第12話「勇者、バーベキューをする。」
「約剣さん、何とかして下さいよ。」
そう走りながら言ったのはシャーロットだ。
「いやふざけんなよ。 お前のせいで追っかけられてるんだからな! 詠唱の時間も無いし。」
僕はこう答えた。
結構大きな声でこれらの会話をしているため、4番隊の人達も多少は聞こえているかもしれない。
が、4番隊の人達も頑張って逃げているためそこまで聞いてはいないと思う。
この隊の男性陣はお風呂を覗きに行くような奴らなので…勇者の威厳とかはこの人達なら別にね…。
「じゃあ、ベルガさん達は?」
僕は無理だと分かりベルガさん達にそう言い出したシャーロット。
「この隊は戦闘はちょっと難しいです!」
答えたのは騎士の1人だ。
お前、騎士だろ。
そんなに戦闘出来ないことを堂々と言うなよ…。
ホントに威厳の無い人の多い騎士団の部隊である。
「じゃあアルゴン!」
もっと無理だろ。
シャーロットがそんな事を言うが、アルゴンは黙って逃げている。
何でこんな事になったのかは実に簡単だ。
シャーロットが少し離れて多分芝刈りに(おしっこに)行って、走りながらこの大きなモンスター(例えるのならかなり大きな水牛だ)に追われながら戻ってきた。
要するに原因はシャーロットだ。
戦闘は出来ないくせに何かモンスターに対しての警戒が浅いんだよなシャーロットって…。
「逃げて〜」
そう言いながらシャーロットが走ってコッチに逃げてきたときは
「何でコッチに来るんだよ!?」
と、アルゴンが最もなツッコミを入れていた。
まぁ、もうそんな事はいいや…。
「じゃあ、シャーロットそのまま標的に…オトリになってくれ!」
シャーロットに「アルゴン何とかしろ」と言われたアルゴンがそう言った。
久しぶりにシャーロットのオトリ作戦らしい。
アルさん達、5番隊と一緒に居たときは完全に戦闘は全て5番隊に任せていたのでシャーロットのオトリ作戦とかはもちろんやらなかった。
が、4番隊は戦闘は基本的に出来ないということで戦闘での作戦は全てアルゴンが立てる事になっていた。
もちろん、シャーロットは止めたのだが…。
「「オトリ!?」」
ビックリした声を出したのはシャーロットとベルガさんだ。
4番隊と冒険をし始めてコレがモンスターとの初戦闘、つまりシャーロットのオトリ戦法も初披露なのでベルガさんは「正気ですか?」という顔をしている。
他の騎士の人達はそんな事よりも必死に逃げている。
「うひゃー!!」
何だかんだ言いながらもシャーロットは声を出してモンスターのオトリになり始めた。
「約剣、ファイヤーボールだ! 4番隊の人達は…まぁいいや。」
そう言ってやっぱり手際良く指示を出すアルゴン。
少ししてシャーロットが方向転換をしてコッチに戻って来る。
「約剣さん、お願いします!」
そう泣き目で言うシャーロット。
「炎よ、俺に力を貸したまえ、ファイヤーボール!!」
ボワッ。
僕は詠唱をサッサと済ませてファイヤーボールを放った。
「ギャー」
そう言って倒れるモンスター。
そのモンスターは灰にはならずに原型を留めて動かなくなった。
倒せたかな?
「何か…いつもより炎、強くなかったですか?」
そうつぶやいたシャーロット。
それは僕もかなりの疑問なので答えられない。
「私達魔法使いは詠唱に込められている言葉によって強さが違かったりしますよ。」
シャーロットのつぶやきを聞いていたベルガさんが言った。
「言葉が違うと効果が違ったりするんですか?」
そうシャーロットの事では無いが、かなり聞いている。
「簡単に言ってしまうとそうですね。」
…。
そんな事で魔法の強さは変わるの?
マジで?
かなりの疑問が解けた瞬間だった。
「ベルガ隊長、このモンスターどうしますか?」
そうベルガさんに聞いたのは騎士の1人だ。
「女神様教では倒してしまった命は食べることになっているので…食べましょう!」
そう答えるベルガさん。
「了解です…。」
そう言いつつも騎士団の人達はどうにかして食べる準備を始めた。
多分、慣れているのだろう。
騎士団を横目にシャーロットは戸惑い始めた。
「え!? こ、これ食べるのですか…?」
シャーロットはかなり戸惑っているが、騎士団の人達は無反応でフライパンをリュックから取り出している。
「ベルガ隊長、バーベキューはどうですか?」
そう聞く騎士の人。
バーベキュー…この世界にもあるのか!
