第1話「かなり調子に乗る。」
コンコン。
朝、僕は既に起きていて出かける支度をしている時にそんな風にドアが鳴った。
多分、シャーロットが僕の事を起こしに来た音だろう。
まぁ今日は既に起きているんですけど。
「はーい。」
シャーロットにいちいち部屋に入られるのも嫌なので、僕はそう返事をした。
「起きていましたか。」
僕の返事を聞いたシャーロットはドアを開けずにそうとだけ言い、続けて
「失礼ですが、昨日貴方は話を聞いていなかった様に見えたので今日の集合時間を伝えておきますね。9時に門の所に集合ですよ!」
シャーロットはそう僕に集合時間を教えてくれた。
話を聞いていない様に見えてしまってしたのか…。
実際、確かに昨日はほとんど話を聞こえていなかったけど…失礼な奴だと思われたか?
アルさん達に最後の最後に悪い印象で別れてしまった事になるな…。
…うん!切り替えよう。
今はまだ7時なので、まだ2時間も時間があるのか。
でもそれぐらいだったら直ぐに過ぎてしまいそうだ。
って事で朝ご飯を取ることにした。
今日は皆別々の時間に朝食を取ったらしく、僕が食堂に行くとアルゴンからはもシャーロットも居なかった。
今日はこの宿ラストのご飯ということで、まだ僕らのパーティー内で誰も食べていなかったD定食を注文。
注文してから少しすると料理が来て、食べた感想は「一言、美味しい。」だった。
―少し時間が経って―
「集合場所に行きましょうか!」
僕が部屋でノンビリしていると、廊下からシャーロットの叫び声が聞こえた。
おそらくシャーロットが叫んだ理由としては、いちいち僕とアルゴンの部屋に一回づつ入るのが面倒くさくなったからだろう。
ちなみに、この宿の2階には僕達3人しか泊まって居なかったので「他のお客様の迷惑になりますので…」とかはない。
僕は腕時計を見て時間は分かっていたのですんなり、アルゴンもシャーロットに呼ばれてから意外と早く出て来たのだった。
「ベルガさんって…どんな人?」
支度を終えて部屋から出て来たアルゴンはシャーロットにそう質問。
もちろんの事、昨日アルゴンはヘルガさんについての説明を聞いていなかったのだろう。
「う〜ん、そうですね…。」
シャーロットはアルゴンにベルガさんについてなんて言うのが正解かを考えている感じ。
「70歳を超えているお爺さんです。」と直接そのまんま伝えたらアルゴンなら少しパニックになりそうだしで、答えるのはかなり難しそうだ。
「昨日ベルガさんが今日詳しく自己紹介をしてくれると言っていたので、その時に本人から聞いてください。」
結局シャーロットはそう説明を面倒くさがったのだった。
僕らが門の所に行くと、既に4番隊の人達は集まっており、それを見たシャーロットは僕らに
「多分皆さんもう集まってますね。」
そう適当な感情で言った。
人は居るって誰もが分かるけど、とりあえず言うみたいな空気感だったのだろう。
そして僕らが騎士団の人達が見えた場所から少し歩くと、騎士団の人達も僕達が来たのに気付いた様だった。
「おはようございます。 勇者様。」
門に着くと、優しい感じの声でベルガさんがそう僕に挨拶をしてくれる。
「…ねぇ、お爺さんが居るんだけど?」
騎士団の人達の中の1人のお爺さんが僕に挨拶をした事で、アルゴンがそんな感じに少し騒ぎ出した。
やっぱりベルガさんがお爺さんという事にパニックった様子のアルゴン。
だがアルゴンの失礼極まりないこの行動に、ベルガさんは優しい声で
「はい。 まぁそうですねお爺さんです。」
と、一言。
流石は年の功とでも言うのだろうな、シャーロットはアルゴンを睨んでいたがそれすらも止めさせたベルガさんは流石の一言だけだった。
「いやいや、何で開き直ってるの?」
ベルガさんの言葉を聞いても落ち着かないアルゴンは、本当に何も分かっていない様な感じでそう言う。
アルゴン君、開き直るって一体全体何を言っているんだよ。
意味が全く分からないアルゴンの言葉である。
アルゴンのパニック事件があってから少し経ってつと、
「改めて自己紹介をします! 4番隊、隊長のベルガです。」
そうベルガさんがやっぱり優しい声で話し始めた。
話すスピード感は結構ゆっくりで。
「え、隊長? え!?」
「私はシャーロットと言います。」
「え!?」とか言ってメチャクチャ戸惑っているアルゴンをガン無視してシャーロットはそう挨拶した。
なので僕もシャーロットを見習い、アルゴンをガン無視して
「あぁ、よろしく頼む。 俺は勇者の約剣。 少女に…女神様に呼ばれて世界を救いに来た!!」
ドン!!
そんな感じに久しぶりに厨二病ポーズを出した。
コミュ症の僕でもお爺さんなら大丈夫!とかは全くないのである。
僕は性別、年齢、性格など、そんな物全く関係がなく、ジェンダーレス完璧野郎なのだ!
