第6話「厨二病、アルソフィナ王国に着く。」
「勇者様、ご飯が出来ましたよ。」
コメスさんがそう言ったので僕はテントから出た。
今日のご飯はコメスさんが完全に1人で作るからと、言われたので手伝わなかった。
流石に馬車を引いてもらって、剣の訓練をしてもらって、ご飯も作ってもらっては良くないので大抵はご飯の準備を手伝っている。
ちなみにやっぱりだが、アルゴンはそんなに何もやらない…。
「シチューです!」
そう自身満々にコメスさんは言った。
シチュー…。
前に詳しいレシピを教えてくれとは言われなかったので、大して教えてはいなかったのだが、見た目はかなり美味しそうに出来ている。
「さぁ、早速食べてみて下さいね。」
コメスさんがそう言って食べ始めた。
美味しい!
詳しいレシピを教えていないのに良く再現出来たなと、かなり関心出来るレベルで美味しかった。
てか普通に多分、僕の作るシチューより美味しいし…。
「美味しいですね!! 何て言うんですか?」
アリナさんがそう言った。
幽霊なのにご飯はちゃんと食べるんだ…。
「シチューて言うんだよ! 俺等のパーティー発祥なんだよ。 てか、幽霊でもお腹は減るの?」
アリナさんの言葉を聞いたアルゴンはそう僕が作った物を俺等のパーティー発祥と自慢げに言った後にアリナさんにそう質問した。
「別にお腹が減ったりはしませんけど…食欲は何故か湧くんですよね。」
そんなもんなんだ…。
僕もコメスさんもアルゴンも「へ〜。」ていう反応。
「他の幽霊さんが居るか分からないですし、居たとして食欲はあるのかは分かりませんけど、私はやっぱりご飯は食べたいですね。」
幽霊だとしても基本は食欲はあるのかな。
なんてったって、人間の3大欲求の1つだしね。
…アリナさんは幽霊か…。
「勇者様、どうですか?」
味の心配をしているのかメチャクチャ美味しい。
「あぁ、美味い。」
そう答えた。
高級レストランでも出てきそうなぐらいのクオリティーだ。
さっきも言ったが、僕の作るシチューでは相手にならない。
「そうですか。 良かったです。 1週間程コレを完璧にしたくてずっと作って食べてをしていましたよ。 カールが「やめて」と言ってましたね…。」
1週間もずっと作って食べてたの?
大商会の会長さんなのに…暇なのかよ。
「商品にするんですか? レストランとかで食べたいです。 私…レストランに多分入れませんね…。」
そう1人でお笑いをしているアリナさん。
「いえ、商品にはしない予定です。」
アリナさんの話にコメスさんはそう答えた。
別に商品化してシチューでコメスさんがお金を稼いでもらってもいいけどね。
「まずは、シチューは勇者様発案の料理ですから。」
そうコメスさんが説明をし始めた。
僕発案の料理ってわけでは無いんだけどな…。
「次にですね、食材の1つが高価なんですよ。」
そうなの?
