第9話「買い物をする。」
「では、行きましょう。」
アルゴンが2階に行ってしまうと、シャーロットは宿のドアを開けてそう言った。
シャーロットが時計屋さんの場所を知っているような感じだったので僕はシャーロットの後ろに付いて歩く。
「で…どこにあるんですか?」
宿を出てから少し歩くと、シャーロットが振り向いて僕に言った。
いや、タウン初上陸の僕が知るかよ…。
「知らないの?」
僕がきくと、シャーロットは「うっかりしてました。」と返事をする。
さぁ、どうするか。
アルさんも今日は用事があるらしいから頼れない。
アルゴンはもちろん知らないだろうし、知ってたとしてもどうせもう寝ているだろう。
「まぁ、門の所に居る騎士の人にきいてみましょう!」
僕がどうするか立ち止まって居ると、シャーロットはそう言ってガシッと僕の手を掴んで門へ走って行く。
「え!? ちょ…。」
あまりに急に掴まれたために僕は反応できなく一緒になって走らされた。
反応できなかったというか、抵抗はしただがシャーロットはかなり力が強かったのだ。
そうしてシャーロットと強制的に走り、門にまで行った。
「こんにちは。」
門に着くなり検問をしていた人に挨拶をするシャーロット。
検問待ちの人数は少なかったから問題にならなかったが…多かったら公務執行妨害的なやつになっていたかもしれない。
「はい、こんにちは…失礼しました。 おはようございます勇者様にシャーロット様。」
僕的には普通に軽い挨拶で良かったが、門番的な騎士の人はそんな改まって尊敬のような眼差しで挨拶をしてくる。
「いや、別に様とか…。」そう若干引き気味な僕とは反対にシャーロットは、
「ふ〜ん。 そう、シャーロット様ですよ~。 ちゃんと尊敬されているようですね!」
調子に乗って僕に話しかけてきたのだ。
僕も「勇者様」と言われたので自慢にはならないが…何故かとても尊敬されている事に自慢げなシャーロットだった。
「ところで、私達に名かご用ですか?」
シャーロットの自慢げなトークが収まるとシャーロットの話が終わるのを待っていたかのように、門番の人が僕らに(特に尊敬されたと嬉しがっているシャーロットに)きいてくる。
「そうでしたね。 え〜と…タウンで有名な腕時計屋さんの場所なんか知らないですか?」
あまりに「シャーロット様」と尊敬されたのが嬉しかったのか、本題を一瞬忘れていたシャーロットであった。
「え〜そうですね、有名な腕時計屋さんなら…この大通りを中心街の方へ少し行った所にあったと思いますよ。」
身振り手振りのような感じながらも門番の人は丁寧にそう説明をしてくれる。
「あれ!?」
場所を聞いたシャーロットはそう言うと、僕とは顔を合わせないようにそっぽを向いた。
中心街の方と言うと、僕ら(僕とシャーロットとアルゴン)3人が泊まっている宿の方向だ。
つまり、僕らは宿の方へまた戻らないといけないという事になる。
「そ、そうですか。 ありがとうございます♪」
まだ僕とは顔を合わせないようにしながらシャーロットは門番に言ってさっさと門から離れていく。
僕はシャーロットを逃がすかと門番さんにペコっとだけしてさっさとその場を離れて走ると、先を歩くシャーロットに追い着いた。
「…。」
追いついた僕はシャーロットの顔を見ると、シャーロットは沈黙を貫く。
「…おい。 ねぇ、シャーロット!?」
早とちりして無駄な時間を使わせた事に対して何かないのかと僕はシャーロットに少し圧を掛ける。
無言の圧力ってやつをだ。
「まぁまぁ、落ち着いて下さいよ〜そんな事よりも、ムギュッ!?」
シャーロットが口を開くと何か言い訳を始めたので、僕は軽く口を掴む。
勝手に付いて来たあげく、走らせては戻らせてをして何か言い訳を話そうとしていたからだ。
すると、
「…すみませんでした!!」
そうシャーロットは土下座するような勢いで謝ってきたので、その後は仲良く教えてもらった時計屋さんに向かった。
少し歩くと、直ぐに時計屋さんには着いた。
門から宿に行くよりも門から時計屋までの距離は近かったのだ。
のぼり旗も出ていたようだが全くシャーロットが気づかなかったのは、シャーロットはそんな事気にせずに、門へ直進したからだ。
教えてもらった時計屋さんは大きすぎず小さすぎず、本当に有名な時計屋さんなのかと思ってしまうほどな少し古い建物だった。
「入りましょうか!」
時計屋さんの前に着くとシャーロットはテンション高く調子良くそう言ってドアを開けた。
カランカラン。
「いらっしゃいませ。」
僕らがお店の中に入ると鈴の音が鳴り、ヒゲを生やしたお爺さんが迎えてくれた。
店に入ってまず思ったのは、迎えてくれたのは体格は少しお腹が出ていて身長は僕と同じくらいで眼鏡をかけた人。
