第3話 「ファイアーボール!!…。」
―――20分程前―――
「魔法はどう使うと言われている?」
女神からは何も聞かされていない。もちろん、あのお爺さんからも聞かされていない。
要は勇者(魔法使いなのに)使い方が分からない。
マッタリしていてイベントのなさそうなフリータイムの今。ここらで不安を解消させておきたかったのだ。
「絵本の伝承でいいでしょうか?」
「あぁ、それでよい…。」
また後ろを向いたタング。
だから、ずっと前を見ていてほしいのに。僕はそれだけでヒヤヒヤなのだ。
「…あれ?」
返事を返して、1テンポ遅れて僕は気が付いた。
タングは今から絵本の説明を僕にしてくるのか?と。
普通に昔から有名な伝承だが何だかの事を話してくれると思った。が、話してくれるのは絵本?
絵本と言われ、安心なんか出来ない。というか不安が高まっていく。
『僕が魔法を使えるかどうか、さらには魔王を倒せるかの命運はどこの誰かが書いた絵本の勇者のイメージ像が握っているような物って事?』
「絵本では、勇者様は何か格好よさそうな言葉を話しながら魔法を使っています。」
「ほお…。」
「何とかかんとかよ、力を!ファイヤー何とかー!みたいな感じですかね。」
とても照れながらも、多少声を大きく出してタングはタングの勇者イメージを口に出してくれた。
その一生懸命のタングのセリフを聞いた僕は思う。
「あれ…それって…」
『ただの中二病じゃね?』と。
いやいや、流石にそんな簡単な世界ではないはず。だとすると、この世界の男子中高生は全員魔法使いって事になるだろうし…。
僕はとりあえず、反論を考えた。せっかく転移させられたのに、世界がこんな簡単だとしたら心が駄目になりそうだからである。
『いや、でも、あの少女は僕の性格にピンときたと言ってた。あれって、マジで厨二病心って事なんじゃ?いやいやいやいや、流石に違うはず。二病心でなんとかなるようなイージーな世界じゃないはず。』
不安は一度考えてしまうと止まらない。またさらに僕は自問自答を繰り返した。
「どの絵本でもカッコいい言葉と…それと格好いいポーズを取っていますね。」
キラキラーン。後ろを向きタングはそんな目を僕に向けてくる。
カッコいいですよね?
タングはそう僕に同意を求めてきているようだ。
「…あぁ。」
僕のイメージとしては勇者は剣士。絵本の著者達にタングと、絶対に分かり合えないと思いながらの苦笑いだ。
あいにく、タングはもう前を向き直していたため僕の声しか聞こえていない事だろう。
「…ところでタング。この俺と似た力を持つ者は居ないか?」
もう勇者像なんかどうでもいいから、とりあえず魔法を。先輩を。教えてくれる先生を。
僕は色々と放棄し、そこにだけ賭けた。
「勇者様は言い伝えではここ300年近く現れていないと言われています。」
「…。」
まぁ、ここは想定内である。
勇者が別に居れば僕はこの世界に来る必要はないからだ。
「魔法使い様は大きな街に数人ほど居るらしいです。」
追加で言った「スモールシティなんて小さな街ではなく、ビッグシティとかの!」そんなタングの一言が僕の賭けの負けを告げた。
教えてくれる存在は居ても、今は頼れない。
ハハハハハ…本当にスモールシティに行く意味は何なのだろう?
「…ファイヤーボール!!」
かなりの絶望を感じた僕は「もう適当でいっか」そんな感情を持ってとりあえずアニメでの技名を叫んだ。
「うぉ、急にどういたしましたか?」
まぁ結果は何も起きずの無反応。パッと出でどうにかなるほどの世界ではないと言う事らしい。
タングが僕を見て驚きの声を上げただけだった。
タングの声で冷静になって、はい!恥ずかしい…。
そんなで終わるはずだった。
ガサガサ。
近くの叢で音がなった。
何だ?そんな事考える暇もないくらいにこの場所は叢から出てきた狼(らしい生物)に囲まれてしまった。
「ガルルルル…。」
静かに止まっていれば何とかなる様な雰囲気ではない狼のうねり声。逃がしてはくれない。というか、襲ってくる感じだ。
「勇者様、狼です。ここは私に任せてください!勇者様はひとまず御者台へ。」
戦うのか…?
