第17話「勇者、どうするか考える。」
アリナさんの案内でとても大きいお店の前まで来た。
てか何でずっと森に居たアリナさんがカール商会の場所を知ってるの?
「ここらしいです。」
らしいって…確かだよね。
「…どうすればコメスさん、会長の執事を呼んでもらえると思う?」
それを2人に聞いてみた。
この建物がカール商会で正解だったとしてもどうやればこんな僕がお偉いさんを呼ぶのかのイメージが全くわかなかった。
だって、日本で例えるなら…日本で有名な俳優が急にアメリカの有名な映画会社に訪ねる様なものだ。
もちろん、そのアメリカの人からはほとんど認知されていない。
「普通に勇者なんだけど、会長さんに会いたいって言えばいいじゃん。」
そうサラッと言うアルゴン。
それはどうかと思ったが、それ以外に良い案が浮かばないのでそれで行くことになった。
「申し訳ないんだけど、アリナさんは透明になってもらえる?」
幽霊が勇者の隣に居ると話が全く進まなそうなのでそうお願いした。
そうしてその大きな建物に入って行く。
「こんにちは〜。」
そう呑気に受付に居た人に挨拶をするアルゴン。
呑気に出来るの状況では無い。
「いらっしゃいませ。 本日はどのようなご要件でしょうか?」
受付の人は丁寧に言葉を返してくれた。
「ここはカール商会であってる?」
そう聞くアルゴン。
ホントに呑気な感じだ。
さっきまでのアルゴンはホントにどうかしていたのだろう。
「えぇ、そうでございますよ。」
またも丁寧に答えてくれた。
「俺の名は勇者、約剣。 コメスさんと言う執事さんにお会いしたい。」
カール商会ということも確認が取れたのでそう僕は要件を言った。
「失礼ですが、本当に勇者様でしょうか? 何かご確認の取れる物等ございますか?」
そう僕の正体について確認を取ってきた。
まぁ、当たり前の反応だな。
確か…冒険者カードがあったはず。
「コレで?」
僕は冒険者カードを受付の人に見せた。
「…本当に勇者! 申し訳ありませんでした。」
そう言って受付の人は僕にペコリとお辞儀をした。
いや…別に怒って無いんだけど。
「それでは勇者、約剣様。 確認が取れましたので会長室にどうぞ。」
そう言われても…。
「どうやって行くの? ちなみに俺は勇者パーティーのアルゴン。」
そうアルゴンが自己紹介を挟みつつも受付の人に聞いた。
「ご案内しましょうか?」
嬉しい提案をしてくれた。
「では、この階段を登って下さい。」
建物を見るに地球上の歴史だとすれば、古いエレベーターが付いていても良さそうな感じなんだけどな…、歩くのか。
―階段を登りきって。―
「ハァ、ハァ…。 着いた?」
階段を登りきったので頼むから着いて欲しいという願いもありつつ、アルゴンが受付の人に聞いた。
ちなみに受付の人は案内をすると言って、ここまで来てくれた。
コンコン。
受付の人がドアをノックする。
「会長失礼します。 コメス様、お客様です。」
そう言って僕らをそこに置いて受付の人は階段を降りていってしまった。
ここまでありがとう。
ついでに言うと、多分お客様では無い。
「勇者様! お久しぶりでございます。」
そうコメスさんは出迎えてくれた。
会長さんを放ったらかして僕の所に来て良いのか?
「…お久しぶりです。」
僕はそう答えた。
「アァ〜」
そう言って大きな欠伸をするアルゴン。
普段ならシャーロットが失礼だと軽く起こるのだが…。
「本日はどのようなご用事ですか? あれ!? シャーロットさんが居ませんね…。」
そうシャーロットが居ない事に直ぐに気が付いてくれたコメスさん。
話は早そうだな。
「…実はその事で。」
「そうですか…。 場所を変えます?」
そう場所を変えるかと聞いてくれたコメスさん。
別に変える必要は…無いね。
なので首を横に振った。
「実は…シャーロットはアルソフィナ王国に拐われてしまったみたいで…。」
何も隠さずにそう伝えた。
「何と!? それでここへ?」
そう答えるコメスさん。
「はいそうです…色々とあって今はラファルク王国の騎士団とは合流出来ず…。」
「そうですか…一旦、話を整理しましょう。」
そう冷静なコメスさんだ。
てか、カール商会のトップの会長さんがカヤの外だけど…良いの?
「おそらくですけども…アルソフィナ王国によって拐われたのでしたら、奴隷にされるとかは99%無いと考えて良いと思います。」
僕も考えてはいた。
貴族の人達は大体(アニメ知識だけど…。)自分達の下には平民の人達が居て、かなり平民の人達を下に見ているのでさらに奴隷が欲しいとかは無い。
逆に平民の人達は他国に来て奴隷を捕まえるとかをする余裕は無いはず…。
「え、何でそんな事は無いの?」
アルゴンがそう質問した。
「それはですね…」
そうしてコメスさんは大体は僕も考えていたことをアルゴンに説明してくれた。
「…だからです。」
アルゴンは理解をしたようで頷いている。
「助けに行くという事なのでしたら、協力をするつもりです。」
と、コメスさんはとても嬉しい事を言ってくれた。
…カール会長を放っておいて勝手に決めて良いことなのか?
「え!? カールさんに聞かずに決めて良いの?」
そう驚くアルゴン。
「えぇ、大丈夫です。 実はこの商会の本当の会長は私なのです。」
そうとてもヤバい事を急にぶっ込んできた。
「聞いて良いんですか?」
僕が驚きながらそう聞いた。
消されたりしないよな…。
「勇者様ですから。 ですが、他言無用でお願いします。」
勇者様って、凄い称号なんだな〜。
「ですが…良いのですか?」
カール会長…コメスさんが会長って事だから…カール執事さんがそう口を開いた。
「うん?」
そう答えたアルゴン。
僕も何でこのタイミングでそんな事を言って来たのか謎だ。
「いえ…約剣さん、貴方様は勇者様です。 つまりシャーロットさん以外に何万という人が魔王の脅威から助けてくれる貴方様を、勇者様を待っています。」
シャーロット1人を取るか、この世界の人々、何万という人を取るか…。
「…。」
そう僕は固まってしまった。
地球に居たときは何万という人の運命を握った事なんてもちろん無かった。
でも…シャーロットは大切な仲間だし…。
「勇者様、良いですか。」
と、固まった僕を見てコメスさんが口を開いた。
「約剣さん、貴方は勇者様です。 でもその前に1人の冒険者であり、1人の人です。 世界のために命懸けで魔王と戦うのです。 その前に1つワガママを言っても良いと思いますよ。 シャーロットさんを迎えに行ってもバチは当たりません。」
そう優しい声で。
僕よりも長い時間を過ごして色々な経験をしたんだなと分かる言葉だった。
「シャーロットを助けに行く!」
そう宣言した。
「そうですか。 では、私は出来る事全てを協力しましょう。」
そう僕の宣言に優しく答えてくれたコメスさんだった。




