い様なので、Cランクからのスタートにさせていただきます。モンスターの等級は目安になりますので、慎重に戦闘を行ってください。そして…」
長い長い説明書終わり、僕はかなり疲れたが手続きが終わるまでは定期的に
「そして次に最終目標は、魔王討伐ですか…?」
「まぁ、あはは…。」
他にも「募集人数が少数?」「ははは…。」
お姉さんから定期的に質問があり僕は笑い流す。反応を見てお姉さんは紙に修正を加える。
そんな工程が何度か行われた。
「これで以上になります。約剣さんは魔法が使えますので、パーティーメンバーさんは直ぐに集まってくれると思いますよ。」
やっと終わった頃には(変なヤツ扱いされていないかドキドキで)ライフはゼロ。
中二病での返事も無理なくらいに疲れていた。
「無事、登録が終わりましたね。宿を取って休む事にしましょう。」
その後、そう言う事で僕らは宿を取った。
取ったら僕は初の長旅から直ぐに睡魔に襲われて寝て。タングは明日には帰ると帰る準備をし始めてしまった。
僕はここまで一緒に来てくれていたタングを手伝いたかったが、睡魔に勝てず即効寝て。
勇者…いや、人としてどうなの?という行動を取ってこの日は終わったのだった。