急な出来事に体が硬直して動かない僕を元気づけるかの様にタングはニコッと笑い、馬車の御者台にかけかけてあった斧を持った。
「うぉ〜!」
そして叫び声と同時に斧を振り指し狼に突っ込んで行く。
――――――
「はぁ、はぁ…これで1/3…。」
タングは1回の斧の振りで2匹を瞬殺。振り下げ地面を割った斧をすくい上げるようにしてまた2匹。
タングはかなり頑張ってハイペースで狼を倒していった。が、狼を目の前にした緊張からか既に息を上げてしまっている。
さらに狼とは群れで狩りをする生物。この世界でもそれは同じようで、まだまだ2/3も居た。
状況はかなり悪そうに見える危機的状況。
「どうしてこうなった…。」
そんな状況を恐怖で小さくなりなりながら僕は見つめた。
「あ…完全に僕が叫んだからじゃん。」
無責任極まりないヒーロー(勇者)とは僕の事だな。
僕は馬が狼を蹴ろうとする事で御者台に居るここには狼は来ないそう。今は安全と感じるなり、謎に冷静になった。
なってからは謎の正義感も生まれた。
『原因は明らか自分だ。そして僕はこれでも一様勇者。タングはこんな僕のために命をかけているわけだし、何とかして手助けをしたい!』と。
でもどうする…?
僕は多少の護身術は出来た。だが、相手はそんな物効かない四足歩行野郎。
ここには剣も弓も盾さえもない。じゃあ…魔法だ!!
という事で、僕は頭を悩ませる。
カッコいい言葉→中二病言葉→魔法の詠唱→タングの「何とかかんとかよ、力を!ファイヤー何とかー!」
「あ! ほ、炎よ…俺に力を、ファイヤーボール!!」
ボワッ
「キューー!?」
御者台を降り立ってタングの話に中二病を代入。右手を前に突き出す。そしてそこからは一瞬だった。
見えた限りで、手からただの赤い玉が光って前へ飛んだ。自分では全く熱くもなんともない物が。
そして1秒も経たない内に、狼の中でも後にいた体の大きな一匹に命中。
直径10センチいかない様な炎だったが、炎は炎で相手の狼は狼。
当たった狼は何が起きたのか分っていない声を上げ、そして倒れ動かなくなった。
その一匹が動かなくなるや否や、他の狼達はどこかへ走り去って行った。
「流石勇者様です!珍しすぎる魔法をあんな簡単に使うだなんて。しかも一発でボスに命中!」
何で何で?何で狼が逃げたのか分からなく、ただ突っ立っていた僕の所へタングは目を輝かせながら来て褒めちぎってくれた。
「そうか。デカかったのはボス狼…。まぁ、当たり前だ!」
ボスを狙ったわけではないが…結果論として僕はタングを助けた。魔法も使えた。
初の戦闘でこの功績。タングに褒められて悪い気もしなかった。
気分のよくなった僕はドヤって中二病ポーズ。
ここまで褒めちぎられたのはかなりの久しぶりだった事があって、このまま言わせておこう精神で特にタングに言うはなかった。
そして僕が荷台に乗り込むとタングは御者台に座り馬車を出発させた。
狼事件から少し経つと、(土を固められた程度ではあるが、)獣道ではない舗装された道に出た。
そしてそこからはモンスターなどが出て来るなどのイベントはなかった。
その後はタングの僕への褒め言葉に乗ったり、少し鬱陶しくなって寝ては起きたり。
そんな事が続いて行く内に、時間は正午を回ったくらいにはスモールシティが見えたのだった。