つまり、出迎えてくれたのは親方さんって感じの人って事だ。
次にお店のガラスケースを見ると、場違いだと思ってしまった。
「凄くキラキラしてますね〜。」
何か適当な感じにシャーロットは言ったが…その通り。
宝石が付いていてキラキラした時計がいっぱいだったのだ。
見た感じ、地球で買うとしたら300万円は少なくても必要そうな時計だらけ。
「こんにちは、どのような時計をお探しで?」
店主さんがキラキラの時計を見て戸惑っていた僕に声をかけてくれる。
「冒険に使えそうなやつとかってあるか?」
僕は少しモジモジしながらきいた。
モジモジしていたのはここには冒険者なんかは買いに来ない。
ようは貴族なんかが買いに来そうな物ばかりで、言ってる事が場違いだとビビってしまっているからである。
店員さんと話してるけど、「コミュ症はどうしたの?」という質問はしないでほしい。
流石に、僕の事を全く知らなそうなお店の店員さんくらいなら普通に話せる。
僕の事を全く知らなそうな人の前で厨二病をやってろ、僕の事を知っている人よりも僕を見る視線は凄いことになるぞ…。
ちなみにいつも僕と変わって積極的に店員さんに話しかけるシャーロットは、ずっとキラキラしている時計を見ている。
「冒険に使えそうなやつですか、そうですね…こちらに来てください。」
この店に冒険に使えそうなやつはなさそうだと思ったが、店主さんは僕にきかれてから直ぐにそう言った。
店主さんの反応的に…調子に乗ってブランド店に来てから値段を見て去って行く人のような恥は欠いていない!
「これらの種類の腕時計は冒険者様でも良く使われていますよ。」
店員さんは入口から少し離れたガラスケースの前まで僕を案内してくれた。
確かに入口に置いてあった時計とは違ってキラキラしていない。
それで、問題の値段は…。
「こちらの時計は大体150万ピソくらいですかね。」
ピソは確か日本の円と価値は同じくらいだったから…かなり高い時計だ。
日本の高校生が持って良い時計の値段ではない。
でも、国王様からは確か4000万ペソくらい貰っていたんだよな。
ならこの値段の時計なら買ってもいい気がする。
…いやいや、流石に高い。
そんな葛藤が僕の頭の中で起こっていた時に、
「丁度良いくらいの値段ですね〜。」
シャーロット横に来てがそう言う。
「…高くない?」
シャーロットは「丁度良い」言ったが、普通にかなり高い。
本当にシャーロットはそう思っているのか気になってそうきいた。
「腕時計は作るのがとても大変なので…どんなに安くても100万ペソはしますよ。 なので一般的にそこまで普及してません。 大抵の家庭には大きい時計があるか、街の広場に設置されている時計を見ますね。」
シャーロットは「丁度良い」と言った根拠をスラスラと語っていく。
本心で「丁度良い」と言ったっぽいな…マジか。
「腕時計は冒険者ですと…Bランクの方ですと大体の人は持ってますね。 Cランクでも持っている人はいますよ。」
シャーロットは僕らの目の前に商品棚の中の時計をみながらそう言っているが、どうしよう…。
お金は沢山持っているし勇者様っていう称号もあるけど…冒険者ランクとしては下から2番目のEランクでシャーロットの説明した人達には全く当てはまらないんだよな。
まぁでも…買うか!
僕はシャーロットの説明が終わってから少し考えてそう答えを出した。
「え〜と、この中でオススメとかありますか?」
この辺のは大体150万ピソと言われたが、見た目がかなり違う物ばかりである。
地球でもこんなに高い時計は持っていなかったし、僕はブランド品全般には疎い。
なのでとりあえず、店主さんのオススメをきいた。
「こちらの時計はどうですか?」
そう言って店主さんが指したのは地球で言う所のアウトドアウォッチの様な見た目の物。
作りは全て金属っぽく、確かに冒険に向いていそうな感じの時計だった。
「お値段は120万ピソですね。」
値段的にはかなりのお手頃価格であり、安い。
安いけど…地球の有名人達は高級な時計などを装着して存在感や威厳を出していた。
僕は見た目では存在感や威厳は出なそうなので、有名同様に着けている物では出していきたい。
「この中で一番最初高いのはどれですか?」
僕が値段か威厳かを悩んでいると、シャーロットがそう店主さんに質問した。
「この目の前に並んでいる中でいちばん高価なものは、これですね。」
そう店員さんが指した物はそんなにゴツい訳でもなく、キラキラしているわけでもない物。
作りは初めに店員さんが言ったオススメの時計と似ているけど、何が違うんだろう?
「コレは400万ピソですね。」
店員さんは時計を見ながらそう言った。
400万ピソ…オススメされた時計の3倍以上の値段じゃないか!?