つまり、何をどう対応したら良いのか分からないので厨二病ポーズから入ってしまっただけという事。
騎士団の人達は何も言わないで少しスベってしまった空気感が出始めようとした時だった。
「おぉ〜勇者様! 素晴らしいですね。」
そうベルガさんが何が素晴らしいのかは分からないが、褒めてくれたのだ。
「女神様のお導きがあったんですね。 非常に羨ましいです。」
さらにベルガさんは女神様についても少し反応。
昨日、僧侶とアルさんが言ってたけど、役職通りに結構しっかり女神様を敬愛している人なのだろうと僕は思った。
そして互いの自己紹介が軽く終わった後にシャーロットは
「ベルガさんって約剣さんと同じで魔法使い何でしたよね。」
そうきいた。
「はい…簡単な魔法なら使えますよ。 勇者様には全く勝てないと思いますがね。」
シャーロットの質問に少し笑いながら答えるベルガさん。
ベルガさんはそう言っているが、異世界に来て1ヶ月の僕が騎士団の隊長のベルガさんよりも強い魔法が使えるとは思えないけどね…。
「流石にアルゴンさん、切り替えて下さい。」
ついに、さっきからずっと絶望した顔で居たアルゴンにシャーロットがそう突っ込んだ。
シャーロットが突っ込んだのはかなり遅かったのは事実だけど、アルゴンはいつまで絶望してんだよ!
そんな感じに昨日の夜の自分のことは棚に上げまくった約剣だった。
「約剣さん、行きましょうか。」
また少しするとベルガさんが僕にそう言って、そして僕達3人と4番隊の人達は門を出発した。
いつも通り出発前に僕は厨二病挨拶をする事になったのだが、いつも通りの挨拶をしただけだったので、割愛である。
アルさん達5番隊の皆とタウンに来たときの道は軽く舗装がされてあったが、ベルガさん達に連れられ僕らはその道とは反対方向へ森の中を進んで行った。
毎回何で森を通るんだよ?
「アルさんから勇者様は素晴らしい魔法がお使えになると伺っておりますよ。」
また少しすると、ベルガさんはそう僕にきいてきた。
そして何故か4番隊の皆も興味津々に僕の方を見てくる。
なのでかなり皆からの目線も集まり「Yes」と答えるしかない状況。
「あぁ、当たり前だ!!」
やっぱり耐えられなくなった僕はそう答え、厨二病ポーズをした。
やっぱり厨二病ポーズよりも、皆の視線が向けられている方が僕には辛いのだ。
「誠に凄い事ですね。」
そう調子に乗させるかのごとく言ってくるベルガさん。
ベルガさん、貴方も使えるんでしょ…。
まぁだが、乗させられるがままに、(地球ではかなりの陰キャでコミュ症だった僕は人に褒められた経験とかも対してあるわけではなく)かなり舞い上がってしまうのだ。
「そう言えば、モンスターが全然寄って来ないんですけどこれも勇者様の能力ですか?」
そう騎士団の誰かが僕にきいた。
そのせいで皆の目線が僕に向いてしまう。
「…無論、俺のスーパーオーラが出ているからな!!」
やっぱり僕は耐えられなくなり、そう答えてしまった。
シャーロットと、アルゴンは「…」。
ホントにこんな感じで僕のことを見つめている。
ちなみに、もちろん、コレは僕の力でも何でもなくてタウンで買った時計の能力だ。
「やっぱり、流石です! 元々、勇者様は最近に別の世界からいらっしゃったのですよね。」
急にベルガさんが話す内容を変えるかの様にそうきいてきた。
変えてくれたのは、僕が適当に厨二病セリフを言った事に対してはベルガさん以外の騎士団の人からの反応は微妙だったからだろう。
「ドラゴンとの戦闘もあるんだとか。」
ベルガさんに続いて騎士団の誰かがきいた。
「はい、そうですね!」
そう自信満々に答えたのはシャーロットだった。
…なんでシャーロットはこう自信満々に答えれるんだよ。
戦闘っていうか逃げてただけだし…。
まぁ、その後もそんな感じで質問ラッシュが続いた。
質問ラッシュが落ち着いた頃合いを見ていたベルガさんは、
「流石は勇者様って感じですね。 実は、この4番隊は戦闘がそこまで得意な部隊ではないんですよ。 基本的に専門は回復でして。 そこで、勇者様に僭越なんですけど、戦闘をお願いしたくてですね。」
そう言ってきた。
「当たり前ですよ!!」
直前の会話でべた褒めされていい気分になっていて、ちゃんと話を聞いていなかったシャーロットはそう自信満々に言った。
「良かったです。」
シャーロットの答えを聞けて安心したと言わんばかりのベルガさん。
「…へぇ!?」
ベルガさんの顔を見て冷静になったであろうシャーロットは「あれ…」って感じになっている。
「はぁ?」という感じに怒りが混ざった感情の僕とアルゴン。
こうして返事をしてしまったシャーロットを恨み、アルさんが退治いてくれたミノタウロスみたいなのが出たら…と絶望しか感じていなかった僕である。
アルさんみたいにベルガさんがさっそうと倒してくれるとは悪いけど思えないし…。
逆に70歳超えのベルガさんがさっそうと倒したらそれはそれで恐怖だろう。
褒められまくって気分が上がり、皆少し調子に乗ってしまったのだった。