それを聞いてアリナさんは「私が食べても良いの?」みたいな反応をした。
「それって、何?」
アルゴンが話に入ってそうコメスさんに質問した。
「ちゃんと説明をしますよ。」
せっかちなアルゴンにコメスさんはそう優しく答えた。
「牛乳ですよ。 勇者様の世界ではどうかは分かりませんが、この世界で牛乳を取れる動物はかなり危険なやつなんです。」
僕の世界、地球では牛から牛乳を搾るのに命をかけたりしないよ、普通に。
「え!? でも、コメスさんは持って無かった? それにコメスさんと別れた後でも騎士団の人が牛乳を準備してくれたけど?」
アルゴンがそうコメスさんにきいた。
確かにそうだ。
「あの時私は牛乳を調達して帰る途中だったんですよ。 なので牛乳を大量に持っていました。」
そうだったんだ。
てか、大商会の会長さんが危険を犯してまで牛乳を調達しに行くなよ…。
「え、じゃあ騎士団の人が調達してくれたのは?」
アルゴンがもう1つの、疑問をきいた。
「高価と言ってもラファルク王国内でしたら、騎士団の隊長さんレベルな方でしたら結構簡単に手に入れられると思いますよ。」
確かにラファルク王国内だった。
あの時は騎士の1人が準備したと思っていたけど、ベルガさんもグルだったんだ。
「ご飯も食べ終わりましたし、そろそろ寝ますか。」
コメスさんはそう言ってご飯の後片付けまでしてくれた。
普通にそれくらい自分でやるんだけどな…。
それからは特に目立ったことは少なかった。
コメスさんと一緒に剣の訓練をしたり、モンスターをアリナさんの力で回避したり。
たまにアリナさんが寝ちゃってて、モンスターと戦うことになっちゃったり。
何か良く分からないけど、何故かモンスターに襲われていた人を助ける事になったり。
で、結構時間は直ぐに過ぎて後1日程でアルソフィナ王国に着くって頃に、僕らと一緒に魔王城方向に向かうはずだったラファルク王国騎士団3番隊の人から鳥で手紙が送られてきた。
「何か…鳥が飛んできます。」
それに気づいたのはもちろんアリナさんだった。
手紙には
―勇者様、ご連絡遅れて申し訳ありません。 早速ですが本題です。 私達3番隊もアルソフィナ王国へ向かいます。 本当は勇者様を放っといてしまおうという感じでしたが、5番隊のアルさんと4番隊のベルガさんが是非とも勇者様を手伝ってあげて下さいと国王様に直談判しましたので。 到着はこの手紙が勇者様に渡ってそこからさらに4日後程でしょう。―
と書いてあった。
僕はこの世界の時は読めないのでコメスさんが代わりに読んでくれた。
要するに3番隊の人達もシャーロット奪還に協力してくれるらしい。
アルさん、ベルガさん、ありがとう!
アルゴンは
「長く!」
とか言って、そんなに聞いてなかった。
てか普通に長くはないだろ!
コメスさんは
「だとしても後4日かかります。 騎士団の方々を待たずにアルソフィナ王国へ潜入しましょうか。」
という提案を出してくれて、アルゴンは「待とう」とか行っていたが結局コメスさんの提案に乗ることになった。
「見えましたね。」
とコメスさん。
僕らはアルソフィナ王国にもうすぐ着く距離に居る。
街には白いお城が見えた。
形は日本では無くてヨーロッパの物に近い。
貴族主義の国、アルソフィナ王国。
シャーロット、待ってろよ!
「さぁ、行くぞ!」
何となくカッコを付けてそう言ってみた。
コレは貴族主義というアルソフィナ王国に対する緊張と不安から出たものだった。
…決して本当の厨二病とかでは無いからね!!
違うから!!
「…」
とアルゴン。
「そうですね。 行きましょうか。」
と、反応をしてくれるコメスさん。
アリナさんは…
「…」
という反応。
まぁ、いっか。
さぁ、行こうか、アルソフィナ王国!
「門番みたいな人は居ないですね。」
そうアリナさんが言った。
ちなみにまだアリナさんは透明にはなっていない。
前の方にお城は見ることが出来るが、実際はそんなにお城とは近くない。
というのも、この国には壁が出来ている。
その壁を通った後にさらにまた移動をするらしい。
ひと目見た国の建物などの位置関係はどっかにある夢の国に似ている感じだ。
城は外から見えているが、実際は近くは無い感じ。
「こんな感じの国なんだね〜。」
アルゴンはそう言った。
国の雰囲気が分かったみたいな感じに言っているが、なんとなくのみた目の事だろう。
「そうなんですね。」
コメスさんも始めて知りましたという感じだ。
まぁ、行ったことは無いって言ってたしね。
そうして門をくぐる。
「あんた達…豪華な物を着ているが、護衛は居ないし貴族って感じじゃないな。」
そう門を通ったら、壁で隠れていて死角になっていた所から1人の男性が出て来てそう言った。
年は30くらいだろう。
見た感じ少ホームレスみたいな人のようだ。
だがこの世界で言う特上とはいかないが、かなり良さそうな服を着ていて体はそこまで汚れていない。
「何でそう思うんでしょうか?」
コメスさんはそう言ってその人にきいた。
アリナさんは人が居ることに気付いて透明になってしまった。
「答えにはならないが、あんたのその回答が貴族じゃないよ。」
そう陽気に笑いながら言う男性。
どんな人かを簡単に例えるなら、ノリの良いおじさんみたいな人だ。
てか、わざわざゆっくりと話して…何か狙っているのか?