「値段はかなり違いますけども、何がそんなに違うのでしょう?」
シャーロットは興味ありそうにさらに質門を続ける。
「まず、方位が分かることですね。 冒険者の方は時計とは別で少し大っきい方位磁針を持っていますかみ、その必要がなくなります。」
店主さんは冒険者がこの時計を持つメリットを分かりやすく解説し始めてくれた。
冒険者は方位磁針を持って冒険に出るのか…。
いやいや、僕は方位磁針を持ってクエストに行ったことはないんだけど!?
ていうか、荷物持ちのシャーロットが使っているのも見たことがないんだけど…。
「1番の理由としてはこの時計に使われている金属ですね。」
金属が違う…。
時計によく使われるステンレスなんかよりもメチャクチャ軽いとか?
「使われている金属の名前がステールトと言いまして、特殊なパワーでゴブリンやイノシシ的なレベルのモンスターなら寄って来なくなります。」
ステールト…地球にはなくて、この世界固有の鉱石だろう。
メチャクチャ良い効果じゃん。
その程度のモンスターなら大した問題じゃないけど、群れで来るやつは魔法を使える僕が相手はすることになっちゃうし…。
弱い事がバレたくない僕にはピッタリな効果じゃないか!
「コレと同じ素材のヤツはなりませんか?」
流石に高かったので、僕はそうきいてみた。
「350万ピソで方位磁針が付いていないのでしたらございますよ。」
方位磁針がなくてマイナス50万…じゃあそれで良いかも。
方位磁針は持ってなくても、クエストを受けてスモールシティに戻れていた訳だし。
「じゃあ、それ見せて下さい。」
僕がそうお願いをすると、店主さんはガラスケースからその時計を取り出して見せてくれた。
「腕に付けてみますか?」
僕が熱心に時計を見ていたことを見た店主さんはそう言ってくれる。
僕はもちろんお願いした。
「うおっ。」
腕に着けてみるとかなり重くてそんな声が出た。
少なくとも200g程度はありそうである。
けっこう使いづらいかもしんない…が、弱いモンスターが寄って来なくなるってのは凄く魅力的なんだよな…。
「買えば良いじゃないですか。 重くたって約剣さんは後方支援なんですし。」
さらっとシャーロットがそう発言。
その発言を聞いた僕は一言、「シャーロット、天才か!?」と思いった。
そして、魔法使は基本的にはそんなに早く動く必要がないと言う事が思い出せたので
「コレにします!!」
そう言って、シャーロットの何気無い言葉もあり350万ピソの時計を買うことにしたのだった。
ちなみに、この時計を買った事によりまた変な誤解を生んでしまう事になるのだが…この時はまだ知らない事だ。
僕はお会計が終わったので外に出ると
「約剣さん、買ってしまいましたね。」
シャーロットにそう言われた。
「〜しちゃった」って、勧めたのはお前じゃん…。(よく考えれば良いと言っていただけで、勧めてはいなかったけど…。)
「時計は買い終わりましたけど、この後どうしますか?」
シャーロットはそんな感じにパーティーメンバーが高い買い物したのに無断着な感じだった。
ちなみに質問の答えは、僕はこの後市場かどっかで食べ歩きをする予定である。
「市場で食べ歩きでもする予定だけど。」
そうシャーロットに言うと
「ではまた付いていきますね。」
シャーロットからはそう返ってきたのだった。
いや、何で?
食べ歩きって普通は1人で行くものだから。(陰キャ的には)
でもまぁ、シャーロットの何気無い一言でこの時計に決めたわけだし…。
「オッケー。」
僕は後方支援と言うことを思い出させてくれた感謝も込めてオッケーを出し、なんだかんだ食べ物は全て奢ったのだった。
お腹が膨れたし、けっこうな時間になっていたので僕らは宿に戻った。
ガチャ。
ドアを開けてフロントに入ると
「よう! お前ら。 もう夜ご飯の時間は終わっちゃったぜ…。」
アルゴンにばったりあってそうそう言われた。
僕はまぁ、別に食べ歩きで結構食べてきたので別に何も問題はない。
「別に問題ないですよ。」
シャーロットが僕の気持ちを代弁するよう考えそのままアルゴンに言うと、別にアルゴンも僕らに報告しただけでそこまで興味はなかったらしいく、皆2階へ上がった。
部屋に戻った後は、明日は何で集まるんだと少し考えているといつの間にか寝ていたのだ。
朝僕はしっかりと起きたがアルゴンは毎度の事起きていなく、昨日と同じくだりをしてからご飯を食べてギルドの前に行った。
時間はもちろん昨日買った腕時計で確認してだ。
僕らがギルドの前に着くと、既にもうアルさん達は来ており僕らを待っている状態だった。
「集まりましたね。 今日はタウンに来た目的でもある古い遺跡に行きます。」
そうアルさんが行ったことで僕らはその場所に向かい歩き出した。
昨日は完全に忘れていたけど…タウンに来た目的って伝説の武器とかで来たんだったな。
古い遺跡か…。
そんな所でメチャクチャ強そうなゴーレムとかと戦闘なんて、アニメみたいな展開はないよね?