「何でお肉を焼くつもりですか?」
確かに大きなお肉を焼く物は無い。
バーベキューでは無く普通のお肉パーティーになりそうだけど…。
「ここにある大きな石を鉄板代わりに使う予定です!」
そう答えた騎士の人(多分だけど、この隊の料理担当の人なのだろう)。
「では、バーベキューにじますか!」
そう答えたベルガさんの後に
「「やったー!!」」
と騎士団全体で喜ぶ声が聞こえた。
ちなみに、シャーロットはまだ戸惑っている。
この騎士団のテンションは、温泉を覗きに行く前の男性陣のテンションに似ている感じだ。
「では約剣さん、それで問題は無いですか?」
何故かここで僕に質問をしてきたベルガさん。
雰囲気的には「ノー」とは答えられない感じだ。
別に断る気持ちも無いけど。
「あぁ、別に問題ない。」
僕がそう答えるなり、僕の答えを待っていたらしく騎士団の人達は
「では、準備は私達がやりますね。」
そう言ってくれた。
少し経ってから、
「勇者様、準備が出来ましたよ。」
そう言ってくるベルガさん。
だから何でそれを僕に報告するの?
「このモンスターを倒したのは勇者様ですし、挨拶をお願いします。」
そういう事ね。
要は乾杯の挨拶をしてくれということだ。
さて、困った。
乾杯の挨拶等をこの厨二病キャラ…勇者キャラでしたことはこの世界でも日本でも無かった。
―少し沈黙が続く―
この沈黙、辞めて欲しい。
「では…ひと先ず、ここまでの旅路、御苦労だった。そして、今宵はこのバーベキューパーティーと洒落もうではないか!! カンパイ!」
そう挨拶をした。
「「カンパ〜イ!!」」
そう皆言ってくれた。
この世界にもカンパイの掛け声があって良かった。
アニメとかの異世界によっては無い所もあって…無かったとしたらメチャクチャ恥ずい事になっちゃってたからな…。
まぁ、いいや。
今はしっかりこのバーベキューを楽しもう!
「勇者様はやっぱり凄かったですね!」
そんな声もバーベキュー中に聞こえてくる。
「当たり前ですよ。あの女神様のお選びになった勇者様ですからね。」
そうお酒は入って…無くてもベルガさんはあんなテンションだな…。
ベルガさんが僕と言うよりは女神様を褒めるように答えた。
「勇者様…モンスターから逃げているときは結構楽しそうでしたね。」
そうお酒が入っているのか、普段なら騎士団の人達からは出てこなそうな会話も聞こえる。
「そうですね。本当はあの様な、結構色々な物を楽しむ人なのかもですね〜。」
…僕はモンスターから逃げるのを楽しんでたのか?
いや、命もかかっていたからそんな事は…。
でも…頑張って勇者を演じるよりはシャーロット、アルゴンと自由に冒険していたほうが…。
そんなこんなで否定は出来なかった。
僕は少し悩み混んでたりもしていたが、バーベキューは楽しい雰囲気でお酒も入っていた事もあり皆(騎士団の人達)かなり僕に話しかけてくれた事もあり僕も結構騎士団の人達と話しをしていた。(僕はお酒は飲んでいない。)
陰キャの人って(僕も含めて)…人から話し掛けてもらえると結構話せるんだよな。
自分からは行けないけど…。
「勇者様、おはようございます。」
そう言って起こしに来てくれたのはシャーロットでもアルゴンでも無く、騎士団の人だった。
昨日のでかなり距離が縮まったな。
でも、クメシアルでお別れなんだよな…。
「今日は少し歩いて行くと馬車乗り場に着くはずです。そこで馬車に乗れれば、明日の朝にはクメシアルに着く予定です。」
そうテントから出るとベルガさんが説明をしてくれた。
テント等を全て片付け終わった時に
「では、出発しましょう!」
そうベルガさんが言ってその場を後にした。