「まさか…泥棒ですか。」
そう男性に強く言って腰にささっている剣に手を伸ばすコメスさん。
「いや、ここは人が少いとは言ってもそんな人外な事はしないさ。 最近までは働けていて今はまだお金も沢山あるんだ。」
そう男性は答えた。
「じゃあ何で今はこんな所に居んの?」
今度はアルゴンがその男性にきいた。
「首になったんだよ! 何か分からないけどな。 特に大きなミスも無かったが…貴族の連中なんてそんな者さ。」
少し強い口調で男性は言った。
「理由は知っていますか?」
少し興味がありそうにコメスさんがきいた。
「確か…貴族の婚約話とかが関係をしているとかは言われたな。 それしか知らん。」
多分その貴族は婚約話が上手くいかなかったとかでこの男性に八つ当たりしたんだろうな。
異世界貴族物のアニメとかでそんなヤツもいたし。
甘やかされて育ってるから、ワガママなんだよな…。
「そうですか…貴方関係でなくて良いので何かこの国で少し大きな事件等はありましたか?」
コメスさんは今度はアルソフィナ王国の現状についての質問をした。
「…そんなに大きな事はないな。 俺は公爵家で働いてたから、情報に関してはかなり強いほうだ。」
そう男性は答えた。
結構、良い所に居たんだ。
公爵家って、確か王様についで次に偉い位だな。
「ありがとうございます。 コレをどうぞ。」
そう言ってコメスさんは懐からお金を取り出した。
ラファルク王国とクメシアルのお金は同じって知っていたけど、ここでもピソを渡そうとしている所を見るに、この世界のお金って、全てピソで統一されてんの?
「いや、結構だよ。 お金はあるって言っただろ。」
そう言って男性はお金は受け取らなかった。
「そうですか…では貴方に良いことがありますよう。」
コメスさんは男性にそう挨拶をした。
「おう、あんた達もな。」
男性はコメスの挨拶にそう答えた。
男性と別れてから少し経った。
「何か…建物少なくない?」
アルゴンがそう言った。
確かにそうだ。
全国民がここに住んで居るにしてはあの城の近くにある城下町的な所ではせいぜい居て20万人くらいだぞ。
「確か…クメシアルとは違い1箇所に全て建物が集結しているのではなく、ラファルク王国みたいに領土に何個か街があるとか、所々に貴族たちのお屋敷があるとかだと言う情報がありますね。」
そっか。
最近はクメシアルに居たから頭になかったけど、ラファルク王国みたいに領土の色んなとこに街がある方が普通の事だよな。
「ひとまず向かうのはあの城が見える所で良いと思いますよ。」
コメスさんはそう言った。
「作戦はどうする?」
僕がきいた。
「そうですね…大きな行動を起こすのは騎士団の方々が来てからで良いと思いますが、貴族たちの正確な情報やシャーロットさんの行方は掴んでおきたいですね。」
貴族たちの正確な情報、つまりあの公爵家で働いていた男性の持っていた情報よりも正確で大事な事分かる物。
アリナさんだな。
透明になって貴族の家にでも忍び込めば情報見放題だしな。
「アリナさん、街に着いて少ししたらお願い出来ますか?」
「もちろんです!」
コメスさんのお願いにアリナさんは心良く頷いてくれた。
「ひとまずは宿を取りましょう。 防音がしっかりしている所を。」
コメスさんがそう提案した。
「やっと休めるー!」
ウキウキにアルゴンは言った。
…平民は(僕達は)何されるか分からない国でそんなリラックス出来ないだろ。
ただ、確かに僕も少し休みたいな…。




